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先憂後楽ブルース
002


俺は、この世に生まれてから一度も、アイツを兄貴だなんて思ったことはなかった。

いや、そう言うと少し語弊があるかもしれない。たしかに小さい頃は兄貴だと思ってたし、そう呼んでいた。ただ今になって思えば、兄に対してあんな感情を持つなんて異常だった。初めから俺は、確かに兄を兄として、見てはいなかった。

兄貴じゃないならなんなんだ、と訊かれれば俺は迷わずこう答える。



──運命だ、と。






小学校低学年の俺が気づいたことは、アイツを思うこの気持ちが“おかしい”ということだった。

母さんに、学校に好きな人はいるの? と訊かれたとき、俺は迷わず兄の名を出した。それを聞いた母さんは笑って、そういう意味の好きじゃないのよ、と言った。けれど俺は母さんの言った言葉の意味をちゃんと理解していたし、真剣に答えたつもりだった。ただそれは、まわりにはどうしても理解されないものだったんだ。


そして小学校高学年の俺が知ったことは、アイツは決して俺を“愛さない”ということだった。

俺はアイツに好かれたくて人一倍努力した。勉強だって、スポーツだって、見た目すらも格好よく見えるように。
けれど俺が必死で頑張って立派な人間になれたとしても、アイツは俺のことを、かっこいいとか、そんなこと思うわけがなかった。当たり前だ。厳しい父親に俺と比べられて、俺が出来ることをお前も出来るようになれと強要される日々。

ただ俺は、いつの日かアイツも俺を好きになってくれるんじゃないかって思ってた。弟としてではなく、男として。でもそんなこと、ありえるわけがない。アイツは、俺を愛さない。俺がどんなに頑張ってもだ。

兄弟愛なんて、俺はそんなものいらなかった。
だってそんなのは、愛じゃない。
俺が欲しいものはただ一つ。それだけあれば、他は何もいらないのに。


そして思いばかりが積り積った中学生の俺がわかったことは、俺を蝕むこの感情は、いつか、俺とアイツの関係を跡形もなく壊してしまうだろう、ということだった。


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あきゅろす。
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