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騒擾恋愛
003



「千石さーん! 昨日ぶり〜」

「………」

知らない男に不貞を働かされそうになった次の日の昼休み、当たり前のようにうちのクラスにやってきた水島は俺に向かって馴れ馴れしく手を振ってきた。ただでさえ派手な金髪が目立ちまくりな登場の仕方をしたためにクラスメート達の注目を一身に浴びるも、奴はそんな視線をものともせず硬直する俺の元へまっすぐ向かってくる。

「な、なにしに来たんだよお前…っ」

「お前、じゃなくて水島英雄。覚えてよ千石さん。また会いにくるって言ったじゃーん」

「…今すぐ出ていけ。二度と来るな」

耳元で囁かれ鳥肌が立った俺はすぐさま水島から距離をとる。全身で拒絶を示す俺を見て奴はにんまりと意地悪そうに笑った。

「ひどいなぁ千石さん。ちょっとお話しに来ただけだってのに」

「俺はお前と話すことなんかない」

「へぇ、可愛い後輩にそんな態度とるんだ。だったらここで一方的に話そっか。大声でさぁ」

「……っ」

こいつなら本当にやりかねない、そう思った俺は気づくと奴の手を取り立ち上がっていた。

「なに? 出んの? いいよ、千石さんが引っ張ってくれんなら」

こいつの言うとおりにするのはしゃくだが、ここで下手なことを言われるより何百倍もマシだ。俺は沢木に大丈夫だからと目で合図して素早く水島を教室から引っ張り出した。






「いったいどういうつもりなんだよ、お前」

できるだけ人の少ない、けれど誰かからは見えるような廊下の隅に奴を誘導し、俺は声を抑えつつ奴を問い詰める。水島は肩をすくめ、すぐ後ろの壁にもたれかかった。

「俺と沢木のことはほっといてくれ。お前には関係ないだろ」

「関係あるよ。俺にとってさ、あんたは最後の砦なんだよね」

意味不明なことを言う水島が真剣な表情で俺に近づいてくる。危機感を感じた俺は奴を避けながらいつでも逃げられる準備をしていた。

「もし千石さんが沢木瞬と別れないなら、2人のことを学校中にバラすって言ったら、どうする?」

「な…」

沢木に迷惑をかけてしまうことを恐れるあまり水島の脅しに思わず怯んでしまう。そんな自分をどうにか落ち着かせ、精一杯虚勢を張りながら水島を睨みつけた。

「言いたいなら勝手にすればいい。俺は沢木と別れるつもりは一切ない」

仮にいつか俺達の関係が崩れる日がきたとしても、それは第三者の手によるものではない。こんなよくも知らない男のいいなりになる気はさらさらないし、だいたいそんな噂、言いふらしたところで誰も信じないだろう。

「…ふーん。やっぱ思ったんだけどさぁ、あの沢木瞬ってヤローは、千石さんに全然相応しくねえよ」

「お前が俺の、沢木の何を知ってんだ」

「え〜、少なくとも千石さんよりは知ってるって。あの男は良い子ちゃんのツラ被って、本当は千石さんのことなんか考えてない。あいつとよく似た男を知ってるからわかるよ。いや、似てるようであんま似てねーけどさ」

知ったような口をきく水島に思わずキレそうになるも必死で耐える。ここで奴と喧嘩をしたって勝てないだろうし意味もない。

「結局何が言いたいんだ、お前」

俺の怒りをおさえたような声を聞き、肩をすくめる水島。その仕草は俺を馬鹿にしているようにしか見えない。

「別に俺の言うことなんて無視したらいいよ、千石さん。あんたらを別れさせるなんて簡単なんだから」

水島は嫌な捨てゼリフを残し、俺に背を向け歩き出す。ひらひらと手を振る水島の背中を、俺は呆然としながら見ているしかなかった。


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