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短気だからどうしたよ。





「北条楓。ちょっとこっち来い」

「は?」


屋上にいる和緋たちの様子を見ようかとベッドから腰を上げた直後、日比野が俺の腕を引っつかみ連れ出そうとした。


「なっ…おい!楓をどうするつもりだこのプリン会長が!」

「誰がプリン会長だてめえ!…ちょっくら借りるだけだ!何もしねえよバーカ!女男!」

「貴様ああああ!ぶった斬る!!プリン脳みそが…っておい待て!!」


悠が投げ付けたステンレス製のボールをさらりと避け、口元をニヤつかせながら部屋を出た。

小学生かお前らは。

俺はされるがまま日比野に連れられ、向かった先は保健室から大分離れた階段の踊り場だ。





「――で?どうしたんだよ」


繋がれたままの手を不思議そうに見つめ、顔を上げると、日比野と目が合った。

が、すぐに日比野が逸らす。


「……てめえに聞きたい事がある」

「俺に?」


肯定するように頷いた日比野を見て、珍しいこともあるもんだな、と内心思った。


「最近、何か変わった事はねえか」

「…………は…?」


質問の意図が分からず、思わず口を開けた。
どういう意味だそれは。


「だ、だから…何か変わった事だ!変なモン貰ったり変な野郎に絡まれたり!」

「…変な野郎に絡まれたり…?」


ジーッと目の前にいる男を見つめると、日比野の額に青筋が浮かんできた。


「何でそこで俺様を見るんだよ!はっ倒すぞてめえ…!」

「だって変な野郎って言うから」

「おめえに言われたくねえんだよ!!こっちは真剣に聞いてんだ!」

「あーもう、分かった分かった」


小指で耳を塞ぎ、壁にもたれ掛かると、疲れたようにため息をついた日比野がその横へ腕を組みながら背中を預けた。


「……昨日、生徒会に妙な手紙が届いた」

「手紙?」

「ああ。封筒も便箋も黒一色の悪趣味な手紙だ」


真っ黒な手紙。

それを聞いて俺は下駄箱に入っていた手紙を思い出した。

白い筆のようなもので『漆黒の君』と書かれた手紙だ。
中は見ていないが、もしかしたら日比野の言っている手紙と同じタイプじゃないだろうか。


「…何て、書いてあったんだよ」


俺が尋ねると、一度こちらを見てから口を開いた。




「――『金色の狼は闇へ降ろされ、自ら赤を背負う。我が手に渡る玉座の傍らに立つは月を背負いし漆黒の獣』」


(漆黒の…獣?)


俺は淡々と述べる日比野の横顔をぼんやりと見ていた。

とりあえず言いたい事はかなりあるが、その手紙は――


「………お前に対する宣戦布告、てやつか」

「みてえだな。ったく、クソめんどくせえ…」

「だがその手紙とさっきの質問は何の関係があるんだ?」


俺が"あの手紙"を貰った事は誰にも言っていない。
どうして日比野が俺に質問したのかがよく分からなかった。


「……別に…訳なんざねえよ。何となくだ」


ふい、と顔を逸らした日比野を目を細めながら睨む。

俺の視線に気付いていながらも素知らぬふりをして、バツが悪そうに右の手で逆の頬をポリポリと掻いた。


「………嘘つく時に逆の頬を掻くクセ、まだ治ってねえのかよ…バカな奴」

「あ?何か言ったか」

「いーや、別に」


片眉を吊り上げ、怪訝そうに俺を見遣る日比野を横目に、小さく息をついた。


「――にしても、随分と芝居がかった言葉だな、その手紙」

「確かにな。所々はっきりと解読できねえ」

「『金色の狼』ってのはお前だよな」

「だろうな。『我が手に渡る玉座』は恐らく、生徒会長の座だ」


平たく言えば、日比野を引きずり落として自分が頂点に立つってことだ。

けど、分からないのは『月を背負いし漆黒の獣』の部分。


「"黒"っつったらアイツしか思い当たらねえなあ…」

「アイツか…まあ…黒だしな」


頭に浮かぶアホ面…じゃなくて間抜け面。
一見すると爽やかな外見だが、それに騙されれば最後、悪夢に魘れると言われている男…黒の悪魔――峰岸和緋。


「服も黒を好んでよく着てたしな…そう言われても仕方がない、か…」

「………よく知ってんなァ?…北条楓」

「…………」


やべ、墓穴。


「まるで傍で見てきたみてえな言い方だな、オイ」

「…べ、つに…同室だから服の好みくらい」

「ほー?さっき『服が黒いから"黒の悪魔"だと言われる原因の一つ』みたいなこと言ってなかったか?」

「それは…」


ニヤニヤと笑いながら俺の揚げ足を取り、じりじりとにじり寄ってきた。

ブン殴ってやろうかな。

壁と日比野の間に挟まれ、拳に力を込めた時、俺と日比野は同時に同じ場所を見た。


「……日比野」

「分かってる。誰か来る」

「二人組だな」




物陰に隠れて観察していると、上の階段から話し声と共に二人組の生徒が降りてきた。

どちらかと言えば体育会系二人組だ。


「どうしましょうかねえ」

「どうしようかねー峰岸くんなら引き受けると思ったのに」


……和緋?
思わぬ奴から出た意外な名前に、日比野と顔を見合わせる。


「あとは克海くんだね。彼ならきっと僕らに協力してくれる」

「脅してでもやってもらおうか」

「でも克海くんって元不良じゃん?そんな奴に脅しって効く?」

「大丈夫大丈夫、どうせ不良なんてバカだから」


話の内容が全く理解できないが、一つだけ言える。


「あいつら…生き地獄を味わせてやる…」

「ばか落ち着け北条楓。もう少し探ってからだ」

「あ?探ってどうすんだ」

「見ろ。あいつらの手にある物」


日比野に言われて二人組を見てみると、首から下げたカメラを大事そうに抱えていた。

普通の奴が持つにしては少しでかくないだろうか?

まるで写真部みたいな――


「ふん。どうやら元写真部の連中が動いているっつーのは本当らしいな」

「…けどあいつら、去年廃部になってたんじゃねえのか?」

「"部"としてじゃなくて一個人で動いてるんだろうよ」


(何のために?復讐か?まさかな…)



去年、写真部が廃部になった原因は盗撮。

人気の高い奴らの写真を裏で大勢の生徒に高値で売っていたことが分かり、風紀委員によって大量検挙された。

その写真が"普通の写真"ならまだ罪は軽かったが、写っていたのは入浴や寝ている時のものばかり。
中には、トイレの中の様子まであったらしい。


「つーか、あいつらが元写真部だからって、俺には関係ねえよ。和緋たちを馬鹿にした落とし前はつける」

「お前なあ…んな事したらテメーが標的にされんぞ」


…そういえば、裏で出回っていた写真には日比野のモノもあったって聞いたな。


「何だよ、心配してんのか?」

「バッ…!あ、あほかあ!!誰がテメーの心配なんざすっか!調子ノッてんじゃねえ!」

「もがっ…!てめっ…やりやがったな…!」

「い゛ででででで!!顔はやめろ顔は!!」


何気なく聞いてみた冗談だったが、日比野は顔を真っ赤にさせて俺の両頬を抓ってきた。

すかさず、俺も奴の顔を抓りまくっていると、いつしか揉み合うように。
俺らはそれに気を取られすぎてバランスを崩し、廊下に倒れ込んだ。


「「………」」

「「………」」


顔を掴み合ったままの状態ではた、と気付くと、さっきの二人組が目を丸くさせながら俺と日比野を見ていた。

本当にこいつと関わるとロクな事がない。



「あ―――!!会長が北条たんを押し倒してる―!!!」

「だだだ、大丈夫!?北条たん!!!」

「…………え…」


てっきり、逃げていくかと思った二人は俺を"北条たん"と呼びながら駆け寄ってきた。

北条たんって…何。

若干顔を赤らめて伸ばしてきた二人の手は、日比野が思い切り振り払っていた。


「……何なんだてめえら。こいつに何する気だ」


不機嫌そうにガンをつけると、二人組は小動物のように肩を震わせたが、すぐに言い返してくる。


「き、君こそ…生徒会長だからって僕らの北条たんに馴れ馴れしくないか!?」

「あ゙あ?」

「そうだ!君が近付くと北条たんが親衛隊に目をつけられるんだぞ!」

「はっ…バカじゃねえの」


日比野が鼻で笑ってみせると、二人組は悔しそうに顔を歪ませた。

何でこいつはいつも偉そうなんだ、とか思ったが黙っておこう。


「こいつは俺様の玩具だ。つまり俺のモンなんだよ」

「「っ!!」」


本気か嘘かよく分からない冗談を真に受けたのか、二人組は膝から崩れ落ち、見るからに肩を落とした。

俺は当然のように日比野に膝蹴りを入れる。


「誰がてめーのだ、誰が」

「…って、めえ…ちったあ大人しくできねえのかよ!可愛くねー奴だな!」

「お前に可愛いなんて思われたくねえよ」

「あンだとコラ!先輩を敬いやがれ!」


蹴られた腰を摩りながら吠える日比野を横目に、二人組へ近寄ると、何故かどんどん頬が赤く染まっていく。


「おめえら、さっき和緋たちがどうとか言ってたよな」

「へ?あ…えと…」

「何を企んでいやがる。和緋たちに何をさせようとしてた」

「えっ、いやあ…そのですね…」


壁に追い込まれ、何とも言えない表情で言葉を濁す二人の間に拳をたたき付ける。

ドゴッ、という鈍い音と共に、二人は短い悲鳴を上げた。





「俺はあんまり気が長い方じゃねえんだ。――この壁みたいになりたくなかったらさっさと吐け」

「は…はいっ…!!」

「喜んで!北条様っ!!!」


やたらと目を輝かせ始めた二人組に寒気立つ。

何なんだこいつらは。
レタスと同じような匂いがする。


「……おい。探れつったんだぜ俺様は。Mに目覚めさせろなんて言ってねえ」

「……………知らん」


後ろで日比野が文句を垂れているが、これは不可抗力だ。

俺のせいじゃない。






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