繚乱のドラグレギス
第二節<シュラマナ旅団> 苦行に努める者
トラックのコンテナの中に入り込み、ひとつの電球が照らす中にシュラマナの面々が座っていた。
冷たくごつごつした床にアギはまた不満をもらしそうだったが隣のアリサがさも当然のようなので言うに言えなかった。
その中でリカオンが一人立ち、液晶端末を片手に確認しながらメンバーに言い聞かせた。
「言い合わせ通り、この移動の間にひと仕事していく」
すると静かで従順だった印象のメンバーから雄たけびが上がり、一瞬騒然となったが続くリカオンの言葉ですぐに静かになった。
「何度も言うが資金調達には丁度いいが前回同様、怪我人死人は覚悟しておけ」
怪我人、死人?
ぎょっとしたアギだが、その言葉を静かに聞いているシュラマナの面々、そしてアリサの表情を疑ってアギは口をつぐんだ。
まるで狼の群、狼の狩りだな。
アギはそう思いながらシュラマナがただの反政府運動活動家でないことを改めて認識する。
リカオンが腰に武器を持っていることから覚悟はしていたが、彼らはそれなりの被害を起こして政府にあらがっている暴力的な集団なのだ。
しかしその統率された姿を見て、アギは嫌悪を抱かなかった。
「メッセンジャーからついさっき連絡があった。所定の時刻より少し早まったらしい。
到着次第、作戦開始に移る」
「了解!」
「行動開始まで各自、体力温存に努めろ。以上だ」
さっとリカオンから視線が引いてそれぞれが丸まったり寝転がったり、または作戦とやらの再確認を行ったりとし始める。
少しのざわつき、少しの静寂の妙なバランスの中、リカオンは並んで座ったアギとアリサの正面にどっかりと胡坐をかいた。
「で、アギ。お前はどうする」
「どうする、って……?」
「俺たちの作戦に参加するか? 言っておくが銃弾が飛びまわる中で怖い軍人さんたちと追っかけっこするんだ。
楽しかねぇし、下手打てば死ぬかもしんねぇ」
「……人を殺しに行くのか?」
「そうしないわけにいかないだろうな。ただ、目的は人殺しじゃねぇ。人助けだ。
これから向かうテラ軍のサーダナ研究所で行われている研究をぶっ壊しに行く、そんでもってその研究材料にされている捕虜を解放する」
「捕虜……?」
「モルガニーズもいるかもしれないな。わかんねぇけど。
俺たちの仲間も捕まってるかも知れねぇ、その望みをかけて今回はちょっとばかしあぶねぇヤマ踏むことになったんだ。
お前には関係のない人間の敵討ちになるかもしれねぇが、どうする?」
「…………」
じっとリカオンの目を覗き込みながらアギは考え、そしてすぐに気持ちに従った。
「モルガニーズがいるなら助けたい」
「それでこそ男だ」
テンポ良く返したリカオンは拳をアギの肩に押し付ける。
そして手を解いて肩に乗せた。
「シュラマナへようこそ」
その言葉を聞いて、アギはようやく思い出した。
シュラマナ――苦行に努める者。
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