短編倉庫
いつまでも一緒に(仙+文)
文次郎がターコちゃんに落ちていると喜八郎が報告してきた。
なぜ私に言うのか解せぬが、普段ギンギンに忍者している同室をからかうために仕方無く腰を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・
「……成る程な」
同室は穴の底でいびきをかきながら寝こけている。
その顔色の悪さに彼と授業以外で顔を合わせるのは実に一週間ぶりであることに気付いた。
大方、寝不足が祟ってふらふらと歩いているところで落ちたのだろう。
「無理をしすぎだ、阿呆め」
首根っこでも掴んで引き上げてやろうかと腕を伸ばすが途中で気が変わり、にんまりと笑うと思いきって熟睡する男の上に身を踊らせる。
「ぐえっ!!」
腹にかかった重圧に一発で目を覚ました男は私の顔を見て空を仰ぎ、首をかしげた。
「…おれ、ねてたのか…」
「なに、気にすることはない。私も寝るところだからな、そのまま寝ろ」
「………こんなところでか」
「一緒にいてやるから、安心して寝てろ。今の貴様には睡眠が必要だろう」
「…お前は、甘いのか厳しいのかわからん奴だな」
「甘いのも厳しいのも、お前だからよ」
「…はは……告白みたいだ…な…」
既に半分眠りに落ちかけている男の視界を塞げば、静かになるのも時間の問題。
ひとつ、ふたつと数える間も無く寝息が聞こえてきた。
「…ふん、告白か」
この男に向けている自分の気持ちはそのように甘く、艶めいたものとは遠く離れている。
こいつとはあくまで同室であり、ただの相棒。
それ以上でも以下でもない関係。
だが、許されるのならば。
「このままずっと、一緒にいたいとは思っている」
お前は加減というものを知らないから、放っておけば戦で死ぬ前に過労死してしまうだろう?
毎日己の感じるままに喜怒哀楽し、任務では嘘のように感情を殺すお前に何度救われただろうか。
お前といる毎日にはちゃんと色がついている。
「お前と共にいると苦労するが、退屈しなくていい」
瞼を閉じている筈の男が呟いた寝言は「おれも」と言ったように聞こえた。
まったく都合のいい耳だ。
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