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短編倉庫
Voi che sapete
「お前、好きな奴とかいる?」

その言葉に俺は顔を上げた。

まさか俺の気持ちに気付いてカマをかけているのかと勘繰ったが、どうにもそんな様子じゃない。

「なんだよ、急に」

「…昨日、女子生徒に告白された」

ガタッ!
俺が急に立ち上がったせいで椅子が音をたてる。

「…へ、へぇ。ふーん。あっそ。…で、付き合うのかよ」

「いや、断った」

その答えにホッとするが、妙に淡々としていて言い知れぬ不安を感じた。

「何でだよ。お前に想いを寄せるような酔狂な奴、この先現れるかもわかんねぇぜ」

嘘だ。実はこいつ、俺よりモテる。
本人は気づいていないようだが、ファンクラブもある。
バレーの大会でよく声援を送ってる黄色い声、あれ七割方お前の応援なんだぞ。バレンタインの時、机にも下駄箱にも果ては体育袋の中にまでいっぱい詰め込まれていたのはどこのどいつだ。
気付かない方がおかしいだろ、この鈍感。

「恋愛感情がないんだから仕方がないだろう?」

「う、まぁ、そうだけどさ」

「…最近気づいたんだが、どうにも俺はそういうものに疎いようでな」

今更かよ!

「勉強を教えてやっているんだ、お前も俺にひとつだけ教えろ」

「…な、なんだよ。勉強関係ならできねーからな。お前、公立大志望だろ」

短大志望の俺より頭いいこいつにわからないことがあるだろうか。いや、あるはずがない。


「恋って何だ?」


その言葉に俺は頭が真っ白になった。

「………は?」

「お前、俺よりモテるだろ。恋もたくさんしたはずだ。だから教えてくれないか?」

なんだこいつ。
俺が何のために必死こいて勉強頼んだと思ってんだよ。
テスト勉強くらい俺一人でできるし実は単位が危ういとか嘘だよ。俺が、何を思って、

「…じ、冗談にしては笑えねえよ」

「俺は本気だ」

そう言うと奴は眼鏡を外して机の上に無造作に置くと息を吐く。

「…実は、15年間生きてきてまともに人を好きになったことが生まれてこの方無い。友人的な好意じゃない、恋慕の情というものをだ。自分は女性に興味がない性癖なのかと思ったが、色々試してみてそうでもないと感じた。しかし、恋愛小説を読んでもさっぱり理解ができない」

こいつは愛を知らないロボットか!!

「なあ、留三郎」

眼鏡越しじゃない視線に自然と顔が熱くなる。

でも、でもさ文次郎。

お前の目が見ているのは、俺じゃないんだろう?

「恋とは何なのか、教えてくれ」


そこが、俺の限界だった。



崖の限界まで追い詰められた場合、そこからどうすればいい?



(そんなの…)

ガタン
急に立ち上がったら椅子が倒れた。

俺の手がシャーペンを放り出し、目の前に座る文次郎の胸ぐらをひっ掴んで引き寄せる。

「とめっ…―――――」



一か八か。

飛び降りるしかないだろう。



「………………」

合わせた唇をそっと離し、掴んでいたシャツを放してやれば奴は落ちるようにドサリと椅子に座る。

「……これが恋だ」

文次郎は呆けたようにただ俺を見上げていて、それは何となく気分がよかった。

「わかったか?」

「………わ…っかるわけ、ないだろ…」

文次郎は半分上の空で答えたがそんなんどっちでもいい。ここまでやったんだ、今更隠す気も逃がす気も起きなかった。

その目に映ってないなら、映させるまでだ。

「そりゃ残念」

そうだろう?

「…じゃあ、手取り足取り俺がみっちり教えてやるよ」

そう言って額に口づけてやれば、ようやく奴の顔が真っ赤に染め上げられた。









Voi che sapete = 恋とはどんなものかしら




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あきゅろす。
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