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短編倉庫
朱に交われば (雑文



何をしたいわけでもない。

ただ、燃える赤に誘われるがままに外に出た。



「……陣内」

「組頭、夜風は御体に障りますよ」

背後には男の部下、忍者隊の小頭である山本陣内が控えていた。

「何故このようなところに?」

その問いかけに男は赤く染まる空を見上げる。

「…綺麗な夕焼けだねぇ」

山本はその言葉に怪訝な表情を向けるのみで返事はしなかった。

「朱に交われば赤になるとよく言ったもんだよね」

男は目を細める。

「でもね、朱は交われば赤に色を変えるけど、黒は、何と交わっても黒だ」

ゆっくりとその夕焼けを侵食していく夜空を仰いだ。

「交わる色を呑み込み、取り込んでしまう」




似ていると思わないか?




背後に控える男は答えず、目を閉じたまま逆に問うた。

「ーーーーーーーあの忍たまのことを考えているのですか」

鮮やかな松葉色。意志の強い瞳の奥に映える赤が浮かぶ。

あの瞳の奥で赤が激しく燃える様子を見るのが何よりも好きだ。
あの目が、あの赤が自分にだけ向けられたらどんなにいいだろう。
縛り上げて、滅茶苦茶にして、ひたすらに自分の姿を焼きつけてやりたい。

そんな大人げないことを考えたのはついこの間の話で。

「………」

「組頭、」

「…さて、日も暮れたし戻ろうか。どうやら来客もあるみたいだから…」


そう言う彼の顔に浮かぶのは夜闇に紛れるほどに暗い、うっそりとした笑顔のみだった。












……

……………

いつから笑顔を崩さなくなったかな?








闇に包まれた森の中、男は飛沫をあげたものを浴びることなく仕留めた獲物を見下ろした。

床に倒れているのは敵対する城から潜り込んだ雑兵だ。おそらくこの城の偵察をしに来たと思われるが、いかんせん派手に動きすぎた。
その動向が忍者隊の目に留まらぬとでも思っていたのだろうか。


ふと、男の目に雑兵の喉から散ったものが目に入った。


ーーーーーーーー赤。


しかし、闇に溶けつつあるこの色は己の好む赤とは違う色だ。
己の求める赤よりもどんよりと黒く、汚ならしい。

「ーーーーーーーー…」




あいたい


誰に?











**********

「あなたはいつも突発的に現れますね」

「んふふ。プロの忍者だからね」

茶と菓子を出してもらいながら男は笑った。

「こなもんさん、今日は何の理由でこちらに?」

「何って、言うまでもないよ。私はこうしてまったりお茶を飲んで、お菓子を食べて、日々の疲れを癒しに来ているんだから」

「建前ばかり並べても、彼は気づきませんよ?」

ふんわりとした髪を結っている彼は柔らかく微笑んで男を見つめる。普段は何とも思わない視線が今回ばかりは妙にむず痒く感じて膝に座る少年に目を落とすことでそれを振り切った。

「ふしきぞーくんも私がここを訪ねると嬉しいでしょ?」

「山本さんは今日来ていないんですか〜?」

その返答にガクリと肩を落とす。

「山本さんの下さった人形、今も大事に使っているんですよ」

「私が版元なのになぁ」

苦笑をこぼしたとき、音無くして廊下を駆けてくる気配を感じて少年を膝から降ろす。

「やはり来ていたのか曲者!今日こそ俺と勝負しろ!」

強く睨み付ける瞳。その赤に映る自分。

「………さて、私は満足したからお暇するよ」

「逃がすか!」

庭に出た男を追ってきた彼を振り返ると、その胸ぐらを掴んで引き寄せる。

唇に一瞬感じた、柔らかな感触。
「ーーーーーーーー……っな、」

男の手を弾き、彼が二、三歩後ずさった。

「な、なにを」

「ん〜?ふふふ、口吸い」

うろうろと揺れる赤は踊る炎のようだ。

無骨で荒々しく、妖艶で美しい。

「あれ、もしかしてハジメテだった?そうだったらごめーんね」

「……誠意が感じられん…」

「そりゃあ誠意込めてないもんね」

「っこのバカタレ!」

飛び退いたそこには綺麗に一列、手裏剣が突き刺さった。

「おやおや、真っ赤っかだねぇ。奪っちゃった〜」

「っの、っば、」

「そんじゃーまたね〜」

「まちやがれぇ!」と叫ぶ声が遠退く。


ああ、ああ。

気づいてしまった。


自分は、あの赤が愛しいのだ。






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