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隠蔽。


武side



椿がどこの馬の骨かも分からん奴にキスされた。

茅郁巳とか言ったか?
ポッと出の分際でナメた真似してくれるよな。

(ふん。まあ俺だって椿とキスくらいした事あるし)

……保育園の時だけど。


「武くん?大丈夫?」

「…二階堂さん」


懲りずに椿へ抱き着こうとしてハイキックを喰らっている茅を密かに嘲笑っていると、二階堂さんが俺の顔を覗いてきた。

この人はこの人で結構謎なんだよな…
良い人、だとは思うが意外に馬鹿力だったり急に言葉遣いが悪くなったり…


「璃人で良い。それより、ちょっと聞きたいんだが…」

「?何すか」

「椿くんって…どっかのチームにいたりしたのか?」


手招きをされ、璃人さんに耳を貸すと周りに聞こえないように小声気味で囁いてきた。

まあ、そう思うのは無理もないだろう。
多分あの会長や成川がガチで戦っても椿には勝てないと思う。

あいつは、それくらい強い。


「………違いますよ。あいつはそういうのじゃないです」

「へーえ?それは興味深いな〜じゃあ何であんなに――戦い慣れしてるんだろうねえ…?」

「…どこから沸いてきたんだ、千景」

「てへ」


へらへらと笑う須藤に、璃人さんは眉間にシワをたくさん寄せ、心底うざそうな顔をした。

戦い慣れしている…か。


「…………――そんなの、俺が知りたいですよ」

「…武くん…君…」


椿は俺の知らない合間に強くなっていた。
何の為か、誰の為かも分からない。
どこで何をしていたのかも知らない。

ひょっとしたら幼馴染みと思っているのは俺だけかもしれない。
そんな事をいつも考えていた。


「多分…ここにいる誰かの方が、俺より椿に近い…」


ああ、俺はこの2人に何を愚痴っているんだよ。

茅郁巳のせいだ。
あんな簡単に椿に近付くから…


「「…………」」

「…何ですか」


悶々としながら茅を睨みつけていると、須藤と璃人さんが少し驚いた様子で俺をジッと見ていた。

それにムッと眉を寄せ、怪訝そうに尋ねる。
なんだか、見透かされていそうでムカつく。


「驚いた…武くんって、めちゃくちゃ椿くんが好きなんだな…」

「なあっ…!?」

「あ、焦った焦った〜武くん、分かりにくそうで分っかりやすいね〜」


本気で感心したように璃人さんがとんでもない事を言い出し、突然のことで言葉に詰まった俺を須藤がケラケラと笑い出した。

くっ…腹立つ…!

昔から

「武くんってクールだよね」
「いつも冷静で何を考えているのか分からない所が素敵」
「意外とヘタレ」

だの言われてきた俺が、分かりやすいだと…?
椿にだってそんなこと言われたこと無いのに…いや、気付かれたら困るけどよ。
つーか最後の言ったの誰だコラ。

正直、図星なのがさらに腹立つ。


「べ、別に…あいつはただの幼馴染みでしてですね…家が近いから…」

「目、泳いでる」

「冷や汗ダラダラ〜」

「…………」


もう、この2人嫌だ。






















「――つまり、東雲と山田が"偶然"奴らを発見し、そいつらにすりかわって須藤の救出をしたっつー事か」

「………そうっす」

「全く…あんな奴らに入られるなんて、警備は何をしているんだか…役立たずだなあ」


とある一室。
だだっ広い部屋の中央にあるソファーに俺たちは座っていた。

副会長が笑顔でぽそりと呟いたが気にしない。
気にしたくない。


「武すげぇな!銃相手に勝っちまうなんてよ!」


やたらとキラキラした顔で俺を見る成川。
椿め…まじでどうすんだよコレ。
俺としては、椿がやった事にしたくないのは確かだが、何でその身代わりが俺?
須藤でも良かっただろ絶対。


「な!椿もそう思うよな!」

「ああ。本当、武には何度も助けられてるからなあ…」

「へえー!すげー!」


それは俺だろうが…!

ヤロー…マジで俺をこの計画に巻き込ませる気だ…
大体、あの須藤に借りを作ってどうしようってんだよ。

情報取られておしまいじゃねえか。




「――さて、そろそろ時間だし、皆の所へ行こうか。今日のイベントは中止だからね」


ぱん、と手を叩きながら副会長が立ち上がった。
どうやら尋問は終わったらしい。
…そういえば俺たち新歓のイベントやってたんだっけな…そんなのすっかり忘れてたわ。

下手すりゃ、俺はここにいなかったんだ。


(もし椿が来なかったら…)


そう思うと、今更ながら怖くなってきた。
今はこうして平然としているが、相手は銃を持っていたんだ…あんなもので撃たれたりなんかしたら一たまりもない。


「…じゃあ俺たちは先に部屋に行ってるんで後はよろしくお願いしますね」

「っ!」

「え、あ…ちょっ…東雲くん!」

「椿!!」


会長に副会長、それに成川を残し、椿は俺の手を引きながら逃げるように部屋を出た。

璃人さんは分かるが、何で須藤と茅まで一緒なんだよ。


「どうしたんだよ」

「ん?まあ…ね…」


シン、と静まり返った廊下を歩きながら椿の横顔へ問い掛けても、曖昧な返事を返すだけ。






「………で?ハニー?何を掴んだんだ?」


後ろから茅の声。
その顔には楽しそうな笑顔が浮かんでいる。
須藤も同じだ。

俺と璃人さんだけが、不思議そうに2人を見ているだけ。

そして先頭を歩いていた椿がゆっくりと振り返る。


「――よく分かったな」


そう言って椿もまた、楽しそうに笑った。

同時に、口元を隠すようにして取り出したのは紙の束。
5センチくらいはありそうなそれをどこから取り出したのかは、もう聞くだけ無駄だ。


「椿くん…それは…?」

「まあ簡単に言えば――ブラックリスト…でも言いますかね。あの男たちの車からちょっと"借りた"んです」


……それ、借りたんじゃなくてくすねたって言うんじゃないか?
いつの間に。

椿は紙の束を俺たちの方へ向け、ペラペラとめくり始めた。


「…なるほどね〜」

「これっ…僕たちの資料…?」

「しかも顔写真付きか」


紙には一枚の写真と、その人物に関する情報がずらりと並べられていた。
使われている写真は明らかに盗撮によるものだ。

この学園の生徒ばかりを集めたらしい。


「これは、有力者のみを絞り込んだリストだ。生徒会長たちも載っていたからな」

「まじかよ…」


椿に渡されたリストをめくっていくと、確かに見覚えのある生徒がいた。


「恐らく、あいつらは人身売買の奴らじゃなく、運び屋の下っ端だ。プロなら"こういうモノ"は持ち歩いて、尚且つ、あんな分かりやすい所に置くなんてのは有り得ない」

「確かに…」

「……遊ばれたな、奴ら」

「え?」


顎に手をやりながら頷く璃人さんの横で、茅がぽつりと呟いた。


「そもそも、あんな所であんなデカイ車使えば見つけて下さい、とでも言っているようなもんだしな。なあ?ハニー?」

「誰がハニーだ。まあそういう事だな」


馴れ馴れしく肩に置かれた手を、椿は思い切りつねった。
今のは痛い…が、ざまあみろだ。

心の中で毒つき、紙をめくるとぱらりと、ちぎれた紙の破片が落ちてきた。
それをよく見てみると、微かに文字が書いてある。


「――っ!!」










『華道の家元。謎の三男、東雲…』




途中で切れてはいるが、確かにそう書いてあった。
男たちがこれを破る必要はない。


つまり、これを破ったのは椿だ。











――自分の素性を、隠す為に。







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あきゅろす。
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