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side:連夜





ドンッ!


「何のつもりだ!」


賑わう会場から的場を連れ出し、人気の無い廊下まで来た。
荒々しく的場を壁に押し付け、今まで抑えていた怒りをぶつける。


「…相変わらず乱暴だね君は」

「質問に答えろ!」


静まりかえる空間にオレの怒声が響く。
そんな自分とは裏腹に、的場は落ち着いていた。
光の無い瞳にひどい表情を浮かべるオレが映っている。


「何を怖がっているんだい?」

「…あ?」


動揺するオレを見透かしたような妖しい笑み。


「僕が帰校して何か都合の悪いことでもあるのかい?」

「ふざけてんのかてめえ…!」


ギリ、と肩をつかんでいる手に力を入れるが、的場は口元を歪ませたままだ。


「逃げるように海外へ飛んだと思ったら素知らぬ顔で帰校しやがって…てめえが楓にした事、忘れたとは言わせねえぞ」

「ああ…アレかあ…」


そう言いながら的場の目がきらきらと輝きだした。
楽しい思い出を思い浮かべるかのように笑うコイツに、心底嫌気がさす。
姿が変わっていても、中身はまるで変わっていない。


「さっきの北条くんや君の反応からすると…君、彼に本当の事を言っていないようだね」

「…っ!」

「図星かい?分かりやすいね君は」


的場がオレの手を払いのけ、クスクスと笑う。
相変わらず、ムカつく野郎だ。



「せっかく君には真実を教えてあげたのに意外だね、君の事だから本当の事を全て話して僕を疎遠させるかと思ったのに」

「……」

「これじゃあ留学した意味が無いなあ…」


スーツの乱れを直しながら口を閉ざすオレの横を通り過ぎる。
廊下には的場の足音だけが響き、それもやがて止まった。


「まあ…言えないよね。北条くんにとっては僕も被害者だと思っているし」

「…何が被害者だ。クズ野郎」


背中を向けたままぼそり、と呟く。


「ひどい言い方だなあ」


大げさに肩をすくめて的場がオレの背中を見ているのが分かった。






「僕も北条くんも、一緒に集団リンチを受けた被害者なんだよ?」

「…ってめえと楓を一緒にすんじゃねえ!」


声を荒げながら勢いよく後ろを振り返ると、的場はより一層笑みを深めた。
ゾッとするくらいに、気味の悪い笑い方だ。


「まさか彼も…一緒にリンチされた僕が全てを手引きしていたなんて、想像もしていないだろうね」


歯を食いしばり、目の前にいる的場を睨みつけた。
握りしめている拳が今にもコイツ目掛けて飛びそうになる。


「的場てめえ…まさかまた同じ事する気じゃねえだろうな」

「そんな芸の無い事しないさ。純粋に勝負しに来たんだよ、僕たちは」

「……」


信用できない。

が、今のこいつはこれ以上何も言わないだろう。

まさかこんな形で楓と再会させる事になるとは思わなかった。
オレがもっと…こいつの行動に気を付けていれば…


「悔しい?まんまと僕に騙された事」


悔しいに決まっている。

こいつさえ居なければ、楓があんな連中にリンチされる事もなかったんだから。









的場は、歪んだ恋情を楓に持っていた。

初めから歪んでいたのかは分からない。
だが自分自身を餌にして、集めた不良共の部屋に楓を呼び出すくらいだ、普通の恋心ではないだろう。

親しくなったクラスメイトが人質にされ、楓がそれを見過ごす訳がない。
的場は楓の性格を理解した上で楓に近付き、自作自演をやってのけたのだ。


「…もしてめえが今回また妙な真似をすれば即刻学園追放だ…二度も騙されてやるかよ」

「自信満々だね。僕が留学した直後に北条くんから目を離したくせに」


屋久島と白鳥の事だ。
確かに、その通りだが…オレとしては的場の方が性質の悪い。





こいつの計算通り、楓は手酷く傷を負ったが、的場の予想に反してダメージは殆ど無かったらしい。
翌日、普通に登校してきた楓に、オレが怒涛の質問責めをして今回のことが露呈した。

もっとも、処分の対象になったのは買収された不良共だけで、的場にはお咎めなしだ。


「今思い返してもぞくぞくするよ…男たちにリンチされても臆することも許しを請うこともせずに男を睨む北条くん…」

「…っ!」

「初めて見た時から彼の瞳に惹かれていたんだ…本当に美しかったよ」


恍惚とした顔。
それにオレは共感する所が何一つ無い。

初めから歪んでいたんだ、こいつは。


そんなこいつを助ける為に、本来は勝てる相手に何も抵抗しなかった楓。
男を睨みつける姿や、それを見て嘲笑う的場を思い浮かべると頭に熱が上っていく。

ギッと強い眼差しを向け、拳を振り上げた時…









「──賑やかじゃねえなあ」


凛とした声が少し離れた所から聞こえた。
弾かれたように顔をそちらに向けて、ぎくり、と肩を揺らす。


「会、長…」

「間抜けだな克海。ここまで近付いても俺様に気付かねえとはなあ」


口許を緩め、鼻をならす会長がゆっくりと歩み寄る。
間抜け呼ばわりにムッとするが、実際に声を掛けられるまで全く気配を察知出来なかったんだ、何も言えない。

いや、そんな事よりも。


「今の…聞いて…」

「あ?何の話だ?」

「……」


恐る恐る、といった風に問いかけると会長は片眉を上げて聞き返してきた。
表情からは会長の言っている事が本当なのか判断しかねる。


「んな事より、てめえ等こんな所で騒ぎを起こすんじゃねえよ」

「…一緒にしないでくれるかな、僕は君達みたいに野蛮じゃないんだ」

「あーそうかよ。ならさっさと会場に戻れ」


言われなくとも戻る、とでも言いたげな鋭い視線をオレから会長に流し、的場は振り返ることも無く立ち去って行った。

やがて後姿が見えなくなると、オレはだらん、と肩を落とす。
予想以上に体が緊張していたようだ。


「てめえが北条に対して過保護になった理由が分かったぜ」


そう言った会長に、ため息を吐きながら目を向ける。


「…やっぱり、盗み聞いてたんですね」

「聞こえてきただけだ。別に口外するつもりも無えから安心しやがれ」


悪びれた様子も無く堂々と言い切る所がこの人らしい。

信用はしていないが、楓の事も気に入っているみたいだし、今の話を言い触らしたりはしないだろう。
きっと聞かなかった事にしてくれるのかもしれない。

案外、空気の読める人なんだな。







「口外するつもりは無いが…」

「…?」


コキ、と首を鳴らす会長がオレを見遣り、悪戯な笑みを浮かべた。

ああ、嫌な予感。
楓のように人の表情を読むのが得意じゃないオレでも、一見して分かるくらいに黒い笑顔だ。






「今の面白そうな話…詳しくは話してもらうぜ克海…?」



前言撤回。

オレの周りにはロクな人間がいないらしい。





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