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日がな一日
002



次の日の朝、登校した杵島は昨日までの元気がまるでなかった。よたよたと力なく席についた彼は、そのまま瀬田の机にうつ伏せになる。

「はよ、瀬田」

「……おは、よう」

クラスで誰かから挨拶されたのなんてどれくらい前なのか。ぶっきらぼうな杵島の口調にすら喜んでいる自分に気づき、人付き合いに飢えている事を実感した。

「眠い。昨日全然、寝てなくて……」

「もしかして、生徒会の事でまだ悩んでたの?」

「いや、夜遅くまでゲームしてた」

杵島の言葉にがくっと肩を落とす瀬田。あれだけ意気込んでいたのに、もう生徒会に入る云々は忘れてしまったのだろうか。

「いやー瀬田は無理無理言うけどさ、俺は実際に生徒会の凄さとか見てきてねぇから、今一つピンとこないというか……。実は未だに必死に頼み込めば入れるんじゃないかと思ってる」

「そんなこと言ってられるのも今のうちだよ。生徒会の皆様を実際に見たらそんな戯れ言言えなくなるんだから!」

「戯れ言って」

生徒会の事になると人格が変わる瀬田に杵島は顔を引きつらせる。自他ともに認める生徒会ファンである瀬田は目を血走らせて杵島のなめた発言を撤回させようとしていた。

「杵島くんもきっと生徒会ファンになるよ! だからそーいう事はちゃんと見てから言って」

「見ろとか言われても、顔すら知らねーし。どこだよ」

「この教室に一人いるよ。ほら、あそこで机に足乗っけてる萩岡くん」

「あのカラーシャツ野郎が!?」

萩岡孝太。二年八組のボスにして生徒会役員の一人である。強面のイケメンでその目つきの悪さからよく不良に間違われるが、生活態度はいたって真面目な男だ。ただ口と性格が悪く、転校生の杵島と一瞬で犬猿の仲になるほど好き嫌いが激しい。

「水色シャツは生徒会専用だって言ったじゃん」

「いや、どう見たってあいつ生徒会って柄じゃねーじゃん。むしろ不良寄りだろ」

「不良じゃないから! ああ見えて萩岡くん超真面目だから! 成績も常に10位以内には入ってるし、それに何より格好いいし!」

瀬田はホモという理由で萩岡に嫌われているが、瀬田の方は特に彼を嫌ってはいない。結局のところ瀬田はただの見境のないミーハーだった。

「ふーん、ホモって心広いんだな」

「杵島くんちょいちょい言葉に気を付けてね!!」

「だって瀬田、萩岡に虐められてんのにあいつの肩持つんだもん」

「虐められてない、嫌われてるだけだし」

「たいして変わんねぇだろ」

瀬田にとっては格好良い魅力的な男でも杵島にとってはただのいけすかない陰険野郎だ。彼が生徒会だと知って杵島は明らかに不機嫌になった。

「とにかく、相手が萩岡くんじゃ頼み込んでも無理そうって杵島くんでもわかるよね」

「んー、その時は弱味握って脅す」

「どっちが不良なんだよ」

隣の男の物騒な発言にこいつならやりかねないと不安になる。付きまとわれる形で強制的に友達になったが、杵島が何かしでかさないように見張っておかなければという謎の使命感が瀬田の中に芽生え始めてきた。


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