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胸騒ぎ。






「ん?椿ちゃん、何か落としたよ」

「へぁ?」


暗号を解読し、俺たちは黄色い布を探している。

後ろを歩く須藤さんが不思議そうな声を上げ、足元へ手を伸ばした。


「ストラップ?」

「あー…抜けちゃったのか…」


須藤さんの手には俺の携帯に付いていたシンプルなストラップが握られていた。

お礼を言い、受け取ったストラップを見ると、紐がすっぱりと切れている。


あーあ、お気に入りだったのにな…


「あらー…寿命だったのかね」

「綺麗に切れているな」

「うーん…数ヶ月前に武から貰ったんですけどね」


ゲーセンで取ったけど被ったからやる、とか言っていたが、コレはそれよりも前に俺が良いなとぼやいていたヤツだ。

ほんと、ツンデレだよ。
あいつなら受けもできるんじゃないかと考えたのもこの時なんだよね。


「ふーん…武くんがねー」

「……少し、不吉だな…古くもない紐が切れるなんて」

「考えすぎじゃない?璃人ちゃん」

「お前は黙れ」


再び口喧嘩を始めた二人の横で、俺は切れたストラップを見つめ、人知れず目を細めた。


(考えすぎなら良いけどな)


























「それにしても、黄色い布なんて無いじゃん〜」

「よく探せよ」

「ちょっ…なに休んでんの璃人ちゃん」


"黄色い布の木の下"

確かに、そう書いてあったが、本当に見付からない。
黄色なら目立つと思ったんだけどな…


「こう暗いと全く分からないな…」

「俺、木の上から探しますね」

「「えっ」」


2人が何かを言う前に走った。
手頃な木を探し出すと、直ぐさまよじ登り、太めの枝に腰を下ろす。
真っ暗でほとんど見えないが、目を凝らすと段々慣れ始め、少しずつ見えてきた。


「さて…」


腰に隠し持っていた双眼鏡をゴソリと取り出し、覗き込む。

もちろん、黄色い布を探す為にやっていることだ。

キョロキョロとしていると暗闇の中で仲睦まじく寄り添うリアじゅ…ゴホン、…カップルが見られるが、別にそれを見る為に双眼鏡を使っている訳ではない。


「……うーん。あれは確かC組の秋山くんと古山くんだな…やはりデキていたか…」


これは黄色い布を探すついでだ。
他意はない。
絶対に。


「……ん?」


自分で自分に言い聞かせていると、俺の目に不思議なものが映った。

俺のいる木から数十メートルほど離れた別の木だ。
まるで蜘蛛の巣に大きな獲物が掛かったかのような…

えっ、動いてる…?
いやいや、それ以前になんかアレでかくね?
人、みたいな塊…

さらに目を細め、身を乗り出す勢いでガン見してみると、やっとその姿が認識できた。




「人ぉ!?」


極めて信じがたい事だが、人が木と木の間に張られたネットに絡まり、蠢いている。

どうしてそうなったんだ。


一先ず、木から木へ移りながらソレに駆け寄ることにした。
















「えーと、…大丈夫か…?」

「っ!?」


恐る恐る声をかけると、大袈裟なくらいに肩を揺らすし、俺を見上げた。

木の上にいる俺に驚くのは無理もないが、俺的には君の方がビックリだよ。


「…!っせぇな!ジロジロ見んじゃねぇよ!」

「………いや無理だろ。むしろ写メりてぇから」

「ふざけんなバーカ!いいからコレ外してどっか行けよハゲ!」


ハゲ…だと…?
ひくり、と口元が引き攣り、目の前の奴を見遣る。

笑顔で網の隙間から手を入れ、そいつの頭を掴むと、思い切り力を入れた。


「い゛、でででで!離っ…!!」

「外してください、だろ…?」

「ふ、ふざけっ…いだだだ!……っは、外してくだ…さい!!」

「よし」


パッと頭を掴んでいた手を離すと、涙目になった目で俺を睨みつけた。

はは、可愛い可愛い。
もっと遊んでやりたいが、俺にもやることがある。

一度笑いかけ、木の上から飛び降りると、周りを見渡した。


「あったあった」


網を吊している縄へ駆け寄り、腰からナイフを取り出す。
上の方で男が息を呑むのを感じた。

縄へそれを宛てがい、勢いよく振りかざすと、ザクッと良い音を立てながらスッパリと切れた。


「うをわああああ!?」


同時に、木の上に吊されていた網と一緒に、男も落ちていく。
落下するその下には、俺。

マジかよ。


「っ!!!」

「……大丈夫か?」


網が絡まったままで受け身のとれていない男を横抱きで受け止める。
がっしりと首にしがみついている男に問い掛けると、ゆっくり顔を上げて…固まった。


「おい?」

「――ばばば、バカヤロウ!何してんだてめぇ!!」

「何って…落ちてきたから受け止めただけだが」

「なんでこんな抱き方なんだよ!!」


アンタが尻から落ちてきたからだっての。
俺だってこんなんしたくないんだけどしょうがねぇだろうが。

俺は見る側だ。
成川くんがされているのは尚良し!!


「離せー!!」

「分かったよ」


背中と膝裏に入れていた手をパッと離すと短い悲鳴をあげ、男は地面に尻から落ちた。

ざまぁ。


「なにすんだ!!」

「お前が離せっていうから…」

「テメーのは離したんじゃなくて落としたんだろうが…!!」


男が痛む尻をさすりながら俺に怒鳴り散らす。
全く、我が儘な奴だ。
というか顔が近い。

そこで初めて男の顔を真正面から見た。
やはり、美形…だが何かが違う。

灰色の髪に片方だけ控えめな剃り込みが入り、両耳についているピアス。
そして何より、眉間に寄ったシワとガラの悪い目つき!


「何見てんだよテメェ…あぁん?」








不良少年キターーーー!!





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あきゅろす。
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