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神様とその子供たち
003


僕が部屋から出るとセンリが心配そうな顔で待っていた。僕の腕を掴むと小声で訊ねてくる。

「ロクの様子はどうでしたか」

「えっと……ベッドの上でしたが、起き上がってイチ様とお話しされていました。笑顔も多かったですし、点滴がなければ病人だとは思えないくらいです」

「……そうですか」

僕の話を聞いてもセンリは浮かない顔だ。しかしすぐ気を取り直して、すぐ横に控えていた仲居のような格好をした年配の人狼の女性を紹介した。

「彼女はこの屋敷の女中頭です。我々の世話役にレキ様がつけてくださいました」

「はじめまして、カナタ様。カヤと申します。ご用意したお部屋の案内をさせていただきます」

「えっ、は、はじめまして。よろしくお願いいたします」

人狼のしかも女性にへりくだられて面食らってしまう。頭を下げる彼女よりもさらに深く頭を下げる僕にセンリはおかしそうにしていた。

「そう驚かなくても。この屋敷に使える人狼は、例え相手が誰であろうとも客人には礼儀をもって接するように指示されているだけです。部屋へ用意してくださったそうなので、行きましょう」

「でもゼロがまだ中に」

「ゼロはイチ様に任せて。さあ、注目を集める前に行きますよ」

女性の人狼の後について再び、ホコリ一つない長い廊下を抜けていく。その途中、耳をぴくりと動かしたセンリが突然僕の腕を掴み、足を止めさせた。そのまま僕を背後に追いやり「隠れて下さい」と囁いてくる。
一体何事かとちらっと前方を覗くと、二人の若い人狼の男がこちらに向かって歩いてきていた。片方は先程会ったレキによく似ていた。男の一人が笑顔でこちらに手を振ってきて、僕はすぐに顔を引っ込めた。

「センリ様! 久しぶり〜〜」

「お久しぶりです。お二人ともお元気そうで」

どうやらセンリの知り合いらしい。様をつけている割にはフレンドリーに話しかけてくる。友達なのだろうか。

「センリ様の後ろにいるの、人間?」

やはり背中に張り付いただけで隠れられる訳もなく、男の一人がこちらを覗き込もうとしてくる。それをさりげなく阻止したセンリはさらりと話題をそらした。

「そうですよ〜。お二人はいつからこちらに?」

「リキは前からいるけど、俺はついさっき来たばっかだよ。その人間、センリ様の?」

「うーん、僕のではないですね」

「男? 女?」

「男の子です」

「ほんとに? じゃあちょっと触ってもいい?」

「駄目で〜す」

僕を隠しながら後ずさるセンリの背中にぴたりと張り付き必死にしがみつく。未だに一貴邸の人狼以外は怖い。

「まだ15歳なので迂闊に近づかないでくださいね」

「15歳? や、ちょっと話すくらい良いじゃん。ねぇ、名前は?」

二人が執拗に話しかけようとしてくるので、センリもついに僕を隠すのを諦めて彼らに紹介した。

「カナタさん、彼はリキ・サナ。ロク様のご子息の一人です。隣の彼はルキ・カンナ。先程会ったレキ様の次男坊です」

「「どーもー」」

双子のようにハモっているが、つまり彼らは叔父と甥の関係ということか。レキによく似ている方がリキらしいが、見た目には同い年くらいに思える。しかも名前が似ているので覚えにくい。

「は、はじめまして…阿東彼方です」

「しゃべった! かわいい!」

「すんごいシャイだなーこの子」

センリの影に隠れながら挨拶をする。そんな僕を二人が囲んでくるので尻込みしてしまう。センリが彼らを追い払い僕を再び彼らから隠した。

「カナタさんには絡まないで下さい。この子はイチ様の人間ですから。それよりロク様の容態です。主治医は何て言ってるんですか」

「それがさぁ、もう自分がやることはないとかいうんだよ」

「“蘇生”はしないんですか」

「なんか老衰? だから無理らしくて」

「……」

はぁ、とセンリの重いため息が聞こえる。頭を抱えるセンリの肩に二人が手を置いた。

「センリ様、大丈夫だって。後任はずっと前からレキがやるって決まってんだから荒れることもないよ。もう引き継ぎ終わって実質すでにレキが六貴になってるわけだし」

「二群とか三群とか貴長が変わった時大変だったもんな〜。世襲じゃないのも問題ありだな」

「そうそう、しかもそれにテロリストが便乗して大惨事になってるし」

「そういう問題じゃありません。あの方がいなくなればイチ様が悲しみます。あなた方だってそうでしょう?」

センリの言葉にきょとんとする二人。イチ様やセンリよりも、彼らはロクの事を心配していないように見えた。

「もちろん悲しいけど、じいちゃん大往生だしな。孫もひ孫も玄孫数えきれないほどいるし」

「だいたい男が全力出せなくなったら、もう生きてる方がつらいんだよなぁ。センリ様が悲しむ必要なんかねえって。そうだ、今時間ある? カナタ君も一緒に俺達とちょっと話そうよ」
 
リキが自然に顔に触れてこようとした瞬間パシッと素早く手を払いのけるセンリ。不要なスキンシップはいつもの笑顔で拒絶した。

「お二人とも貴重なお時間ありがとうございます。では、私達はこれで」

有無を言わさぬ口調で壁を作ると僕の手を引いて二人から離れる。なおも追いかけてこようとした彼らを睨み付けて、来るなと目だけで制したセンリに僕は尊敬の眼差しを向けていた。


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