日がな一日
002
「俺、どうやったら後から生徒会に入れるのか調べたんだよ。そしたら意外と簡単な方法があってさ」
「そうなの?」
生徒会役員にはなりたいと思って簡単になれるものではないはずだ。杵島の話を疑わしく思いながらも聞いていると、彼は生徒手帳を取り出して中を見せてきた。
「ほら、ここ書いてあるだろ。現行の生徒会役員全員の許可もらえたら、後からでも入れるってさ」
「…た、確かに。よくこんなの気づいたな…」
生徒手帳などまともに読んだことがなかったので知らなかった。驚く瀬田に杵島は得意気に鼻を高くしていた。
「先生にも一応確認とったから間違いないぜ」
「でもこれかなり難しくない? だって全員の許可って、誰一人許可してくれなさそうじゃん」
ここ生徒会はこの学校の顔とも言える存在なのだ。誰でも入れては高校の伝統を軽んじているも同然で、それは生徒会役員たちが一番わかっている。
「そりゃー俺が突然頼んでもそうだろうよ。そこで、瀬田の登場だ」
「俺!?」
「瀬田に俺を推薦してもらえれば、ぐっと可能性が…」
「無理無理無理!! できないよそんなこと!」
ただでさえ生徒会役員達は近寄りがたくて、怖い人達が多いのだ。自分のような人間がいくら頼んだところで無意味だろう。
「俺すごい嫌われてるの見たよね!? 完全に逆効果じゃん」
「いける。とりあえず女子はいける」
「どこからくるのその自信…」
杵島が何を考えているのかはわからないが、女子が一番いけない。瀬田は見た目からよく遊んでると勘違いされるが、女子に対する免疫は殆どなかった。
「萩岡は俺が何か弱味見つけて脅すから、他の役員は任せた」
「俺の担当多くない?!」
萩岡が一番厄介とはいえ、残り6人の説得などできない。想像するだけで頭が痛くなってきた。
「というか萩岡君脅すとか無理だよ…。あの人には近づかない方がいいって。弱味なんてないし」
「誰でも人に言えない秘密の一つや二つあるんだよ。例えば女を妊娠させたとか、金持ち人妻の愛人やってるとか」
「確かにやってそうだけど、それ全部勝手な憶測だよね!?」
萩岡と杵島を二度と近づけてはいけない、と瀬田は改めて誓った。こんな話をしていると知られただけでシメられそうだ。
「まぁもし全員の許可とれても、定期考査で50位以内に入らないと駄目なんだけどな」
「え、それそっちのが難しくない?」
「人間死ぬ気でやればいけるだろ。これもマリと一緒にいるためだと思えば」
杵島がでれでれしながら見つめるインコ、マリは何が気に入らないのか頭を何度も振り下ろしながら金切り声をあげている。瀬田としてはうるさいとしか思えないのだが、杵島は可愛くて仕方ないらしい。
「よし、明日にでも女子を説得しに行こうぜ。俺も一緒に行ってやるからさ」
「ほ、ほんとに? ……って杵島くんの事なんだからそんなの当然じゃん!」
杵島と話してるといちいち突っ込まないといけないので大変疲れる。ここ2、3日で1学期の分を取り返すくらい声を出した気がする。
「だいたいゆり子様が男の加入許すわけないし、中村さんが俺のいうこと聞いてくれるわけないし、立脇さんに近づこうものなら萩岡君に殺されるし、無理要素しかないんだけど」
「大丈夫、お前がちょっと微笑めば女は落とせる!」
「いや、そんな…俺、彼女もできたことないのに…」
瀬田が情けない顔でそう言うと杵島が意外そうな顔をした。本人からすれば意外でもなんでもない話なのだが。
「大丈夫だ、瀬田。俺も彼女いたことないから。全然フツーだって」
「杵島くん、優しいね…」
生徒会役員になるための相談だったはずが、いつの間にか瀬田を励ます会になっている。しかも今は女子ではなく椿が好きなので、高校でも彼女というか恋人ができるとは思えない。
「女子がアレなら、まず夏目か会長にお願いしてみようぜ。よく知らねーけど会長っていい奴なんだろ? 泣いて土下座すれば入れてくれそう」
「いいけどそれ誰がするの…。俺はやらないっていうか椿くんには不用意に近づけないから!」
その後もああでもないこうでもないと杵島と話し続けたが、これといった解決策は見つからなかった。
その間も鳥があまりに怒っているので理由を聞くと、いつもは杵島が帰ってきた瞬間カゴから出してもらえているのに今日は閉じ込められたままなので、我慢できずビービー叫んでいるらしい。出していいかときかれて全力で断ったら瀬田の方が追い出された。
最初は何て奴だと思ったが、あのまま話していれば杵島の考えた瀬田の色仕掛け作戦を押しきられそうだったのでこれで良かった。瀬田は助かったとほっとしながら自分の部屋へと戻った。
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