短編倉庫
寝言
いつも目の下に隈をこさえているギンギンモンスターでも、さすがに徹夜を重ねれば体力も落ちる。そこを睡魔に襲われたらイチコロなのは目に見えているわけで。
「おい」
会計室にいる男に用があった俺は障子の前から中にいるであろう奴に声をかけた。
しかし返事がない。
「おい、いねぇのか?」
言いながら障子を開けてみれば、そこには見知った背中がある。
「んだよ、いるんじゃねえか」
わざわざこっちから出向いてやったというのに無視とはいい度胸だ。
「おい、文次郎!」
「……………………………………」
「っのやろ…」
勢いに任せ、肩を掴んで振り向かせようと手を伸ばしたが、すんでのところで踏みとどまらせる。
「――…文次郎?」
「……………………………………ぐぅ…」
思わず俺はずっこけてしまった。
当然だ。
「この野郎、帳簿つけながら寝てやがる!」
こんなになるまで睡魔と戦い抜いたのだから見上げた根性だ。
伊作に話せばさぞや怒り狂うだろう。
(今回は何徹したんだか…)
呆れて起こす気にもならない。
というより、むしろこれは好都合だ。
不可抗力であっても折角眠っているのだから存分に寝かせてやるべきかもしれない。
「仕方ねぇな…」
予算についての話し合いはまた後日改めてすることにしよう。
文次郎の手から筆を放させ、起こさないように体をゆっくりと倒してやる。俺の上着を体にかけてやり、こいつの頭を俺の膝にのせてやれば膝枕の完成だ。
起きた文次郎の反応が楽しみで頬の筋肉が緩む。
こいつはこういうことに過剰反応するから面白い、と仙蔵が言っていたが俺もそう思う。
最近いちゃつく間もないほど忙しかったし、このくらいの悪戯ならこいつだって許してくれるはずだ。
うまくいけば甘えてくれるかもしれない。
早く起きろ、いや存分に眠れ、と相反する気持ちを心中に飼いながら恋人の隈をそっとなぞってやる。
「………ん…」
(やべっ!!)
起こしたか?
そんな俺の緊張感などいざ知らず、文次郎は俺の腹に顔を向けるように寝返りを打った。
ホッと息を吐いたのもつかの間。
「ん、んん…」
文次郎が俺の腹に顔を埋めるようにしてたくましい腕で俺の腰を抱き締めた。
「ちょ、もんじ…」
「……………とめ」
小さな声でそう呟くと、普段からは想像もできないようなふにゃっとした笑顔を見せた。
ぞく、と背筋が震え、尾てい骨付近を直撃する。
(あ、これは)
ヤバイ
俺の本能が鎌首をもたげようとしている。
しかし今は恋人の貴重な睡眠時間。起こすわけにはいかない。
こいつの純粋な笑顔を汚すわけにはっ…!!
ぬおおおおおおおおおおお頑張れ俺の理性!せめて文次郎が自然に目を覚ますまでもちこたえてくれぇええええええええ!!
恋人達に睡眠で6のお題 より
『1.寝言』
…TOY様よりお題をお借りして。
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