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繚乱のドラグレギス
第六節<空飛ぶ街> 焦燥だけが
 コンテナの中に入り込むと薄暗闇の中で相変わらずブラフマーが窮屈そうに膝を折っている。
 アギが近づくと胸部のシャッターは自動的に開いて彼を招き入れた。
 お前も行かなくてはならないことを分かっているのか。
 内心でブラフマーに呼びかけ、アギは操縦席に乗り込もうと白い機体に足をかけた。

「待って、アギ!」

 振り向くとアリサが青い顔をしながらコンテナに乗り込んでくるなりアギの背中に抱きつく。
 ぐっと胴に力を込められてそれだけで彼女が自分を止めようとしているのがわかった。

「行っちゃダメ! 商業船にはちゃんと迎撃システムがあるから部屋でじっとしていればやりすごせるよ!
 あいつらの狙いはブラフマーかもしれないでしょ、アギだって無事で済まないかもしれないじゃない!
 お願い、行かないで……!」

 腹の前で組み合わさった彼女の指にさらにぐっと力がこもる。
 人肌の心地よさと震えの不安感が背中から伝わって、アギは逡巡した末にまだ足元を震わす振動で我に返った。
 アリサの手の上に手を乗せて握り返すと、アギは重心を前へと進ませた。

「だめ……!」

「放してくれ、アリサ。俺、戦わないといけないんだ」

「そんなのいい、アギが行くことないよ!」

「行かないといけないんだ!」

 急に言葉を爆ぜさせたアギにアリサは驚き、組んだ指を解いてしまう。
 アギは振り返らずにひらりとブラフマーの操縦席に入ると、視線の通ったアリサに頷いた。

「そんな顔似あわないぞ。必ず戻るから」

「……アギ」

 凛とした表情をしたままシャッターが閉まり、ブラフマーがコンテナから出る。
 倉庫の隅では外との外壁を開く為、壁に埋め込まれた接続端子にフォンパッドを繋げたリカオンの姿があった。

「アギ、そいつ飛べんのか?」

「ああ、なんかそれっぽい名前のが――」

 そこでブラフマーが急にふわりと浮遊する。
 超振動システムと磁場反動システムが用いられているのか、ジェット噴射音はなく、代わりに獣が唸るような音が響いた。

「お前の順応性には本当に驚かされるぜ。よし、行け!」

 リカオンがさらにフォンパッドを操作すると、鋼の門が重苦しい音を放ちながら口を開く。
 ブラフマーの指が親指を立てたサインをして白い竜のマキナが中空に吐き出された。
 すぐさま空気の流れに乗り、ブラフマーは安定を得る。
 まるで初めから飛び方を知っているような動きだった。

「あいつ……上手いな」

「兄貴……アギは大丈夫?」

「……わからん」

 不安げな妹に率直な感想を言って口を開いたゲートから流れる荒れ果てた大地を見やる。
 そこにはさっそく鉛色の機体ともみ合っているブラフマーの姿があった。
 マシンガンを持つジェネラルマキナはブラフマーの半分程度の大きさで見たこともない機体にそのパイロットもさぞかし驚いたのだろう。
 回線が開いているのか、アギの声がリカオン達にも届いていた。

「お前ら、一体何者だ! テラ軍か!?」

 それに応える兵ではない。
 だが、それで確定だ。
 それがどこぞの盗賊であれば名乗って噂だてられた方がいい。
 アギは腹の底で暗雲が立ち込めたのを感じて歯を食いしばった。

「貴様ら……!」

 ぐっと掴み合っていたマキナの腕をブラフマーが掴む。
 ぎりぎりと音と火花を散らしながらそれはむしり取られ煙を上げた。

「アギ、後ろ!!」

 アリサの悲鳴がかすかに聞こえてアギは反射的に旋回し、後方からの攻撃に対して掴んでいたマキナを盾にする。
 バスン、という嫌な感触でジェネラルマキナは跳ね上がり、システムダウンした。

「……!」

 何が起こったのかアギには考えられなかったが、いつまでもそれを掴んでいる気にもなれず放りだすと
 浮力さえも失っていたのかだんだんと小さくなって最後には随分と後方で爆炎となった。
 黒くか細い狼煙のような煙がアギの目に入る。

「テルティウ……!」

 急に気分が悪くなり、そして自分の中に封印していたものが爆ぜたような気がした。
 マシンガンから銃弾が吐き出され、ブラフマーは攻撃を避け正面からジェネラルマキナに突っ込んでいく。
 あまりに無謀でリカオンも落ちる寸前まで身を乗り出した。

「アギ! 焦るな!」

「俺の国は――テルティウは、こいつらに滅ぼされたんだ!!
 今度は俺が、こいつらを――ッ!!」

「何……!? テルティウが滅ぼされた……?」

「テルティウの為に――!」

「旋回しろ、アギ!!」

 正面から突進してくるブラフマーに、ジェネラルマキナは冷静にバズーカに持ち替え確かに照準を合わせると即座に引き金を引いた。
 白い尾を引いて砲弾がブラフマーに走っていく。
 避けきれない距離に入って敵も味方も決着がついたと思った。
 刹那の出来事だった。
 シャン、と鈴の音が響き渡った。
 アギと砲弾の間に華やかな幾何学紋様――曼荼羅が浮かび、砲弾はブラフマーではなくその模様に着弾する。
 爆破した砲弾の煙を裂いてブラフマーはジェネラルマキナに掴みかかり、メインシステムをつかさどる頭部をへし折った。
 同じように浮力を失い落下していくマキナ。
 今度はそれを視界にも入れず、アギの眼球が素早く動いた。
 残る一体はどこだ。敵はどこだ!
 その時、マシンガンの音が聞こえてブラフマーは太陽を見上げる。
 目がくらんだがその中に標的がいることを察知しアギはブラフマーの巨体をさらに上空に持ち上げる。
 そこでどこか抵抗感があり急に言うことを利かなくなった感覚を覚えたが力任せに操作する。
 最後の一人まで倒さなければならない。テルティウの敵を討たなければならない。

「俺は……テルティウ園王として、仇を取らなければならない……!!」


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あきゅろす。
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