ブラックレターにご用心。
今日も一日が始まる。
―――ドカッ
「んごっ!!」
「起きろ、朝だぞ」
「………あのー、楓さん?…もう少〜し優しく起こしてくれません?」
すやすやとベッドで寝ていた男――峰岸和緋を無情にも蹴落としておいて、その男のルームメイト――北条楓は悪びれた様子もなくあっけらかんと答えた。
「これでも手加減してんだ」
「鬼!!」
▽
「ぅう…もうちっと愛のある起こし方してくれたってよ…」
「なにブツブツ言ってんの峰岸」
「放っておけ」
体育祭が終わり、休みを挟んでから初めの登校になるが、朝から和緋が欝陶しい。
連夜たちと合流してからも、ブツブツブツブツ文句を垂れている。
つうか起こしてやってるだけ有り難いと思えよ。
「だからさ!もう少しだけでいいから優しく起こして欲しい訳なのだよ俺は!」
「………例えば?」
「例えば…っ」
呆れつつも例えを聞いてみると、考えるように顎へ手をやり、その数秒後には顔が綻んでいた。
…変な事考えた顔だ、コレ。
「例えば!寝ている俺の肩をそっと揺らしながら『朝だよ、起きて』と囁き、俺が重たい瞼を開けると優しく微笑む楓の顔があって、そこで俺は腕を伸ばし楓の頬へ手を添え、ゆっくりと引き寄せ…」
「ハイ自重ーー!!」
「何でだよ克海!!これからなのにー!!」
案の定、くだらない。
それにしても、和緋が徐々に颯斗化してきているような気がする。
変態が2人か…あ、2人どころじゃねぇな。
かたん・・・
今だに熱弁している和緋を横目に下駄箱を開けると、いつもの通り、カミソリレターが数枚入っていた。
少し減っているように見えるのは気のせいだろうか?
「…?」
その中に、初めて見る手紙があった。
と、いうより異様だ。
真っ黒な封筒に白い字で『漆黒の君』と、えらく達筆な字体で書かれている。
漆黒の君って誰。
まさか入れる所間違えたのか?
「楓?どうかした?」
「―――いや、何でもない」
なんとなく、見る気が起きず、これもまたいつも通りごみ箱へ入れた。
まさかそれをどっかの誰かがジッと見つめていたのも知らずに。
ガラッ・・・
「おっはよー!!楓ちゃ…へぶっ!!」
「朝からうざいな颯斗。お早う」
「ごふっ…今日もナイスな蹴りだったよ楓ちゃん!!」
教室の扉を開けると、真っ先に颯斗が飛び掛かってきた。
既に慣れた俺は飛んでくる颯斗の顔を思い切り蹴った。
豪快に吹っ飛んでいったが、恍惚とした表情を見せる。
…案外タフだよなこいつも。
「毎度懲りん奴だな…」
「………」
悠がはぁ、とため息をついた所で、少し教室内の空気が微妙に違う事に気付いた。
いつもなら颯斗を沈めた俺に鋭い視線があるはずなのに今日はそれがない。
むしろ…
「…なあ。なんか変じゃないか…?何でみんな顔赤いんだ…?」
「…………楓は知らなくて良いよ」
「?」
何だそれ、と聞こうとした時、教室の扉が乱雑に開けられた。
「おーう席着けー…っと、北条、もう体は大丈夫なのか?」
相変わらず怠そうに入ってきたのは有間だ。
有間は俺を見つけると嬉しそうに破顔し、側に寄ってきた。
「ぁあ。おかげさまで」
「はは、そうかそうか」
ぐりぐりと俺の頭を掻き混ぜ、上機嫌で教卓の方へ歩いていった。
どうでもいいけど髪ボサボサなんだけど。
「……セクハラ教師め」
「……何で抵抗しないのさ楓」
「え?いや、別に………なんとなく?」
上機嫌な有間に対し、ものすごい不機嫌顔な和緋と連夜がじとり、と俺を見てきた。
…特に理由なんてないんだが、そう答えるとどんどん目が据わっていく。
「「…………へえー…あーそう」」
「…………」
綺麗にハモりながら席に着く和緋たちの背中に首を傾げ、悠たちを見ると二人は呆れたように肩を竦めた。
「……なんだ…?あいつら…」
ぽつりと洩らした声は誰に拾われることもなく消えた。
「――つー訳で…まあ後は特に連絡事項はないから朝のHRはこれで終わりなー」
有間がそう告げた直後、話し声で教室中が賑わ出す。
ふう、と息をつき、出席簿を手に教室を出ようとするが、ぴたりと足を止めた。
「言い忘れてた。来週の頭からテストだからなー今週中にちゃんと勉強しとけよー」
それはざわざわとする教室を一瞬で静めるには十分な破壊力だった。
じゃっ、と言い残し扉を閉めた有間に、俺は深くため息をつく。
『テッ…テストォオオオオ!!!!!!』
和緋を含めたみんなの叫び声は元気に響いた。
枯れ木に花を咲かせてみよう
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