朝。
◇
「ん………」
目が覚めると見慣れない天井が目に入った。
(…ぁあそうか…学園に来たんだった…)
時計を見ると、明け方の4時。
「……そのまま寝ちゃったのか」
どうやら昨日の歓迎会の後、そのまま寝てしまったらしい。
俺が寝ていたのはソファーだった。
もう一つのソファーには夜誇が寝息を立てている。
二つのソファーの周りには明彦と隆宏とあずきが雑魚寝していた。
みんな気持ち良さそうに寝ている。
なるべく起こさないように毛布をかけ直し、軽くシャワーを浴びようとリビングから出た。
(散歩でもするか)
「誰もいないな…」
当たり前か。
まだ4時ちょいだし。
薄暗い空を仰ぎ見る。
春だがまだ少しだけ肌寒い。
「………桜?」
視界にひらりと入ってきたピンク色の花弁。
寮の庭は辺り一面に芝生のようになっていて緑が多い。
その中に一本だけ、大きな桜の木が立っていた。
(…古い木だな)
風が吹き、木が揺れ、満開に咲き乱れる桜の花が雨のように降り注ぐ。
「…………綺麗だ…」
なんだか嬉しくなって桜の木を優しく撫でると、応えるように花びらを散らしてくれた。
「――…心奪われる美しさとはまさにこの事か」
不意に後ろから聞き覚えのある声がした。
凛としたよく通る声だ。
「花桜院の若…」
「…俺をその名で呼ぶ者は貴君で二人目だ」
それって俺のことか?
というか今の俺は素なんだけど大丈夫だろうか…?
まぁ黒髪の時とは大分印象が違うから大丈夫だな。
「見ない顔だが…何学年だ」
「………秘密です」
「ほう……名前は」
「もちろん、秘密です」
「肝が据わっているな」
いや昨日会ったから言えねぇって。
…ガン見されてる……
「ちょっと良いか」
「は?……え、ちょっ…」
穴が開きそうなほどガン見されていると思ったら今度は顔を両手で挟まれ、至近距離で見られている。
近すぎだコラ。
…気まずいんですけど。
「……………どこかで会ったか…?」
「え…いえ。会ってませんけど」
「そうか…いやすまない。白蓮殿に似ていたのでな」
「白蓮…」
え、?
俺が祓い屋として名乗る名前は二つある。
一つは、本名の"黒崎友里"
そしてもう一つが、
"白蓮"だ。
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