唐紅に
3


 仕事モードの理一さんは、いつものほわほわした大学生みたいな姿とはまったく違う。
 整えられた髪や華奢な銀フレームの眼鏡が「デキる男」然として、見慣れないからか近くにいるのが何だか照れ臭い。でもビシッと決めたスーツ姿は贔屓目なしに格好良かった。

 何だろう。世間のおばさま方が、きゃあきゃあと騒ぎそうな感じがする。


「あ、あの、りっちゃん、眼鏡掛けてたの? てゆか、目ぇ悪かったの?」


 そう思ったら、間近で目線を合わせているのに耐えられなくなった。眼鏡掛けてるの、初めて見たし。


「近視が少しだけ。でもこれは童顔を誤魔化す為だったりして」


 俺の動揺はしっかりバレていたらしい。レンズ越しにウインクされてしまった。

 あぁでも、その理由は納得。
 母方の親戚はみんな老けない。母さんもまだ二十代で通用したと喜んでいたし、その弟の理一さんだって、歳を知らなければ未だに大学生にしか見えなかった。爺ちゃんも婆ちゃんも、そう呼ぶのが申し訳ない見た目をしている。凄い若作りな一族なのだ。

 父方の親戚は、相応に歳を重ねた外見の人が多いから、余計に差が目立つのかな。


「肩書きに見合った威厳なんて、出そうと思って出せるもんじゃないけどね。……似合う?」

「うん似合う! 格好イイ」


 力強く頷くと、理一さんは嬉しそうに微笑んだ。



 簡単な学校説明に(他の外部生には、俺が来る前に済ませたそうだ)、近況報告、そんなこんな話していたら、時間が経つのはあっという間だった。


「紅太は1年2組になります」


 はい、と手渡された生徒証には、確かに1年2組と記されていた。
 生徒証は薄い小型のプラスチック製で、学園名とホログラムの校章に俺の顔写真と所属、それに氏名が印刷してあった。裏には上部に細い磁気テープが付いていて、まるで銀行のキャッシュカードみたいだ。


「生徒証は図書館での書籍の貸し出しやパソコンの閲覧、あと寮とか幾つかの施設に入る時も使うから失くさないでね」

「ん、わかった」


 頷いて財布に仕舞う。

 財布ならいつも持ち歩くし、失くさないだろう。


「生徒証は部屋の鍵にもなるからね」

「おわー。多機能―」


 中学の生徒証なんてただの紙切れで、在学証明書以上の機能はなかった。


「さっすが。お坊ちゃま校は違うなぁ」

「……そうだね。此処はあらゆる意味で、普通とは掛け離れているかもしれない」


 何気なく零した感想に、理一さんが反応した。どことなく声が沈んで聞こえる。


「……? りっちゃん?」


 理一さんは俺に土下座したあの日のように、何となく思い詰めた表情を浮かべていた。
 でもすぐに柔らかい笑顔に戻り、何でもないと首を振る。


「寮に行こうか」


 財布を尻ポケットに仕舞うのを待って立ち上がった理一さんに俺も続いた。


 

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