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セクハラは犯罪です。



「ねえねえ、本当にそれカラコン?」
「北条って好きな食べ物とかある?」
「今度一緒にご飯食べません?」
「部活やってみねえか?」


何だこれは。


「んだコラてめえら!集まってくんじゃねえよ!」

「きゃあ!康人様が怒ったー!素敵!」

「だあもう!うぜえええ!」


何故か俺の所へわらわらと集まってきたチワワや体育会系を、康人が怒鳴り散らしている。

妙な光景というか、周りに結構な迷惑になってないかこれ。


「なあ、留学組ってのはまだ来ねえの?」

「知らねえ」

「おめー生徒会長だろうがよ」

「うるせえよ。あ、てめっ…それ俺様が狙ってた肉!」


そんな事を全く気にしていない和緋と日比野はテーブルの上に並ぶ料理をばくばくと食っている。

昔から思ってたけどこの二人って性格似てるよな。
アホな所とかガラが悪い所とか。


「にしても北条。それ詐欺でしょあんた」

「直次郎」

「ナオだってば!」


薄ピンク色のドレスを着た直次郎が俺のじろじろと見て呆れたように言った。

何だよ詐欺って…


「そのドレス似合ってんな直次郎」

「えっ…ほ、本当…?」

「ああ。髪飾りも、綺麗だな」


硝子細工で出来ているのか、キラキラと輝く髪飾りを指すと、直次郎は顔を真っ赤にしてふるふると震え出した。


「七五三みたいだ」

「…っ!ちょっとでもときめいた僕のばかあああああ!」

「あ、おいナオ!」


かと思えば涙目でよく分からない捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまい、沙都里ちゃんがそれを追い掛けて行った。

俺何かまずい事を言ったか?


「…私も同じ感想を述べたら叱られてしまいました」

「そうなのか。何がいけなかったんだろうな」

「ええ、本当ですね」


横でぽつり、と洩らす比嘉と一緒に首を傾げると、後ろの方で数人のため息が聞こえた気がする。


「…鈍感コンビ、だね」

「全くだ」

「さすがに七五三はねえよな…」


連夜や悠ならともかく、和緋にまで呆れられるとは思わなかった。
ちょっとショック。


「二人共…?」

「………………探してくる。行くぞ比嘉」

「はい」


連夜から無言の圧力がかかり、俺は比嘉を連れて食堂から出た。


「北条くん。早めに戻って来て下さいね、主役が居なくては始まりませんので」

「わーったよ」


後ろの方から聞こえた鳳の声に、投げやりに返すと横で比嘉がクス、と小さく笑った。


「何だよ、今のなんか可笑しかったか?」

「いえ、すみません…随分と仲がよろしいな、と思ったもので」

「どこが…あんな鬼畜ドSと仲良い訳ねえだろ」


考えただけでも悍ましいわ、と言って肩を竦める。


「同族嫌悪、ですか」

「それ暗に俺もそうだと言いてえのかこのやろう」


ぴしっと比嘉の額にでこぴんをすると、嬉しそうに顔を綻ばせた。

へえ、体もでかくて気難しそうな容姿をしている割には優しい顔で笑うんだなこいつ。

(和緋とはまた違う感じの大型犬みたいだ)



















「――ちょっと何すんだよアンタ!」


しばらく比嘉と他愛のない話をしながら直次郎たちを探していると、甲高い声が聞こえた。

同時に顔を見合わせて頷き、声の方へ走り出す。

恐らく今のは、直次郎だ。





「直次郎!」

「ナオ様、ご無事ですか!」


曲がり角へ飛び出し、真っ先に目に入ったのは黒いマントを被った怪しすぎる男。

直次郎を庇い立つ沙都里ちゃんが安堵したように息を吐き、後ろに隠れた直次郎が叫ぶ。


「こっ…こいつが僕のお尻触った!」

「なんと!ナオ様の…!」


くわっと比嘉の表情が険しくなり、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。


「ちょちょ、ちょっと待って!待ってクダサイ!」


比嘉や沙都里ちゃんの殺気を感じたのか、男は焦った様子で両手を上げた。


「確かに僕はそこのカワイコちゃんのプリチーなお尻に触りましたが、下心はアリマセン!」

「かっ…カワイコちゃん…!?」

「…プリチー…」


男は外国訛りの言葉遣いで必死に弁解してきた。
聞き慣れない単語に直次郎や沙都里ちゃんが戸惑っている。

死語…だよな。


「…なら、何で尻触ったんだ?」

「それはもちろん!僕がカワイコちゃんやべっぴんさんのお尻が大好きだからデス!」


人気の無い廊下に、男の声がこだまする。
フードで顔はよく見えないが、本人は真面目に言っているつもりらしい。


「……下心満載じゃねえかああ!!!」

「ぎゃあああああああ!!!」


俺はゆっくりと腰を落とし、体を捻りながら踏ん反り返る男の頭を目掛けて足を蹴り上げた。

ドゴッと壁がへこむ鈍い音はしたが、手応えはない。


「ああああ、あぶっ…危なかったああああ!!!!」

「何避けてんだよ」

「避けるよおおおお!!!」


余程驚いたのか、紙一重で避けた男が床にへばり付いている。


「おい!校舎を壊すな北条!」

「ノー!!校舎より命のキケンでしたよ今!?」

「さすが北条殿です」

「うわー壁が抉れてるー…」


探るようにジッと男を見ていると、やがてゆっくりと立ち上がった。


「ふう、キミ強いネ!それに僕好みのべっぴんさんだし…」

「何だよ、俺のケツなんて触っても面白くねえぞ」


男が口元に弧を描き、まるで獲物に狙いを定めたかのような舌なめずりをした瞬間、殺気にも似た"何か"を感じた。


「…っこの…!」

「!!」


ぞくっと背筋に冷たいものが走り、男が動きを見せるよりも一瞬速く男を捉えた。

胸倉を掴み、その腕で首元を押さえながら壁に押し付ける。


「……ワーオ、まさか僕より速く動くなんて予想外ですヨ」

「何なんだてめえは…」

「うーん…近くで見るとますますべっぴんさんデスね〜この距離ならキスでもできそう」

「北条よせ!得体も知れない相手だぞ!」


沙都里ちゃんが宥めるように俺の肩を掴む。

こいつは明らかに何かが違う。
けどここだと直次郎達まで巻き込んでしまう。


「……そうだな」


息をついて腕の力を抜いたのと同時に、男の手が俺の両手首を掴んだ。




「――だめだよ、簡単に警戒を解いちゃ…」


何を、と言いかけた言葉は俺の唇を覆った柔らかいものに吸い取られた。


「なっ…!」

「ひゃあ〜」

「……!」


近すぎてぼやける男の瞳は空の様に澄んだ碧色をしている。

(すげえ、綺麗だ…)


…なんて事をぼんやりと考えていると、後ろに強く引っ張られ、我に返った。


「……沙都里、ちゃん…?」


引っ張ったのは沙都里ちゃんだが、こんなに怒りを露にした沙都里ちゃんは初めて見る。


「貴様…」

「何のつもりだい?日本ではそういうの、ヤボって言うんデスよね?」


挑発的な笑みを浮かべている割には声色が大分低い。

よく分からないが、なんで俺を挟んで睨み合っているんだ。





「…ふう…仕方がない、名残惜しいですが僕は用がアリマスので失礼しますヨ」

「おいお前!」


少しの間、二人は無言で火花を散らしていたが、先に黒マントが折れたようだ。


「Vois-toi encore」


映画のワンシーンのような投げキッスも、妙に様になっている。


「あーあ、行っちゃったね。ていうか今のってどこの言葉だろ」

「うーん…私、外国語はさっぱりですからね…」


男の消えて行った廊下を見つめながら直次郎がぼやく。

…フランス語。
なるほどな…どうしてこんな所にいるのか知らねえがあいつが"留学組"か。


「北条!」

「っ!な、なんだ沙都里ちゃん…?」

「どうしてお前はそうも無防備なんだ!」

「は!?」


二の腕を力強く掴まれ、思わずびくっと体を強張らせた。
無防備?
俺が?


「えーと、僕と比嘉は先に戻ってるねー!ごゆっくり!」

「あ、お前ら!」

「じゃあね〜」


訳が分からず、助けを求めようとした直次郎と比嘉はやたらとニヤついた顔でそそくさと逃げた。


「こら北条!俺を見ろ!大体にしてお前はむやみやたらと喧嘩を買い過ぎだ!」

「え、いやだって…」

「だってじゃない!さっきだってあの腐れ変態に何をされたか分かっているのか!?」


まさか沙都里ちゃんがこんな熱血だとは思わなかった。
性質は少し違うが、連夜と同じタイプだな。

つまりは怒らせない方が良い側の人間って事だ。


「えーと、…キス…とケツ触られた…ちょっとだけ」

「……!」

「なんだどうした!?」


もそもそと口に出すと、目の前の沙都里ちゃんがふらついた。


「キスだけじゃなかったのか…」

「あっでもほんのちょっとだし!そもそも、俺は男だから…」

「阿呆」


青筋を額に浮かばせながらぐにーっと両頬を抓られる。

いだだだた。
加減してくれ頼むから。


「男だからって、セクハラされて良い訳がないだろう」


眉を下げ、心配と怒りが混じった真剣な表情。
くそ真面目というか何というか…誠実な男だな、と少し思った。


「…沙都里ちゃんって、優しいよな」

「!?何言って…!か、からかうなよ!」


初めて会った時はどこから見ても堅物メガネで、絶対に馬が合わないと思っていたのに。


「顔、真っ赤だぞ。照れてんのか?」

「〜〜っ照れてない!行くぞ!」


照れを隠すように顔を背け、ずかずかと歩き出した。
耳まで赤いのがバレバレで、いつもはカッコイイはずの沙都里ちゃんがやけに可愛く見える。


「…なあ。何でそんなに、怒ったんだ?」

「………むかついたんだよ」

「へー何に?」

「だから…あいつがお前に…っ!」


そこまで言いかけて言葉を止めた。
鯉のように口をぱくぱくさせ、あさっての方向を見ている。

何だ、どうしたんだ沙都里ちゃん。
ものすごい挙動不審だぞ。


「……………なん…でもない…」

「?」

「もうこの話はもう終わりだ!」


変な沙都里ちゃん、と呟くと、真っ赤な顔を更に赤くさせて、ちゃん付けするな、と怒鳴られた。

うん。
やっぱり面白い。






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