逃げる。
ー所変わって葵と鳴海ー
鳴海は別棟の空き教室を虱潰しに見て回り、最後に普段なら弥彦達の溜まり場の屋上庭園に走った。
勢い良く扉を開ければ、花が咲き誇る中にある白いアンティーク調のベンチでスヤスヤ寝ている葵を見つけて、鳴海は軽く息を吐いた。
近付けば気持ち良さそうな寝息が聞こえて、ヤンキー座りをして葵の顔にかかっている髪を除けた。
葵は身長は177cmと高い方の身長だが、元々肉付きは余り良くなかったのがこの三ヶ月で制服が少しブカブカに成る程痩せていた。
鳴海は綺麗カッコ良いと騒がれ抱かれたいランキング1位で抱きたいランキングでも5位に入った葵の頭を優しく撫でた。
「ひでぇもんだ。選ばれたくねぇもんでトップに立っちまって尚且つ成績は一位。全国模試でもトップに立っちまう頭。
面倒くさがりの癖に、面倒見が良いだけで余計なもんを背負わされちまって…それでリコールだもんな…。
守れなくて悪かったな…。」
普段から仲が良かった鳴海達には、葵へのリコールの動きがあるという噂が立っていたが、現風紀委員長の壱成達が『そんな面倒くせぇことしねぇ。』と言う言葉を聞いていて、それを信用していたのだ。
鳴海は辛そうに顔を歪めた。
「すまねぇ…。」
「…鳴ちゃんが謝る事無いよ。」
寝ていたはずの葵から声が聞こえて、慌てて俯いていた顔を上げれば寝そべったままの葵の綺麗な紫色の瞳が鳴海を写していた。
「俺はリコールされた事は辛くないよ。後押ししてくれたイッチー先輩には申し訳ないけど、あの役員共と風紀委員長には嫌気がさしてたから清々したんだ。
あの最悪な場所に残して来た剛士や風紀委員には悪いけど。
俺達は、イッチー先輩やヤッ君達が築き上げたもんを壊してしまったんだ。
一緒に作ったZクラスの奴らに俺自身が否定されても仕方ないよ。」
他の者が崩した物を自分一人で当たり前の様に受け止める葵を鳴海はギュッと抱きしめた。
「…何言ってんだ。
俺も花房もお前に会える事を楽しみにしてた。
誰もお前の責任だなんて思ってねぇ。
抱えるんじゃねぇよ。」
「鳴ちゃんありがとう。」
葵のお礼に鳴海は手を緩めて、葵の手を引いて立たせた。
「…花房の所に行くぞ。
お前が居るはずで居なくなってるから荒れてんぞ。」
葵は苦笑した。
「それはアッ君が困ってるね。
早く行ってあげよっか。」
その言葉に鳴海は笑って葵の手を繋いだまま歩き始めた。
因みにこの学園で弥彦をヤッ君、藍をアッ君、元会長の皇一夜をイッチー先輩、鳴海を鳴ちゃんと呼べるのは葵だけで他の者が馴れ馴れしくもそう呼んだり名前さえも呼べばフルボッコになるだろう。
もちろん葵は知らない。
[*退避しろ][ちょっくら散歩#]
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