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プリンは一日一個がベスト。


【生徒会室】


「…そんな睨まないで下さいよ、北条くん」

「元々こういう顔なんだよ」


連夜たちと離れた後、俺は校内放送で生徒会室へ呼ばれた。
中へ通された俺の前には紅茶とお菓子。

最高級だろう紅茶は匂いも格別だが…


「おや…プリンはお嫌いでしたか?」

「そういう問題じゃねえよ」


ピラミッドのようにバランス良く積み重ったプリンのせいで台無しだ。


「何でピラミッド?1個で十分すぎ…つーか何個使ってんだよコレありえねえだろ。俺はプリンの王様じゃねえんだよ」

「これ、いつもの棗のおやつなんですよ。ほんと…限度を知らないバカで困ります」

「あいつの脳みそプッチンプリンしてやれ」

「それは良いですね」


とはいっても、日比野がいない今は俺が食うしかない。
黙々と食べていると、不意に鳳が俺の横に座り、ジッと見てきた。

居心地が悪い。
食べる手を止め、怪訝そうに見返した。


「……なんだよ」

「ふふ…いえ…君は文句言いながらも食べてくれるんですね」


いつもの胡散臭い笑顔じゃない普通の笑顔と言葉に、少しだけ気恥ずかしい感じがした。


「別に…勿体ねえだろ」

「そうですね」


鳳の長い指が伸び、顎を掬いとられたかと思うと、口元に柔らかいものが当たった。


「プリン。ついてましたよ」

「………手で取れ、手で」

「まあまあ…味見も兼ねて、ね」


そんなにプリン食いたかったなら自分の分も出せよ。


「それにしても…警戒心ゼロですね北条くん」

「あ?」

「こちらから呼び出したとはいえ、敵ですよ?私たち」


鼻先が当たりそうな距離まで詰め寄られたが、退かずに鳳を真っすぐに見遣った。





「逆に聞くが、今お前は俺に危害を加える気があったのか?」

「……」

「敵意も感じねえ相手にいちいち警戒しねえよ」

「……やれやれ…君には敵いませんねえ…」


困ったように笑いながら元の位置に戻る。
この笑顔は以前も見た事があった。
俺が光輝としてあそこに居た時だ。


「?どうしました?」


不思議そうに首を傾げる鳳の頬に手を添えると、鳳は息を飲んで固まった。


「お前ってほんと、綺麗な顔してんな」

「えっ…あ、あの…?」

「作りモンじゃない笑顔の方が、お前に合ってる」


目を見開いた鳳の顔が一気に赤く染まり、項垂れるように顔を下げた。


「おい?どうした鳳」


具合でも悪いのか、と聞いてみるが、違う、と首を横に振る。
耳まで赤くしておいて何を言ってんだこいつは。


「……………無自覚って恐ろしい…です…」


唸る鳳を不思議に思いながらも、俺は再びプリンを口に運んだ。



















「えー…こほん。先程は妙な所をお見せしてすみません」


ようやく顔を上げた鳳は、照れが混じった苦笑を浮かべて向かいのソファーに座った。

やっと本題か。


「いや別に良いけど。…それで?」

「はい。今回貴方をお呼びしたのは、協力して頂きたい事があるからなんです」

「協力?」


意外な提案に、つい聞き返してしまった。
こいつらが俺に協力して欲しいってことは余程の事だろう。


「この学園に、"留学組"というのが存在しているのは知ってますね?」

「ああ…選抜されて海外に行ってる奴らか」

「ええ。その中でもかなり優秀な2年生達が、今回のテストを受ける為に帰校するらしいんですよ」

「ふうん…で、それと俺に何の関係があんだ?」


わざわざテスト受けに来るほど暇なのかよそいつら。
同学年とはいえ、俺は関係ないだろ。


「……それが…」


言いづらそうに口を濁し、俺に一枚の封筒を差し出してきた。


「………?」


英語でここの住所が書かれたそれを黙って開くと、何故か中は日本語だった。






『親愛なる生徒会の皆様へ。
今回のテスト、私達留学組も受けるので宜しくお願いします。

そこで提案があります。
お互いに代表を一人用意して、テストの総合点で勝負してみませんか?
きっと面白くなりますよ。


良い返事を期待しております。

P.Sおスシって美味しいですよね。


留学組より。』







「おい…こいつら…」


顔を上げると鳳が真剣な表情で頷いた。


「スシの"ス"の字が『ヌ』になってねえか」

「北条くん、それはボケなんですかマジなんですか?突っ込む所そこ?」


いや気になったからよ。


「で。その代表が俺な訳か」

「そうなります」

「3年の首席でいいんじゃねえか?」

「理事長に相談したら『楓を出しなさい』と…」


藤…何を勝手に決めてんだあの野郎。


「まあ私も初めから北条くんにお願いしようかと思ってたんですけどね」

「はあ?さっき日比野に会ったが、あいつはンなこと一言も言ってなかったぞ」

「棗は渋ってたみたいなので、私が直接お呼びしたんですよ」


にっこりと胡散臭い笑顔を浮かべる鳳に、拍子抜けした。
藤もこいつも何考えてんのか知らねえけど、普通は2年の首席より3年の首席を選ぶもんだろ。


「…大体、このタイミングで帰校っておかしくねえか?」

「ええ…写真部の件もありますし…恐らく、裏があるんでしょうね」

「分かってるのに受け入れんのかよ」

「――分かっているからこそ、貴方なんですよ」


先程とは打って変わり、鋭く細い目が俺を射抜く。

なるほど。
"何が起きて良いように"って事か。


「さしずめ俺は餌って訳だ」

「とんでもない。貴方ほど知力体力を兼ね備えた人物はいませんよ」

「よく言うぜ。この狐め」

「ふふ…褒め言葉として貰っておきますよ」


俺みたいな餌で釣れるものがあるのかは疑問だが、下手に騒ぎになるよりマシか。



「…………最高級のオムライスな」


そう言うと、鳳はきょとん、とした顔で目を瞬かせた。
なにそのアホ面。


「…えーと、それだけで良いんですか…?」

「あ?俺は売られた喧嘩を買うだけでオメーらの為じゃねえんだよ。それで充分だっつーの」


ふん、と顔を背けると、目の前の鳳が小さく笑った。


「……プリンもおまけしときますね」

「それはいらねえ」










がちゃ。


「おい」


鳳がプリンの口直しに、と出してくれた高級店のモンブランを食べていると、不機嫌そうな顔をした日比野がやって来た。


「遅いですよ、棗」

「あ、放浪会長」

「誰がだ!つかテメー、敵陣で優雅にモンブラン食ってんじゃねえよ」


追加の紅茶をいれる為に席を立った鳳と入れ代わりに、日比野が俺の向かいへ座った。

態度でけえ。


「何言ってんですか棗。それは貴方が北条くんに買ってきたんでしょう」

「葉月ごらあああ!!余計なこと言うな!!!」

「へー…」

「勘違いすんじゃねー!!留学組の件でてめえに借りを作らねえ為にだ!」


はいはい、と鳳が軽くあしらいながら日比野の前に紅茶を出す。
俺と紅茶を交互に見遣り、やがて諦めたように大人しく紅茶を飲むと、部屋は静かになった。

さすが赤姫、猛獣の扱いもおてのものだな。





コツ、コツ、…


なんて事を考えていると、部屋の外から聞き慣れない足音が聞こえてきた。

2人にも聞こえたのか、同時に動きを止めて扉を見つめる。


「――来ましたね」

「……?」




バァンッ!



一言、鳳がぽつりと洩らした瞬間、扉が壊れそうな勢いで開け放たれた。



「来たわよ坊や達ー!」


「…静かに入ってこれねえのかよ…」

「あら、呼び出しといて随分な口の聞きようね棗」


ツカツカとソファーに歩み寄り、日比野の頭をガッとわしづかみにした。

なんだ、この女は…


「皐月姉さん、来てくれてありがとうございます」

「久しぶりね葉月。……あら?」

「っ!」


呆気に取られていた俺は、皐月と呼ばれた女と目が合ってしまった。


「かっ…か、か…」


女は目をきらきらと輝かせ、ふるふると震え始める。


「姉さ…」

「かわいー!!」

「ぐえっ」


様子のおかしい姉に、鳳が声をかけるよりも早く、鳳姉はソファーに座っている俺に突進してきた。

俺のカエルが潰れたような声も気にせず、髪をわしゃわしゃと掻き回しながら頭を鳳姉の胸に押し付けられる。

苦しい。


「ちょっと葉月!何この子!?あんたの恋人!?めっちゃかわいいわよ!」


ちげえ!
そう叫んでやりたくても声が出ない…というより呼吸もできない。

つーか力強いなこいつ!


「おいこら皐月!そいつが葉月のな訳ねえだろうが!」


顔は見えないが、この声は日比野だ。
そんな事よりこいつを離してくれ。


「えっじゃあ棗の!?やあだ、やるわねアンタ!」

「ばっ…違…っ!!!誰がそんな奴と!」

「その赤い顔で言っても説得力ないですよ棗」

「うるせえええ!!」


一瞬だけ鳳姉の力が緩み、俺はそれを逃さなかった。


「ぶはっ…はっ、…はあ……」

「あらま。残念」


新鮮な空気を取り込みながら鳳姉から距離を取る。
もうまじで死ぬかと思った…


「つれないわねー普通アタシみたいな美人の谷間に埋もれられたらもっと喜ぶとこでしょ」

「本能的にお前の本性が分かったんじゃ…、もがっ…!」

「本性って何かしら棗…?」


鳳によく似た笑みを浮かべて日比野の顔を掴み上げた。
さすが姉弟だな。


「姉さん、棗をシメるのはパーティーが終わってからでお願いします」

「ああ、それもそうね」

「あだっ!……、てめえら…」


ほっぽり出すようにパッと顔を離すと、床に転げ落ちた。


「………パーティー?」


馴染みのない単語に、首を傾げる。
それに気付いた鳳姉弟が形の良い唇で弧を描いた。

この寒気のするような笑顔は見覚えがあるぞ。

絶対にロクな事を考えていない顔だ。


「そうですよ。楽しい楽しいパーティーです。ね?皐月姉さん」

「ええもちろん。さ、始めましょうか…」

「え…ちょ、何……」


じりじりと近付いてくる二人に嫌な予感しかしない。

何とか逃げようと後退るが、いつの間にか背後にいた日比野に背中を押さえられた。


「日比野っ…ばか、離せ…!」

「同情はするがこれも学園の為だ!諦めろ!」


……やっぱり、面倒事は引き受けるものじゃないな。






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あきゅろす。
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