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短編倉庫
全部が欲しい

「このっ、馬鹿食満っ!!」

「んだとっ、ギンギン野郎っ!!」

重い拳のぶつかり合いが続く。
制服はボロボロだし、全身が痛てぇ。
だがその反面、血が沸き立つような感覚が楽しい。
その殺気立った目が俺を煽り立てる。

いいぞ。

もっと

もっと、

俺を…

「お前にだけは」

「てめぇにだけは」

「「負けたくねぇ!!」」

叫びと共に互いの顔面に拳がめり込み、よろけた。

「「真似するんじゃねえ!!」」

再び胸ぐらを掴み合い、全く同じ言葉を叫ぶ。
そのとき、

「潮江先輩!お取込み中申し訳ありません、急ぎの用事が」

聞きなれた後輩の声に文次郎は振り上げていた拳を止め、あっさりと俺の胸ぐらから手を離した。

「…用が出来た。ケンカはやめだ」

「なっ!逃げる気かてめぇ!」

「用が出来たっつってんだろ。次に持ち越しだ」

俺に背を向け、奴は自称学園のアイドルのもとに歩いていく。
そして、何故だろう、その背中に猛烈に腹が立った。

「っ、」

自分をいさめる間もなく、気付くと俺は文次郎に飛びかかりその筋肉質な体を地に組伏せていた。

「ぐっ…おいっ、食満!?」

「敵に背を向けるたぁ、随分と余裕じゃねえか」

苦しげに見上げてくる文次郎に気分が高揚する。
そうだ、もっと俺を見ろ。

「勝負は持ち越しと…」

「気に食わねぇんだよ、てめぇのその余裕が!!」

勝負なんかどうでもいい。

いつも俺ばかり必死になって、お前は振り向きもしないで。

お前がいつも最後に見せるのは後ろ姿だ。
前ばかり向いて、他の奴らには俺に向けないような顔ばかり見せやがって。俺はそんなお前の背中ばかり見てきた。
何で気づかない。
こんなにも、こんなにも、

「っ少しは、俺を見ろよ!」

「ーーーーーーけ、ま…」



俺だけに構っていられないことぐらい知ってる。

それでも、お前の全部が欲しいんだ。



熱いものが俺の頬を伝って文次郎の頬に落ちる。
彼は驚いたように目を見開き、そして諦めた様子で地に額を押し付けたまま目を閉じた。


















無意識に文次郎に恋する食満と、ようやっと食満の自分に対する気持ちを理解した文次郎。

どっちも鈍感。

私はスランプ気味。

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