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日がな一日
003



「じゃあ俺、誰も来ないように見張ってるから終わったらおしえろよ」

「うん……」

ティッシュペーパーとゴミ箱を置いて、夏目はカーテンを閉じる。もし一緒にいるのが孝太だったらそのまま襲われてそうだったので、付き添ってくれたのが夏目で良かったと心の底から思った。


襲われて流されまくっている割には、瀬田は性に対して淡白な方だった。一人でたまに事務的に出すだけで、女性の裸にもあまり興味がない。それよりもアイドル達の綺麗な顔を眺めている方が良かった。椿を好きになってからは自分は男が好きだったのかと思ったが、男の裸を見ても特に何も思わなかった。

「んっ……」

いざ自分でやろうとしてもなかなかうまいこといかない。少し触っただけでも感じてしまうので声を抑えながら出そうするが、うまく力が加減できない。そこに刺激を与えるだけでは満たされない。一番気持ちよくなれる方法を瀬田は知っていたから。


「どうしよう、俺、こんな、こんな……」

自分は男なのに、後ろにいれたいなんて思っているなんて。椿と孝太に抱かれてしまったせいなのだろうが、自分自身に素質があったとしか思えない。今この状況で孝太や椿が押し倒してきたりしたら、きっと自分はそれを受け入れてしまうだろう。

「ダメだ、こんなんじゃダメなんだ…」

苦しいのと情けないのとで、気がつくと瀬田は涙を流していた。できるだけ声は殺していたが、カーテン越しに立っていた夏目には気づかれてしまった。

「柊二? どうした?」

親とはぐれた子供にでも接しているような、優しい声だった。うずくまって動揺するばかりの瀬田の身体を優しく抱き寄せる。

「ごめん夏目くん、俺…っ」

「そんな顔するなって、大丈夫だから」

夏目は年下なのに、頼りになる兄のようだった。瀬田もつい夏目相手だと、年上としてのプライドを忘れて甘えてしまっていた。

「劇はいざとなったら俺が代役として出るから。柊二みたいにうまくは演じられねぇだろうけど、セリフは覚えてるし中止にはさせねぇよ。だから大丈夫、柊二は安心して休め」

夏目は瀬田が劇の事が心配で泣いていると勘違いしていた。瀬田はその優しさに申し訳なくなって、夏目に自らすがり付く。夏目は一瞬ビクッと硬直したものの、慣れない手つきで強く抱きしめ返してくれた。

「夏目くん、ありがとう。でも……劇には俺が出る。何がなんでもでるから…っ」

「うん」

「だから……夏目くんにお願いがあるんだけど」

「なに?」

「俺のこれ、おさめるの手伝ってくれないか…? 自分じゃどうもうまくできなくて……保健室なら、グローブもあったと思うから…」

「……!」

その瞬間、夏目は瀬田から凄まじい勢いで距離をとった。唖然とする瀬田以上に夏目の顔は驚きに満ちていた。

「な、な、なに言ってんだよ。忘れたのか? 俺、柊二のこと好きって言ったじゃんか。そんな奴にんなこと頼むか普通!」

「それはもちろんわかってるけど……夏目くん以外に頼める人いないんだよ……。汚いと思うけど、グローブつけてだったら何とか…できないかと思って」

「柊二は汚くねぇよ!」

人に触られるのが苦手な夏目相手に我ながら酷い頼みだと思ったが、意外なところで怒りを顕わにした彼に驚いていた。

「汚いのは俺の方だ……柊二は、俺の……」

「夏目くん?」

「俺が理性保てなくて襲ってきたらどーする気だよ」

「……そうなったら仕方ないよ。それで夏目くんを責めたりしない」

「はあ!?」

瀬田のその言葉に夏目はさらに怒った。瀬田は意識が朦朧としていたので、その顔に驚くことすらできなかったが。

「柊二は俺のこと好きじゃないだろ。それなのにそんなこと言うなんて、自分の事好きな相手なら誰でもいいのか? 会長でも、萩岡でも、誰にでも好きにさせるってのかよ!」

「……?」

朦朧とする頭で夏目の言葉をなんとか理解する。椿や孝太がこの場にいたとして、自分は今と同じことを彼らに頼むだろうか。いや、そんなことはしない。してたまるもんか。薄れていく意識のなかでさえ、瀬田はそう思った。

「あの二人には、こんなこと頼まないけど……」

「はあ? じゃあ、何で俺には……」

「だって夏目くんなら、俺のいやがることはしないだろ」

夏目ならば、本気で抵抗すればやめてくれる。嫌だと言えば話の通じる相手だ。瀬田は絶対的な信頼を夏目に持っていたが、彼の顔は悲しそうだった。

「柊二は……酷い奴だな」

「夏目く……」

「そうだよ。俺は、あいつらと俺は違う。柊二の事は困らせねぇし、柊二を傷つけるようなこともしない。違う……他のやつらと俺は違うんだ…」

「夏目くん? どしたの?」

様子のおかしい夏目に瀬田はそっと手を伸ばす。しかしその手は強く振り払われてしまった。

「俺に触るな!」

「……?」

驚く瀬田の顔を見て愕然とする夏目。しかし瀬田は、前にもこうやって夏目に拒絶された時の事を思い出した。あれは、いったいいつの事だったか。


「……ごめん、瀬田くん。でも俺、これ以上近づかれたら瀬田くんの望む俺で、いられなくなりそうだから」

そう言って、夏目はベッドから離れていく。夏目の後ろ姿がまるで今までとは別人に見えた。本来の夏目正道よりも、彼はずっと。

「ちょっと携帯借りる」

夏目は瀬田の携帯を手に取ると、電話をかけた。

「……もしもし、夏目だけど。訳あって柊二の携帯から電話かけてる。ちょっとピンチだから、今すぐ保健室に来てくれないか、弘也」



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