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些細な誤算。

千景side




_____約1時間前__





「――来た」


網に捕らえられ、気を失った生徒に歩み寄る二つの人影。
真っ黒な服に帽子を被ったその姿はどう見ても教師ではない。

俺たちは物陰からジッと二人の行動を見ていた。


「…どうだ?」

「まずまずの顔だな。十分売れるぜ」

「ならさっさと連れて行くぞ。そろそろ商品も集まった頃合いだろうしな」


これは…人身売買…

ちょっとちょっと…何でこんな奴らがここに潜り込んでいる訳?

半ば呆れながら璃人ちゃんや不良くんに視線をやると、当たり前だが驚いた顔をしていた。
まぁ俺は割と"慣れてる"けど一般人にとって裏の世界はまるで別世界だろう。


「……………」


ちらり、と椿ちゃんを見遣る。

(……うーん)

さほど表情は変わっていないが、目つきが違う気がする。
例えるなら獲物を捉えた動物のような…いや、動物というより…

――獣。



「――須藤さん」

「…何かな」


不意に、俺の考えている事が分かったかのように椿ちゃんと目が合った。

一瞬ドキリとしたのは秘密だ。


「俺と須藤さんでアレを片付けて、璃人さんと忠犬くんは先生たちを呼んで来て下さい」

「………はい?」


忠犬くんって誰?とか思ったがそれは置いといて、今何て言いました?

アレを…片付けるだって?


「な、何を言っているんだ椿くん…!そんな危ない事させられない!」

「そーだよ椿ちゃん!」


俺と璃人ちゃんが小声で詰め寄ると、怒りを露にした椿ちゃんの表情に息を呑んだ。


「………だからって見過ごせる訳ないでしょう…」

「椿くん…」

「とにかく、早く行って下さい。……それと、何かあったらこれを…」


ポン、と璃人ちゃんの掌に置かれたのは――小銃。

いや…だからどこから出したの?


「……っ無理…!」

「何ナチュラルにこんな危ねぇもん渡してんだてめぇは…!」

「安心して下さい。麻酔銃ですから」

「椿ちゃん。問題はそこじゃないよ」


璃人ちゃんと椿ちゃんが銃の押し付け合いをしている内に、さっきの男たちは人一人入れそうほど大きな袋に、気絶している生徒を入れ始めた。


「椿ちゃん!」

「いいから行って下さい!!」

「でも…!」

「…俺たちなら大丈夫。早く、璃人さん」

「…………、っ!絶対に…っ絶対に無茶はするな…!!」


苦虫を踏み潰したように奥歯を噛み締め、璃人ちゃんは不良くんを連れて暗い森の中へ走り去って行った。


「――須藤さん」

「…貸し一つね、椿ちゃん」


残った俺たちは顔を見合わせ、一つ頷くと、男たちの方へ向かう。















「なぁ、この後の予定どうする?ダーリン」

「ん〜?ここはやっぱり温泉でしょ〜ハニーの綺麗な肌を堪能したいし?」

「……バカ。誰か聞いてたらどうすんだよ…」

「大丈夫、誰もいないよ。…ハニー…」


名付けて――『バカッポー大作戦』

俺たちのイチャイチャぶりに気を取られている隙に男たちを片付けるという、意味があるのか無いのかよく分からない作戦だ。
カップルっぽく手なんか繋いではいるが、さっきから椿ちゃんの力が半端なく強い。

というか痛い。

多分俺が男役なのが気に入らないのだろう。
それか腰に回している手かな?


「チッ…バカップルが。おい、一旦退くぞ」

「ぁあ……いや、待て。見ろよ」


一人の男が指を差すと、もう一人の男は気味の悪い笑みを見せた。
視線の先は、俺の横にいる椿ちゃんだ。

……完璧にロックオンされてるよ…気付いてないみたいだけど。

どうしたものか、と考えていると、一人の男が妙なものを持っているのが見えた。

(携帯…?いや…リモコンか?)

まさかさっきのトラップの…




「(ちょっと須藤さん、なに固まって…)」


――カチ


「っごめんよハニー!!」

「むぁ!?」



ドサッ…


バリバリバリッ!!



奴らの手元にあるスイッチが押されたの見て、俺は椿ちゃんに飛び掛かり、その場から離れる。

二人して地面へ転がった瞬間、スタンガンのような電流が足元から流れ、一瞬で消えた。


「……あんなものまで仕掛けていたのか…」


俺の下で椿ちゃんが小さく呟く。

今のは危なかったね、マジで。

ホッと息を吐き、立ち上がろうとするが、服の裾がクンと引っ張られた。


「須藤さん、そのままでいて」

「え、でも…」

「すぐ終わらせます」


そう言ってごそりと取り出したのは璃人ちゃんたちに持たせた物と同じ型の小銃だった。

………二丁持ってたんだ…


「外したか…タイミングの悪ぃ男だぜあの野郎…羨ましい」

「全くだぜ」


な、なんか俺妬まれてんだけど。
役得ってやつ?




プシッ、プシッ…



椿ちゃんが俺たちの間に忍ばせた小銃の引き金を二回素早く引くと、麻酔銃でよくある空気の抜けたような音のすぐ後に、ドサドサッと二人の男が地面に倒れる音がした。


「お見事。……"慣れてる"ねぇ、椿ちゃん?」

「………たまたまですよ。それより、今のうちに…」

「何?エッチしていいの?」


ゴリ…


「ウソウソ。じょーだんだから眉間に銃口押し付けないで椿ちゃん」

「…さっさとあいつらの身ぐるみ引っぺがして下さい、須藤さん」


渋々、椿ちゃんの上から離れる。
せっかく良い眺めだったのになぁ…


「…焦っても良いことないよ、椿ちゃん」

「…………嫌な予感がするんです…考えたくないけど…」

「嫌な予感?」


綺麗な顔を僅かに顰め、神妙な面持ちで頷いた。






「―――武が、危ない…」



















「――とまぁ、こんな感じ?」

「……、つ…つ…」

「つ?」


正座したまま俺の話を聞いていた武くんは、自由になった拳を膝の上でフルフルと震わせていた。

どうしたの武くん。


「椿を押し倒しただと…?」

「食いつくトコそこ?」


真顔で何ボケてんのこの子は。

俺がため息をつくと、外が静かになった。


「…どうやら片付いたみたいね。じゃあ行こうか、武くん」

「…………須藤先輩、何も聞かないんすか」


服を掃いながら立ち上がると、武くんが怪訝そうに尋ねてきた。
何も聞かない、ね…


「聞いたら答えてくれるの?椿ちゃんが何者なのか」

「…………」


やっぱり。
黙るって事は教える気がないってことだろうね。

まぁ俺としては、そう簡単に教えられたら興ざめしてるとこだ。
こういうものは自分で掴んでみるからこそ面白い。


「………何か企んでますね、アンタ」

「さぁ…どうでしょう?」


新しいオモチャを与えられたかのように、気分がイイ。


「ほら、早く行くよ、」

「はあ…」








カチャ。




「待て」



「「!!」」


荷台のドアに手をかけたのと同時に、金属音が頭のすぐ後ろから聞こえた。


「やってくれるじゃねぇかガキ共が…」

「………っ」


横で武くんが息を呑んだのが伝わる。

チッ。
奴らの仲間がこの中にいたのに気付けないとは…俺もバカだ。


「両手を上げて外に出ろ。まとめてブッ殺してやる」


うーん…これって結構なピンチじゃない?






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あきゅろす。
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