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「――東雲椿」


今日はどこらへんのサイトを巡ろうかな、とか考えながら歩き出すと、後ろから名前を呼ばれた。

一瞬迷ったが、ゆっくりと振り返ると予想通りの人物が俺を見据えている。


「…何か用?」

「さっきの詫びがしたい。会長と一緒に来てくれ」

「あ?俺もか」


詫び、ねえ…
とてもそんなことをしてくれる風には見えないんだけどなあ。

隣にいる成川くんは「偉いぞヒロ!」なんて言ってるけどめっちゃ殺気が出てますよその子。

あれか、成川くんに近づく野郎は誰だろうとぶっ潰す的なあれか?
ヤンデレとまでいかなくてもそんな感じか。
全然片言じゃないのは非常に残念だが。


「分かった。行くぞ、会長。武たちは先に帰っててくれ」

「あ、ああ…」

「ハニー」

「ん?」


やけに真面目そうな表情で、茅が俺に耳打ちしてきた。


「あいつ、気をつけた方が良いぜ」

「……お前に言われなくても分かってる」

「ま、ハニーなら大丈夫だとは思うけどな」


そう言うと、ニッと口元を上げ、武たちを部屋へと促した。

ただのウザイ奴かと思ったけど案外人を見ているんだな、こいつ。
その調子で成川くんの良い所を見つけて惚れればいいのに。



















「――で?武村…だったか?俺たちに何の恨みがあるんだ」

「返答次第じゃ許さねえぞ、千裕」

「………」


俺たち3人しかいない森の中、武村はジッとこちらを見たまま口を開こうとしない。


「おいコラ聞いて――…」






「…………邪魔。オマエラ死ね」

「…っ!?」


(――口調が変わった?)


呪詛のように吐き出された言葉と同時に、武村が一気に間合いを詰めてきた。


「……ぐっ…!」


会長の顔面ど真ん中を狙った手加減なしの突きを、会長は紙一重で避け、間髪を入れずに俺が武村の左頬を殴りつける。

大きく後ろへぐらついたが、倒れはしなかった。

…タフだな。


「…っ……潰す、…」

「千裕…てめえ……」


ペッと血を吐き出し、俺らを睨む目にはもはや殺気しかない。

こいつ、本当に高校生か?
本気で俺らを殺そうとしてんぞ…


「…ボスの興味引くモノ壊す。ボスの目に映るの僕だけで充分」

「………やっぱり、雫がカルナだったんだな」

「気休く呼ぶな!!」

「ンだとコラァ!」


ガキかお前は。

いいねいいねえ!
ようやく会長が成川くんの正体に気付いたじゃないか!
予定と少し違うが順調に進んでいるぞー!

という事は成川くんにちょっかいを出す会長を毛嫌いしている訳か。
全く…どこまで王道なんだよ君達は!
もっとやれい!

………ん?待て待て、だったら尚更俺は関係ないだろうが。




「オマエも嫌い。でも、オマエが1番邪魔。――東雲椿!」

「うをっ」


頭の上にはてなが浮かんだ直後、武村がハイキックを仕掛けてきた。
後ろに上半身を少し反り、スレスレで避けると、僅かに掠った毛先がハラリと宙に舞う。

いやー危なかったな、今の。


「…ボス、お前の話ばっかり」

「は?」

「せっかくあのバカ共雇ったのにオマエが台無しにした。オマエ邪魔!消えろ!」

「…………――何だって?」


バカ共を――雇った?

言われた意味を理解するために、普段使わない脳みそをフル回転させてみた。


「――まさか…あの運び屋の下っ端共は…」

「僕が雇ったに決まっている!」

「てめえそこまでするか!?ちひ――っ!!」


会長が武村の胸倉をつかみ掛かるが、その勢いのまま武村に投げ飛ばされる。


「……ってえ…」


せっかくのイイ気分がいっぺんに吹き飛び、沸々と心の奥底で武村に対する怒りが沸いてきた。


(……………そうか…あいつが武を…)


「………っ、東雲…?」


俺の足元まで飛んできた会長が、上体を起こし、俺の顔を怪訝そうに見ている。

ニッコリと笑い、目の前から催眠スプレーを吹き掛けると、ぐらり、と会長の体が傾いた。


「なっ…」


地面に倒れる寸前で受け止め、そのままゆっくりと地面へ寝かしつける。
完全に眠りに入ったことを確認し、俺は武村へと向き直った。


「こっから先は躾直しのお時間だよ」

「……オマエ、何なんだ…イミが分からない」

「意味が分からないのは俺の方だよ武村千裕」


若干の怯えを含ませ俺を睨みつけてくるその瞳を真っ直ぐに睨み返すと、武村の肩がびく、と揺れたように見えた。


「自分が何をしたのか分かっているのか」

「…シラナイ。僕はただ嫌いなオマエラを潰したいだけ。ボスに近づく奴みんな嫌い。ボス以外いなくなればいい」


おかしいな…いつもの俺だったらヤンデレktkr!総長に依存する忠犬萌えー!みたいな感じで喜んでいたはずなのにちっともそんな気分になれない。

お前が成川くんに依存しようが勝手だが"アレ"は少しやりすぎだったな。
下手すりゃ武がいなくなっていたんだ。

やるんなら俺たちのいない所でやってくれよ。




「嫌いだ…その目。気に入らない!お前なんか…消えろ!」


武村が隠し持っていた警棒を取り出し、それの先端を真っ直ぐに俺へと向けた。

まるで威嚇するように。

俺はそれに小さく口元を上げ、応えた。















「――ああ。…俺も、嫌いだなあ……」







消えて欲しいくらいに。






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