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書記との対面。







「いいかーよく聞けー非常に残念だが、ちょこっーとアクシデントが発生した。今日のイベントは中止するぞ〜」

「せんせー何かあったんですかー?」
「え〜中止しちゃうのー?」
「もう少しで何かかひらめきそうだったのにな〜」


飯島が拡声器で生徒たちにそう伝えると、一斉にざわつき始めた。
俺たちは集団の後ろの方でその様子を眺めている。


「結局、宝は何だったんだ?」

「さあな。どうせくだらねえモンだろ」

「武。あまり王道学園をナメない方が良いぞ。『意中の人独占券』とか『生徒会長一晩レンタル券』とかに決まっている」

「それお前の願望」


失礼な。
俺は成川くんが会長レンタル券を手に入れれば良いと思っているだけで、俺の願望ではない。

強いて言えば会長の願望だ。
何、決めつけだって?
知らん。


「あ、そうそう。ちなみに宝なんだが、手に入れた奴はいるぞ」

「!?」

「えーーー!?」
「何それ聞いてなあーい!」
「誰ー!?」


な、何だと…?
俺たちが運び屋の連中と揉めている間に宝は取られていたのか!?

誰だそいつ爆発しろ!





「――おい武村」


飯島が誰かに向かって合図を送ると、そこから一人の生徒が出てきた。

薄めのオレンジ色に、所々が寝癖のようにハネた無造作な髪。
ガタイが良く、背も高い。


「きゃあ!!」
「武村様あああ!!!」
「カッコイイ!!」
「千裕様でしたら許せますうう!!」


そいつが前に出て来た瞬間、爆発的な歓声が上がった。

武村…あれ?どっかで聞いた名前じゃないか…?


「あー!ヒロ!!」

「っ!成川くん、知り合い?」

「あ。いや…その……」


武村という生徒を指で差しながら大声で叫んだ。
すかさず、成川くんを問いただすと、焦りを見せた。

これは怪しい…!怪しすぎる。


「椿ちゃん、あれは2年の書記だよ」

「…………書記?」


武村…千裕…武村千裕!?
やっべ忘れてた!
あいつは俺の許可なしに成川くんに惚れた書記じゃねえか!

あいつが…!
書記と言えばワンコだよな!
片言で話す甘えん坊寡黙ワンコ!

それにしても、さっき成川くんは知り合いか、という質問にえらく動揺していた。
普通なら『友達になった』とかで済むはずだ。

…俺の予想が正しければ…




「成川くんの右腕?」

「なっ…何でそれを…!」


当たり。

成川くんにだけ聞こえるように耳打ちすると、目を見開き、少しだけ俺を警戒した。

さすがチームの頭。





――どうやらあの武村千裕とやらは成川くんにいたく執着しているタイプのワンコみたいだな。

さっきから成川くんの隣にいる俺と会長をずっと睨みつけている。
もちろん、会長も気付いていた。

いいねいいねえ…一人の総長を巡って繰り広げる男同士の睨み合い!

でも…


「…楽しそうだな、椿」

「――まあな……楽しくなりそうだよ。これから」


あの武村千裕とかいう奴は違う意味でヤバそうだ。

中々思惑通りにいかないが、それもまた一興ってやつか。


「なんか一言ねえか?武村」

「………」


飯島に話を振られた武村は少しの間を置いてから無言で一歩前へ出てきた。
武村のすぐ目の前にいるチワワ系集団がよろめいたように見えたが気のせいだろうか?

目眩がおきる程のフェロモンってお前…どこの山田太郎さんですか?
どんだけ王道なんだよ、萌えるじゃねえかバカヤロウ。




「――許さねえ」

「っ!!」


わお、ハスキーボイス――なんて喜んでいる場合じゃない。
不意に、武村がものすごい速さで片手を振り上げたのが見えた。
俺がそれを追うように上を見ると、ちょうど俺と会長の真上に野球ボールほどの玉が2つあった。
どう見ても狙ってやがる。

咄嗟に、袖からナイフを取り出し、周りに気付かれないように素早くブン投げると、ナイフは2つの玉を貫いた。
同時にパン!という乾いた音が連続で鳴り響く。


「きゃー!!」
「な、何…!?花火…!?」
「びっくりしたあ…」


ほとんどの生徒たちが空へ注意を向けている間、俺は武村をジッと見つめていた。


「心配すんな、ただの爆竹だよ」

「ちっ。あのバカ…一体なんのつもりだ…」


さっきの爆竹入りの玉は明らかに俺と会長を狙っていた。
あいつは相当俺たちが気に入らないらしい。

腑に落ちないのは…なぜ会長だけではなく、俺まで狙われたかという事。
俺はまだあいつと接触していない。


「椿くん…今の……」

「…随分と嫌われたもんだな」

「あービックリしたね〜」

「ヒロ!何でこんな事すんだ!」


成川くんが怒りを露にしながら武村へつかみ掛かる。
周りの生徒たちが耳をつんざくような悲鳴を上げ、成川くんへ罵声を浴びせた。


「ちょっとオタク!武村様に馴れ馴れしいのよ!!」
「アンタなんかが話しかけていいお方じゃないんだよキモ男ー!!」
「武村様は何もしていないでしょうが!!」


あの子たちには見えていないんだ、武村がこっちに向かってボールを投げたのを。

それだけ動きが速かったという事か。

さて、武村はどう出る?
俺としては敬語ワンコタイプが好きかな、成川くん以外には絶対に敬語使わないとか良いよね。


「ボス、あんた何であんな奴らと一緒にいるんだよ」

「ヒロ!そんな言い方ないだろ!親友なんだぞ!」


え、いつの間に親友になったんだ俺たち?


「親友じゃねえ、恋人だろ雫」


お前は黙っていろヘタレが。
そういうのは俺にしか聞こえないくらい小さい声で吐く台詞じゃないだろうがシバくぞ。

この俺様もどきが!


「親友…」

「そうだ!妙な事したら許さねえからなヒロ!」

「………分かっ…た…」

「よし!良い子良い子!」


精一杯背伸びをしながら成川くんが武村の頭を撫でた。

当然の如く、チワワたちの批判は激しくなっていく。


「……よく分かんねえがひとまず解散だ。自分の部屋に戻れおめえら」


飯島の一言で、それまで騒いでいた奴らが徐々に大人しくなる。
多少不満げではあるが、それぞれのペアを連れて部屋へと戻って行った。


「…また面倒な事になりそうだ…」

「今更じゃなーい?璃人ちゃん」

「お前が1番面倒なんだけどな」

「ひどっ」


ケンカップルはさておき、俺らも部屋に戻った方が良いな。


「戻るか、椿」

「だな」






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