繚乱のドラグレギス
第四節<白銀竜の鎧> 貴方が嫌いです
コブラを模した鉄の塊は正面についたメインカメラで三人を捕えるなりガラガラと威嚇音を放つ。
「くそ、こいつが噂のヴァイパーか!!」
モアへの質問を中断し、リカオンはヴァイパーにマシンガンを向けるがそこに尾が振り下ろされ反撃出来ずに回避行動に移る。
横跳びになりながらモアの首根っこを掴んで車両の隅に放り投げ、リカオンはヴァイパーのカメラに向けて銃弾を放つとモアとは反対側に駆け出し始めた。
「アギ! こいつはおれが引きつける! どうにかそのデカ物を動かせ!!」
「どうにかって、簡単に言うな!」
「四の五の言う前にやれ!」
リカオンに叱咤されブラフマーの操縦席に入ったアギだったが、こんなものを動かしたことはおろか、中に入ったのも初めてだ。
だが、内部構造は至って単純、巨大なスーツを着ているような形状で手足を狭い隙間に延ばすとアギの姿勢は座ったブラフマーと同じになる。
「だめ! その子は――!」
モアが叫んだと同時に、彼女の声を遮断するようにブラフマーの胸のプレートが下がった。
フシュー、ガコン。
何かが起動したような音と同時にアギの目の前はぱっと明るくなっていた。
先ほどモアに反応した時の淡い光が激しく点灯を繰り返して一方的に喋っているようでもあり、
フラッシュが終わると今度はモニターが軌道し細かいスイッチが自己主張に灯り始める。
モニターにはリカオンがヴァイパーの頭部から放たれる銃撃から逃れて木箱に入ったところが映し出される。
木箱はどんどん木くずになっていき、中に入っていた物資も削れてリカオンがあぶりだされている。
「リカオン!!」
助けなくては!
そう思った途端、思いのほか軽い動きでブラフマーは起き上り、頭を天井に擦りつけながらひどく不格好にかがんだ状態で起き上った。
動きが連動している!
これならば操作もできそうだ!
振り上げたこぶしをヴァイパーに叩きつける。
すると、ヴァイパーの機体はアルミの薄板のようにへこみ、アギの想像以上のダメージを与えた。
隙を見て木箱の後ろからモアの下に戻り、彼女を背負うとブラフマーの後ろに入りリカオンはマシンガンを捨てながら大声を上げる。
「お姫様も回収してやったぞ。心おきなく暴れろ!」
「暴れろったって、狭くて動かせない……ッ!」
アギはそう言いながらブラフマーの拳で天井を押さえつけるように叩いたがこれもやはりぼこん、と形状を変えた。
このままでは狭くて何も出来ない。
一気にブラフマーが拳を叩きつけ、天井を引きちぎりついでにヴァイパーにそれを投げつける。
がこん、と鈍い音を立ててヴァイパーの顔面に鉄板がめり込んだ。
星空の輝く空、轟々と響く列車の振動。
そして空に輝く白いコロニー。
アギがテルティウの影に気を取られていたその時だ。
メインカメラをやられてふらつきながらも、すぐさま態勢を低くしてヴァイパーが頭から突っ込んでくる。
「なッ!」
その頭を両手で受け止めたブラフマーだったが、ヴァイパーの狙いは力押しではない。
両わき腹から銃口が飛び出し、ブラフマーの胴に至近距離でそれを突き付けたのだ。
ドドドドドッ!
重たい音がブラフマーの体を震えさせ――しかし同時にブラフマーの拳が振り上げられてヴァイパーの顔面にうちこまれた。
バギャン、と鈍い音を立て半分もへこむヴァイパーの頭に電気が走る。
それでも銃弾を吐きだし続けるヴァイパーの、今度は胴を掴むと持ち上げて反動をつけながら車両の外に放りだした。
乾いた荒野に鉄の塊が着地し、無骨な音が連続しつつも段々と遠ざかる。
ヴァイパーの姿が見えなくなってようやくリカオンは壁に背中を預けて安堵の溜息をつくと液晶端末を取り出して時間を確かめた。
「くそ、あと20分で駅に着いちまう。アギ、そいつで接続部分を切ってくれ」
「わかった」
前方にブラフマーを向けたアギだが、モニターにはぎらつく銀色のオブジェのような建物が連なっている都市を映し出していた。
サティヤ駅のガラスの天井だけでも驚いたというのに、数キロ先に待ち構えていたのは電子の街であった。
シュラマナと出会った辺境地域とは全く雰囲気の違う、それこそアギが知っている科学文明に特化したテラの姿だった。
ブラフマーで接続部分をねじり切り、自動制御されている先頭車両だけが路線に合わせて街に向かっていく。
アギ達が残った貨物車両は前後切り離され一両だけが線路の上にぽつんと残っていた。
色々なボタンを操作してようやくブラフマーから下りる事が出来たアギは
天井の無くなった車両に座ったブラフマーを腑に落ちない表情で見上げているモアに恐る恐る声をかける。
「なぁ、モア……君は一体……」
するとモアは表情を変えずにアギに向くと、その虹色の瞳からぼろりと大粒の涙を流した。
「私……貴方が嫌いです」
アギは彼女に声をかけた事を深く深く後悔した。
*
血の熱気も冷め切った暗い列車内。
警備員の死体を見下ろし、それは微笑んでいた。
死体の指に絡まる不思議な光沢の髪をつまみ上げ、伸ばした舌の上に乗せて口に含む。
「……”ローカ(領域)”への道は閉ざされていなかったか」
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!