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神様とその子供たち
005


六貴、ロク様の死はすぐさま全国に伝えられ、テレビはどのチャンネルをつけてもそのニュースばかりだった。突然の事に六群はもちろん他の群れの人狼達も悲しみに暮れ、涙を流す姿が放映されていた。それは上級市民の人間も同じようで、みな六貴の死を悼んでいた。

これより三日は喪に服すという事で人狼は特別な場合をのぞき仕事はせず自宅で過ごすことになった。六群の人狼は全員、そして各地方の友人や群れの代表として貴長が参列するらしい。そしてその様子はテレビで中継されることになり、ここの人間の使用人達はその様子を六貴邸で画面を通して見ていた。僕はといえばゼロと一緒に離れの部屋から出るなとセンリに言われたので、正座してテレビを見ていた。

イチ様やセンリはもちろん出席するが、ゼロはまだ小さいからという理由で僕が預かることになった。人狼達が一同に六群に集まるという事で、式場は厳戒態勢が敷かれている。ついこの間、大きなホテルで爆破テロがあったばかりだ。まるで戦争でも始まるのかという重装備にその様子を見ていた僕は驚いたが、当然かもしれないとも思った。

今この屋敷には僕含めて人間しかいない。唯一の人狼はゼロだけだ。六貴邸の人狼はみな会場にいる。その代わり人間の数は増やし、もぬけの殻となったこの屋敷も厳重に守らせているらしいが、ここにいる限りは実感はわかない。

ロク様の葬儀はとても広い野外の会場で行われ、もちろんそこにいるのは人狼が大半を占めるが人間らしき者の姿もあった。上級市民の中でも特に地位の高い人間であることが身なりからわかる。イチ様の姿を見つけると、ゼロを抱っこする手に力が入る。ゼロは僕の腕の中で、恐らく式に出ても大丈夫だっただろうと思うくらい大人しくしていた。彼はちゃんと何が行われているか理解しているようだ。

棺の中で眠るロク様の顔が映され、元気に話していた姿を知っているだけにショックだった。一度お会いしただけの僕でもそうなのだから家族の悲しみは計り知れない。
おそらくロク様の死を一番最初に知ったであろうナナは、心の整理がついていたのか穏やかな顔をしている。しかしほとんどの参列者は男も女もこらえきれずに涙を流している。ロク様がそれだけ愛されていたということだろう。
むせび泣き、まともに歩くこともできない人狼もいたが、イチ様の目に涙はなかった。喪服を着て棺の側に佇む彼の瞳には悲しみがあったが取り乱すことはない。その代わり横に控えるセンリが涙を流していた。
彼の場合、ロク様の死を悲しんでいるというのもあるが、それと同時にイチ様の悲しみをすべて引き受けているのだろう。
センリは人の心を読むのが得意だが、イチ様相手ならば表情だけで何を思っているのかわかるといっていた。しかもそれに影響を受けすぎて自分のメンタルまでやられてしまう。センリの感情がこれだけむき出しになっているということは、イチ様がそれだけ打ちのめされているということだろう。

「イチ様、大丈夫かな……」

家族を失うのは何よりも辛いことだ。僕なら遺体を目の前にしてどれだけ平静を保っていられるだろう。イチ様がいま相当無理しているのだとすれば、いつ限界がくるかわからない。

しかし彼にずっと寄り添い、その身体を支える人狼がいた。何度か写真や過去の映像でしか見たことはないが、すぐに誰なのかはわかった。ナナにとても似ている人狼達の王、ロウ様だ。

彼は喪主として、堂々とした姿で式を進行させていた。しかしイチ様の傍からは絶対に離れず、時おり気遣うように声をかけていた。外見からはとても親子とは思えずイチ様が年上の兄弟にしか見えない。しかし彼は間違いなくイチ様の父親で、子供がどれだけ苦しんでいるかちゃんとわかっているようだった。噂では人間を虫けら扱いしてくる恐ろしい存在だったが、今の姿を見る限りは美しく優しい若い父親だ。

ロウが声を出せば全員がそれを聞き皆が自然とひれ伏す。人間などは頭を一度もあげられないくらい平伏していた。彼はこの国の生きた神だと言われていたが、これを見る限りそれは大げさな表現などではなかったらしい。僕の目にもすぐわかるほどにロウは神聖視されていた。
彼がマイクの前に立ち、誰一人物音をたてず会場は静まり返った。

「皆、私の息子、ロクの葬儀に集まってくれてありがとう。ロクはその昔、我ら一族とこの国のために命をかけて戦った者の一人だ。彼のおかげで今この平和がある」

ロウはその若い見た目からは想像がつかないような重く威厳のある声をしていた。彼も自分の子供が亡くなったのだ。イチ様にも負けないくらい悲しいに違いない。

「幼い頃のロクは、イチの後ろにずっと隠れているような引っ込み思案な子だった。しかし成長するにつれ、兄弟全員の見本になるような立派な男になった。ロクを失った傷が癒えることはないだろう。六群は偉大なリーダーを失ったが、息子のレキが彼の意思を継いでくれることになった。皆が一丸となって彼を支え、力添えしてくれることを期待している。だが今はただ、全員でロクとの別れを惜しもう」

ロウの言葉にその場にいた人狼達は涙をこらえられず全員が涙した。唯一無表情を崩さないイチ様は目を閉じ、ひたすら皆の声を聞いているようだった。

そのまま焼香の代わりに献花が行われ、皆が棺に一人一人花を棺の中に入れていく。皆がロク様に声をかけ、時間をかけて美しい花が敷き詰められていった。

最後にロウとイチ様が花を入れて棺が閉じられる。ロウは最後、息子の頬に手を触れ額をあわせながら何か声をかけていたようだったがイチ様は何も言わなかった。僕もゼロを膝からおろし、手をあわせて黙祷した。


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あきゅろす。
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