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繚乱のドラグレギス
第六節<空飛ぶ街> 現世はウルトラ不条理
 商業船は超振動とヘリウムガス、エンジンの三つのシステムをバランス良く稼働させ宙にその巨大な街を浮かべている。
 また、船内には重力制御装置も搭載されており、外壁と直接連結していない床は船の傾きを察知して自動で平行状態を保つ機能を持っている。
 その仕組みを知っている単語で説明したが上手く伝わらず、アリサは困った顔つきでジェラートを口にもっていった。
 買い物をひとしきり終え、休憩として葡萄のジェラートを食べながらベンチに座っていた。
 まるで乗り物の中とは思えないような露店の並び。
 あちこちで商業人か旅行客がいきかっている。
 テルティウのバザーを思い出し、アギは少し沈んでいた。
 服もテラニーズ風に着替えて自分はテルティウの事を忘れようとしているんじゃないかとすら思えた。
 唯一、腰に刺した剣だけが自分が何者だったかをつなぎとめているようだった。
 動きやすさだけを主張して後はアリサに任せ、着替えるのにさほど時間はかからなかったが辺りを少し回ってみても
 モアとニックスは見つからず、探しまわった末の休憩だった。

「ねぇ、アギ……」

 口にプラスチックのスプーンを咥えたままアリサが器用に喋っていた。

「アギって、モアの事どう思ってるの……?」

「根暗」

「え、即答……」

 物凄い剛速球での返事に戸惑いながら、アリサは胸を撫で下ろすようにして再びジェラートの山を崩しにかかった。
 根暗――いや、無関心だ。彼女はあらゆるものに興味がない。自分自身に対しても。それだけはよくわかっていた。

「おやおや、そこにいらっしゃったなご両人」

 急に顔つきを変えて声のした方向に顔を向けたアリサ。
 彼女が異様なオーラを放っていたのでアギも反射的にその方向に視線を向けた。
 相変わらずプリーム風のごちゃごちゃした服装のニックスの後ろに何やらこれもまたごちゃごちゃした白いレースの装飾が付いているエプロンドレス姿の少女がいた。
 ピンク色の髪、虹の目、間違いなくモアなのだがあのみすぼらしい姿からは想像も出来ない変容にアギもアリサも感想に困っていた。
 そのかわりに周囲からの視線が集まる始末。

「見たまえ、諸君!」

 とりあえずアンタ、指名手配犯だろう。
 つっこむにつっこめず、ニックスが肩を抱いてモアを紹介するように説明を始めた。

「これぞ男の文化、男のロマン! 男の、男による、男の為のメイド服なのだよ!」

 何故か周りから歓声が上がるがその中央に立っているモアの表情は相変わらず暗く、
 心ここにあらずといったところで顔面いっぱいにブラフマーへの心配が現れていた。
 つんけんしてとがった印象の目鼻立ちに色気のある唇、
 何より驚いたのはぼさぼさだった髪もきちんと整えられて、まだ少し顔色は悪いが、美少女と言えるそれだった。

「あの……ニックスさん、私目立つのは苦手で……」

「そうかい! 僕は大好きだよ!」

「……現世はウルトラ不条理」

「アリサ、君の分も用意してあるよ!」

「いらんわ」

「みんな恥ずかしがり屋さんだなあ、あははははは!」

 一人上機嫌に大笑いしたニックスだったが、急に獲物を捕る鷹の目をしてアギの目の前にモアを突き出した。
 モアも何をやっているのかとニックスに迷惑そうな視線を向けながら嵐が去るのを待っているようでもある。

「少年、良く堪能したまえ!」

「な、何を……?」

 聞くまでもなくスカートから延びる白く細い足、大げさとも言える谷間の出来た胸元に視線がいって
 最後に冷たく見下ろしてくる虹色の目と視線が通った。

「…………」

「えっと……そういうつもりじゃ……」

「そうですか」

「お、俺は何も!」

「やっぱり……私なんかが都会風の服を着ていたら変ですか」

「……ええと、変だよ。いや、その、可愛いんだけど……」

「アギさんは本当にドSですね。それとも喧嘩売ってるんですか」

 妙な言葉が炸裂してアギは眉間にしわを寄せながら彼女の言っている意味を懸命に消化した。
 恐らくは誤解の上に誤解を重ねて相当珍妙な状態となっているはずなのだがそれを解きほぐす事も上手くできず、アギは逃げるようにジェラートを口にかきこんだ。
 その様子を見ていたアリサは心穏やかではないのか攻撃的な口調になる。

「モア、それは男の人が喜ぶいかがわしいコスチュームよ。
 そんなの着てうろうろされたら前より目立ってしょうがないわよ!」

「いかがわしい……」

 反芻したモアはひどく落ち込んだような、そして照れているような顔つきで辺りを見回した。
 フォンパッドで撮影されたり、指をさされたりと、視線が集まっているのに気が付きさらにうつむく。

「ニックス、ちゃんとモアの面倒みてあげてよ!」

「嫌だね。僕はこのままモアちゃんを引きずりまわすの。欲しかったんだよね〜、こんな可愛いメイドさん。
 ちょっと見せびらかしに来ただけだから、僕らはデートの続きをするよ。ね、モアちゃ――」

 ニックスが横を見るとモアの姿はすっかり消えて無くなっていた。
 きょろきょろするニックスにアリサが冷たく言い下ろす。

「逃げたけど」

「…………」

 その時のニックスの目色の変わり様といったらなかった。
 先までご機嫌だったというのもあるかもしれないが、突然攻撃色となり彼を取り巻くオーラが急に暗雲のように渦巻いた。

「せっかく色々嘘を吹きこんでいいようにしようと思っていたのに!
 なんてことしてくれるんだ、アリサ! 代わりに君が僕の事をご主人様と呼んでくれるのかい!」

「アンタに責められる筋合いないわよ! 警察に突き出してやろうか、このド変態!」

「ド変態で何が悪いんだああぁぁぁぁあああッ!!」

 頭を抱えて絶叫するニックスに返す言葉もなく思わず助けを求めてしまった。

「アギも何か言ってやってよ、いっつもこうな――」

 アリサが横を見るとアギの姿もすっかり消えて無くなっていた。

「逃げたよ」

「……見ればわかるっつぅの!」


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あきゅろす。
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