あずきの左目。
◇
「ぅ……っ」
「!あずき?どうしたっ」
「な、なんでも…な……大丈…ぶ…」
あずきと一緒に5階を走り回っていた時だった。
突然、あずきが左目を押さえながらしゃがみ込んでしまった。
寄せられた眉と額に浮かぶ汗がどれだけ苦しいかを物語っている。
「左目が痛いのか」
「………っ」
とうとう話せないほど痛み出したのか、目をキツく閉じて小さく頷いた。
眼帯をしている理由はあえて聞いていなかったが、こんなにも痛むのは少しおかしいだろう。
いや、それより…左目から"何か"を感じるのは気のせいなのか…?
「……あずき。嫌かもしれないが、傷を見せてくれ」
「……?」
「確かめたいことがある」
「………」
荒い呼吸を繰り返しながら不安げに俺を見てくる。
しっかりと目を合わせ、左目を押さえているあずきの左腕にそっと手を添えた。
「大丈夫。俺を信じろ」
はっきりと告げると、あずきの見開かれた右目が微かに潤んだ気がする。
頷いたあずきの左手が離れ、眼帯を外した。
「これは…」
今度は俺の方が驚き、息を飲む。
あずきの左目は、一言で言えば赤かった。
瞳が、ではない。
目は閉じられ、その瞼が赤かったのだ。
真ん中に血のような真っ赤な玉が埋められてあり、周りには血管みたいな根が張っていた。
「…まだ痛むか?」
「少し…」
ドクンドクン、と脈を持っている左目に俺は手を当てて、小さく呪を唱える。
「――…痛く、ない…」
「………」
淡い緑色の光があずきの左目を覆い、あずきの呼吸が正常に戻った。
「友里、くん…?」
「…………」
俯いている俺にはあずきの顔が見えない。
けど声がとても不安そうだった。
「あずき」
「は、い…」
「"それ"はいつできた?」
「えっ?…えと、…8年前くらいに…」
8年前といえばあずき達は七歳。
…ぁあ…やっぱりそうだったか。
できれば、そうじゃなければ良いな、と思っていた。
「分かった。話は後でしよう。校内の鬼を捕まえるぞ」
「え?でもどうやって…」
「任せろ。少し、あずきの力を使うけど良いか?」
「それは…大丈夫…」
(鬼が誰かに"倒される"前に捕まえなけば…)
周りを見渡して、広そうな場所を探す。
「あずき、この近くに何もなくて広い場所はあるか?」
「あ、ここは5階だから…あの突き当たりを左に曲がった所に鍛練場が…」
「よし、行くぞ」
「…うん!」
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