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神様とその子供たち
002


しばらくして、僕の部屋にハレが夕食を届けに来てくれた。彼に会うのも久しぶりなので見知った顔に思わず嬉しくなり駆け寄ってしまう。

「ハレ、久々…!」

「カナタ!」

その勢いのままハレに抱き締められたが、そこまで感動の再会でもないので冷静に距離を置く。ハレの方もやりすぎだと思ったのか苦笑いで一歩下がった。

「お前六群に行ってたらしいな。急だったから突然いなくなってびっくりした」

「僕も気づいたら行ってたって感じで…」

いかに飛行機が恐ろしかった話と、ロク様から声をかけてもらった話をした。ハレはロク様と話したことはないらしくとても羨ましがられた。

「ハレ、イチ様夕食どうするか言ってた?」

「それがさぁ、いつ届けるべきか迷ってるんだよな。いつもの時間になっても部屋にこもりきりだし、食欲なくてもちょっとは食べてほしいけど」

「部屋まで食事を運ぶなら、僕も一緒に行っていい? さっきイチ様にゼロを任せてきたから様子が見たくて」

「だったらカナタが直接持っていてくれ。俺が入っていいのかもわかんねぇし困ってたとこなんだよ〜〜」

「わ、わかった」

ハレの頼みをきくかたちで再びイチ様の部屋へ行くことになった。ゼロは大丈夫だと思うが、一度確認しておかなければ。
自分の食事を素早く食べ、イチ様の食事が用意できたところでハレからサービスワゴンに乗せた料理を受け取り部屋へ向かった。

夕食のことをドア越しに伝えるとイチ様がわざわざドアを開けてくれた。彼はゼロを抱っこして無言で僕に部屋に入るように促す。

「ハレにお願いして僕が料理を運ばせてもらいました。食欲ないかと思いますが少しでも口にいれて下さい」

料理をテーブルに並べ、メインの料理にかぶせてあったドーム型の蓋をとる。美味しそうな匂いが部屋中に立ち込め、食欲をそそる。これでイチ様が食べる気になってくれればいいのだが。

「イチ様、よければ食事中ゼロをお預かりしましょうか」

「……ああ」

ぐっすり眠るゼロをイチ様から受け取り、脇に控える。イチ様はゆっくり椅子に座り、食事を始めた。

「イチ様、無理に食べる必要はありませんから、残してもらっても」

「いや、食事は大事だ」

味わう余裕はないのか次々と作業のように口に運んでいく。ただただ栄養を取るための食事だ。普段はゆっくりと味わって食べる方なのに、今日はまるで別人だ。気持ちが沈んでいるときは何を食べても味などわからない。ここにきてしばらくは僕もそうだった。彼も同じような気持ちだと思うと、その場から離れられなかった。

「ごちそうさま」

あっという間に夕食を終えるとイチ様が立ち上がり僕からゼロを受けとる。どうやらゼロにはここにいてほしいらしい。頭を下げ部屋から出ようとした時、イチ様から声をかけられた。

「ありがとう」

「え」

「ゼロを連れてきてくれて助かった。一人でいるより気が紛れて気持ちが楽だ。眠ろうとしても、忘れようとしても、どうしても……」

イチ様の声が震えていると思ったら、瞳から涙がこぼれた。自分が泣いていることにイチ自身も驚いているのかすぐに目元を手で押さえ顔を伏せた。

「イチ様!」

たまらず駆け寄ってゼロを右手で抱いたままイチ様の背中に優しく触れる。ずっと我慢していたイチ様の涙を見せられ、抱き締めたい衝動に駆られる。体格が違いすぎてちゃんと抱き締められないかもしれないが。

彼は僕が泣いているとき、僕のことを見て見ぬふりもできただろうに助けようとしてくれた。一人でつらい思いをしてほしくないと言ってくれた。それなのに僕が自分の役目ではないという理由で離れようとするのは、本当に正しいことなのだろうか。

「無理を承知でお願いがあります。僕もゼロと一緒にここにいさせてくれませんか」

「……」

「余計なことは何も言いません。ただ近くにいさせて欲しいんです」

イチ様をここに一人にはしたくない。ゼロがいてくれればそれでいいと思っていたが、できることなら僕が側にいたい。イチ様が僕を助けてくれたように、僕も彼を助けられるようになりたい。

イチ様は何も言わなかったが僕を無言で抱き締めてくれたので、きっと許してくれたのだろう。僕らにはさまれたゼロが何事かと目を覚まし腕の中から顔を出す。圧迫感から不機嫌に唸るゼロに僕とイチ様は慌てて身体を離し、思わず顔を見合わせ笑ってしまった。


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