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危機、到来。

武side



「たっ君たっ君」
「なあにつー君」
「おままごとしよーよ」
「えーおんなのこみたいじゃん」
「だいじょーぶ!おとこのこしかできないおままごとだから!」
「?」
「びーえるおままごと『キンダンのかじつ』バージョンだよ!つーがセンセー役だから、たっ君はせいと役ね!」
「そんなことばドコで覚えたのおおお!!!」







ゴンッ!!


「――っ!!!!」


いっってぇぇ…!!!!
壁にもたれたままの格好から倒れ、思い切り頭を打った。
そしてズキズキと痛む頭を押さえようとして初めて気付く。

両手が背の後ろで縛られている。

まだ状況の把握できない俺は顔だけを動かし、目を凝らした。


「――……嘘、だろ…?」


そこにいたのは俺だけではなかった。

明かりもない薄暗い小さな部屋に、俺と同じように手足を縛られた状態の人間が5・6人転がっている。

どう考えても良い展開じゃない事は確かだ。
ぴくりとも動かないそいつらに、体を引きずって近寄り、口元に耳を傾ける。

(………寝てる…)

あの時嗅がされた薬は睡眠薬か…


「…どうすんだよ…このままじゃやべぇぞ…」


このままだと金持ちの変態野郎の所に売られて、あんなコトやこんなコトやそんなコトまでされるかもしれない。

冗談じゃねぇ。
まだ椿に何にも伝えてねぇのに変態なんかに売られてたまるか。

でも俺一人じゃ何もできねぇな……喧嘩だって弱いもんな、俺。
中学ん時だって椿絡みの喧嘩によく巻き込まれたり、変な奴に喧嘩売られたりしたが、ほとんど椿一人で片付けてたし…

俺は何年も一緒にいるが、あいつの装備しているムチやらナイフやら釘バットその他諸々がどこから出ているのかは今だに分からん。

それ故に、椿を怒らせるという事はイコール壊滅王の誕生だ。

椿の傍にいた俺をリンチしてきた奴らが次の日には県外やら海外に引っ越したのを何度も見ている。


「この状況もやべぇけど…こんな所を椿に見られるのもやべぇぞ…」


どこか逃げれる所…

キョロキョロと辺りを見渡していると、この部屋の外から男の声が聞こえてきた。





「あと戻ってねぇのは誰だ?」

「皆瀬と松本だな。二人が戻り次第出発するぞ」

「早くしねぇと荷台の商品たちが目覚めちまう」


荷台の商品…つーことは今俺たちは荷台に積まれてる訳か。

ならこいつらの仲間二人が帰ってくるまでが勝負だ。


横向きに倒れた状態の俺は後ろで縛られた手を靴の方へ伸ばした。
堅い体をえびのように反りながら、僅かに触れた靴の踵を探り、小さな突飛を摘む。


「……っよし、…取れた…」


震える指先で慎重に引き抜くと、10cmほどの小さなナイフが姿を現す。

昔、椿が俺に持たせた護身用の一つだ。
念の為、と思って忍ばせておいたのが役に立つとは思わなかったな…

ナイフをしっかりと握り、手首に巻き付いている縄を少しずつ確実に切っていく。

(…焦るな…焦るなよ……)


「………、……」










何重にも巻かれていた縄の半分がちぎれた時、





「お、来た来た」

「おまた〜」

「遅いぞお前ら。早くしろ、出るぞ」

「…………」



!!!


「しまっ…」


カラァン…


まだ戻っていない、という仲間二人が帰ってきた。

その瞬間、よほど動揺していたのか、ナイフが手から滑り落ち、金属音をたてながら床に転がった。


「ん?今なんか音しなかったか?」

「――…っ!!」


一人が今の音に反応し、怪訝そうな声をあげる。
俺は瞬時に動きを止め、息を潜めた。


「……気のせいだろう」

「ふむ…ま、いいか」


ホッと息を吐いたのもつかの間、男たちが動き始めた。


「…とりあえず二人追加な」

「なんだなんだ、二人も捕まえたのか」

「すごいでしょ〜でもコレの近くにいた美形二人には逃げられちゃってさー」


…逃げられた?
もしかしてその二人が誰かを呼んできてくれるんじゃないか?


「逃げられただと…?」

「マズイな、早いとこずらかるぞ」


俺と同じ事を考えたのか、急に慌て出した男に、後から来た男が静かに聞いた。


「……これで全員か?」

「ぁあ。お前らが最後だ」

「…ほいじゃこの子たち荷台に積んどくねー」


やべっ、こっち来る!

近付いてくる足音に一瞬ドキッとしたが、落ち着いて寝たフリをする。
やがて、ガチャンという大きな音の後に重そうな扉を開ける音が荷台の中に響いた。


「……………」


開け放たれたままの扉には、やたらと耳につく口調の軽い男が立っている。

(……?)

男はだんまりとしたまま荷台の中を見渡し、俺たちをジッと見つめていた。

(寝たフリがバレたのか…?)

緊張で早まる鼓動を必死に押さえ込み、しばらくすると男が堅い足音を響かせ荷台の中へ入って来た。


「さて、と…」


攫ってきた二人を脇に寝かせながらポツリと呟く。



「――…ご愁傷様」


もう、ダメか…

ごめんな椿…



















パァン!




悔しさに奥歯を噛み締め、目を閉じかけた時、銃声のような乾いた音が鳴った。

それはやまびこみたいに深い森の中に広く響き渡っていく。


「なっ…」

「おい何を…っ!!」


ガン!

バキッ!

グシャッ…!


男たちの焦った声の後に、尋常ではない不気味な音がたくさん聞こえてきた。

人が人を殴った時の骨がぶつかる音や何かを潰す音、そして地面に何かが落とされた音。

音しか聞こえない状況だと、何が起こっているのか分からず、背筋に冷たいものが流れ、体が勝手に震える。


「ねぇ。君、起きてるでしょ」

「っ!!」


唐突に、間近で話し掛けられ、びくりと肩が揺れた。

やばいやばいやばい殺される…















「――――こんな所で何してんの?」




……………
……………………は?



黒い服に身を包んだ男が被っていた帽子をくい、と上げた。






「―――…な、何でアンタが…!?」






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あきゅろす。
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