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短編倉庫
がんじがらめ

お前は覚えてないだろう
俺と何回出会って 何回恋に落ち 何回死に別れたか

俺の想いが強いからなのか、何度生まれ変わっても必ず俺たちは出会った。
ああ、出会わないときは無かったさ。
出会って恋に落ちて死に別れるまで3日とかからなかったときもあった。

死に際のお前の台詞はいつも同じで

そんな言葉残すもんだから、俺はお前を追わずにいつも大往生するしかなかった。

最初に出会ったのは室町。
今考えればあの頃が一番良かった。

戦ばかりの戦国時代や太平ではあれど身分の格差があった江戸時代、軍に徴収された大正時代、戦争に駆り出された昭和初期

そして、戦も身分も軍も無くなった平成。

自分のことで精一杯の俺を尻目に、お前は広い世界について思考を廻らせていたな。
だからこの時代が一番厄介だ。
学園という檻があったあの頃と違って、お前をこの国に、俺の手元に置いておく術がないのだから。









文次郎の留学が決まった。
今世で未だ俺の気持ちを伝えていないのに、だ。



「留学なんざ止めとけ止めとけ。てめぇはどーせ悲惨な死に方しかしねぇんだからよ」

屋上の低いフェンスに寄りかかりながら俺が吐き捨てると文次郎が眉間のシワを深くした。

「…んだそれ。俺がいつそんな不道徳なことしたっつーんだ」

(してんじゃん…)

俺の心を縛り付けて動けないようにしておきながら、お前は自由に生まれ変わる。

俺のことなんか忘れて。

「だから、俺の傍から離れるなよ」

組んだ腕に顔を埋めながら言うと、文次郎の視線を感じた。

「…だったら、お前も来るか?」

「ーーーーーーえ」

「一緒に留学しよう。お前、馬鹿だけど頭の造りはいいんだ。絶対にできるって」

「え、あ」

「イタリアって温暖でいい国らしいからな。一緒に暮らせばさぞかし楽しいだろう」

「あの、おい」

「それで向こうに籍を置いて、気に入った土地に移り住んでだな」

「おい、文次郎!!」

「結婚しよう」


息が止まった。


「……へ…」

「もう戦も身分も軍も無くなった、お前と片時も離れたくない。でも俺は外の世界を見たいんだ」


「も、文次郎…?覚えて、」

「お前との生涯だぞ。簡単に忘れられるか、バカタレ。何なら今までにお前が俺に伝えた告白の言葉を朗読してやろうか」

わしわしと大きな手がセットした髪型を乱していく。昔と違えど、お前の手はいつも大きい。

「じゃ、じゃあ何で」

「好きだったから…忘れて欲しかったんだ。でも、俺の想いが強すぎたのかいつもお前は俺を迎えに来る。それが申し訳なくて、俺なんかよりいい奴なんかたくさんいるのにって、忘れた振りをすればお前も愛想尽かすだろうと思って…」

最後まで言わせる前に文次郎に向き直り、脳天に拳骨を落とした。ぐ、と呻く彼を抱き締める。

「…………ばか、おれが、お前のこと忘れられるわけ…おれのほうが、すきなのつよいから…」

やっとそこまで伝えると、文次郎の腕が俺の背に回った。



何だ

縛り付けていたのは俺も同じか



「文次郎、勉強教えて」

お互いにがんじがらめに縛りあっておいて、それに気付かないなんて。
なんて滑稽、なんて間抜けな俺たちだろう。

「俺も、お前と同じ所に立ちたい。ずっと傍にいたい。結婚しよう。今度こそ、一緒になろう…」

すると抱き込んだ胸の中で文次郎が苦しそうに笑った。

「バカタレ。この先も、だろう」

愛しい。愛しい。

きっと俺たちはまた巡り会う。
その次まで、まずは今の人生を楽しもうか。

一緒に。






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