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食事は静かに食べよう。




「あ〜〜〜もう何にも頭入んねえー」

「はいはい」


午前の授業が終わり、和緋がぐったりと机に項垂れた。
衝撃のテスト発言のせいで教室は少しピリピリとした空気が流れている。


「テスト…はあ…何でテストなんてあるんでしょう」

「全く以て同感だ雅。人の価値を紙一枚で決めるとは些か不愉快だ」

「よく言った吉原ァ!!うっし!ここはいっちょ文部省に抗議して…」

「落ち着けアホ」


和緋にとってはこの学園に来てから初めてのテスト。
そんな調子で大丈夫なのかこいつら。


「でも峰岸って次席なんでしょ?頭良いんじゃないの?」

「……………」

「…何故黙る」


不思議そうな顔をしながら連夜が首を傾げると、和緋は苦い表情であさっての方向へ目を泳がせた。
これは…もしかしてもしかすると…


「和緋お前…裏口だったのか」

「っ!」

「いや分かるから。お前の態度見てればすぐ分かるから」


そんな、お前エスパー?みたいな顔されても困る。
よく考えればこいつは昔からただの体力バカだったし。


「お前が実力で次席とか天地がひっくり返っても無理だよな。ダルマが逆立ちするくらい無理だよな」

「そこまで言っちゃう!?少しはオブラートに包んでくんない!?いくら俺でも傷つくから!」

「え、お前傷つくような心あったの」

「楓ー!!」


さて、和緋で遊んだし、飯行くか。


「……遊んでいるな、あいつ」

「イキイキしてましたよね楓ちゃん」

「…………」

















【食堂】


「ここはいっちょ勉強会をするしかねぇな」

「勉強会?」


ずずっと、ラーメンを啜りながら和緋がまた面倒な事を言い出してきた。
颯斗がナポリタンをフォークに巻き付ける手を止め、聞き返すと和緋は大きく頷き、俺を見る。


「ここに首席様がいるじゃねぇか!」


つまり教えろ、と?

ぶっちゃけものすごく面倒くさいが、和緋にはあの時助けてもらったし、颯斗はともかく悠に赤点をとらせるのも忍びない気がする。

連夜は元々頭が良いから大丈夫だろう。


「……………ったく…ついて来れなかったら承知しねぇぞ」

「――駄目だよ峰岸」


呆れながらオムライスを口に運ぼうとしたが、連夜の声によって阻まれた。


「連夜?」


俺が呼びかけても連夜は俯いたままだ。
悠や颯斗も怪訝そうな顔をする中、和緋だけは眉間に皴を寄せながら連夜を睨み据えている。


「……いちいちオメェの許可が必要なのかよ克海…」

「……裏口なんてしてくる奴に教える筋合いはないって事だよ」

「おい連夜…」


ドン!!!


悠が遠慮がちに声をかけようとしたが、それを遮るように和緋が拳をテーブルに思い切り叩きつけた。
周りにいる生徒たちも一斉に会話を止め、そこら一帯に不穏な空気が流れ始める。


「この前から何なんだテメェ!言いてぇ事あんならハッキリ言えよ!!」

「峰岸に言いたい事?そんなの無いよ。強いて言うならその短気な性格なんとかして欲しいってことかな」

「テメェ…!!」

「やめろ二人とも。やるなら外でやれ」


なんだか朝から少し機嫌が悪いと思っていたがここまで喧嘩腰の連夜は久しぶりに見た。

和緋はいつもだけど。


「止めんな楓。こいつから売ってきた喧嘩だぞ」

「そんなの売った覚えないな。いい加減に不良的思考やめてくれない?野蛮だよ」


ぴく、と和緋の片眉が上がり、思い切り連夜を睨みつけた。

今まで抑えていた殺気に、周りの生徒が怯え出す。

(……これ以上はマズイな)

気絶させてでも止めようと、腰を上げかけたが、途中でやめた。







「――そんな変な色の髪と目ぇしてる奴に言われたくねぇ」



シン、と食堂中が静まり返る。



「―っ連夜!!」


連夜の目が大きく見開き、次の瞬間には顔を伏せながら食堂を飛び出して行った。


「…………」


ざわざわと騒ぎ立てる生徒たちに反して、俺たちのテーブルは気まずい空気を漂わせている。


「……ちっ。何も飛び出さなくたってい…」








ガシャアン!!!!!



「ひっ!!」
「きゃあああ!!!」
「な、何…!?」



俺はドカッと椅子に腰を下ろした和緋の後頭部にソッと手をやり


そのまま和緋の頭をテーブルに叩きつけた。



「っ楓!!お前っ…!」

「だ、大丈夫ですか峰岸くん!!」


悠と颯斗が割れたテーブルの残骸に突っ込んだまま動かない和緋に駆け寄り、俺は和緋を見下ろしている。

誰かの息を呑む音がしたが、気にはしない。


「……、…っかえ、で……てめぇ…」


口の中を切ったらしく、ペッと血を吐き捨てながら上体を起こし、俺を睨みつけた。








「――今のはいくらお前でも…許さねぇぞ。…和緋」





目を細め、咎めるような視線を送ると、和緋の鋭い目が気まずそうに俺から逸らされ、俯いた。
少しの間を置いて、ふい、と踵を返す。


「………楓…」

「便所だ」


それだけを言い残し、俺を避けるようにして割れた人垣の道を通り、食堂を後にした。













『――そんな変な色の髪と目ぇしてる奴に…』



和緋に悪気がなかったのは分かっている。
最初に喧嘩を売った連夜も悪いし、あいつは元々気が短い。
思ってもいない事を咄嗟に口に出して人を怒らせる、なんてことはざらにあった…

だけど、どうしてもさっきの言葉だけは許さなかった。


……まるで――自分に言われているようだったから。







「……ん?」


屋上に向かう途中、通りかかった空き教室から出てきた生徒を見つけ、思わず足を止めた。

あそこは確か科学部の暗室…

元は写真部の物だったが去年くらいにある事件を起こして廃部になり、今は科学部があそこを使っている。


(科学部の奴……じゃ、無いな…白衣着てないし)


暗室の前で2、3人の生徒がヒソヒソ話しているのを俺は近くの壁に隠れながら見ていた。

会話は聞こえないが明らかに怪しい。
その中の1人が小さな紙袋を持っているのに気付き、眉を寄せた時、




「阿呆。こんな所で話しているな。誰かに見られたら……――!!」

「っ!」




暗室から顔を覗かせた長身の男と、目が合った。


「おいっ!誰かいるぞ!」

「え!?」

「捕まえろ!!」


男が叫んだ瞬間、俺は走り出した。
後ろからバタバタと生徒たちが追い掛けてくるのが聞こえる。

チッ。
面倒だ…仕留めるか…?
…いや、"まだ"駄目だ。

どうせ仕留めるならシッポを掴んでからの方が良いだろう。


「………………何で自分から面倒事に突っ込んでんだ俺…」


なんて自嘲じみた事を言っても、後ろから追い掛けてくる奴らは止まらない。

走りながら生徒の顔を盗み見るが知らない顔だ。
さっきの男は来ていないのか…?
態度からしてリーダー的な立場のように見えたが…追い掛けてくる気配も、待ち伏せの様子もない。
何でだ?

"追い掛けられない"
もしくは"追い掛けたら顔が割れる"ような奴ってことか?




「…っ!!やべ、こっちの道は…!」




――行き止まり。







バン!!





「――なっ…!」



廊下の角を曲がった所で足を止め、引き返すそうとしたがそれよりも速く、側の教室の扉から腕が伸びてきた。

突然の事でバランスを崩しかけた俺を、伸びてきた手が支え、もう一つの手が俺の口を押さえ込み、部屋へ引きずり込んだ。











「――大人しくしてろ」






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あきゅろす。
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