日がな一日
愛しの生徒会
「さっそく友達として、瀬田に相談があるんだけど」
「な、なに…?」
友達になった覚えはなかったが精神的に杵島に屈服している瀬田が反論できるはずもなく。教室に戻った途端前の席に座り、逃がさないとばかりに身を伸ばしてくる杵島。自分より小さい相手なのになぜか大きく見えてしまう。この普通ではない転入生に瀬田はかつてない程の不安と恐怖を感じていた。
「あの、そこ佐藤くんの席だから、どいてあげて」
自分の席に座られて困り顔の内気なクラスメート、佐藤が杵島の背後にいたので低姿勢でどくようにお願いする。しかし杵島は登校したばかりの佐藤を見上げて、お得意の笑顔を見せた。
「おう、あんたが佐藤か。悪いけど俺と席かわってくれ。あんたもホモの前だと授業中気が気じゃねーだろ」
「杵島くん!? 何言ってんの!?」
「な? いいじゃん佐藤。俺が移動させてやるから」
瀬田の許可も佐藤の許可もとってないのに一人で勝手に席替えを始める杵島。二人が嫌とは言えないのをいいことに、瀬田の前に自分の席を持ってきて改めて椅子に座った。
「これで解決だな」
「………」
本当に解決したと思っているらしいところが怖い。佐藤も顔は困っていたものの何か言い返すことはなく、諦めてそのまま座席に座る。瀬田は心の中で佐藤に謝りながらも杵島の話をとりあえず聞くことにした。
「で、相談ってのは……」
「ああ、そうだった。俺、生徒会に入りたいんだけど、どうやったら入れるかおしえて」
「生徒会?」
転入してきて早々何を言っているのかと思ったが、杵島は顔は大真面目だった。そういえば先程も生徒会の話題にかなり食い付いていたか。かなり短い付き合いだがどう見ても生徒会に入りたいような性格をしていないので、彼の言葉を素直に受け入れられない。
「何で生徒会に入りたいの?」
「……そ、そりゃあこの素晴らしい学校と生徒達に貢献したいからだろ」
「……」
嘘臭いにも程がある理由だ。だがここで嘘だろと突っ込む勇気も元気も瀬田にはない。
「俺、部活とかやる気ないし、生徒会に入ってた方が受験の時に有利かなーって思って」
「ああ、そういうことか。でもうちの学校の生徒会には入れないよ」
「は? 何で?」
「うちの生徒会は特殊なんだよ。残念だけど諦めた方が……一般生徒でしかも転入生が生徒会に入るのはまず無理だし」
普通、生徒会といえば立候補者の中から生徒の投票により決定される。しかしこの四季山高校の生徒会役員は選挙で選ばれるわけではないのだ。
「そーなの? 生徒会なんてテキトーに立候補して、しょっぱい友達演説でもしてもらえばなれるんじゃないの?」
「全国の生徒会役員に謝りなよ……」
杵島が自分と友達になりたがっているのは、もしかして演説のためじゃないのかと疑ってしまう。この高校での立場的に応援にはならないと改めておしえてあげたい。
「だいたい今年の生徒会メンバーもう決まってるから、すでに手遅れというか」
「ええ? 普通選挙はこれからだろ」
「うちは選挙なんてないし」
秀才セレブの通う四季山高校の生徒会役員は、一般の公立高校とは違い学校内での特権が与えられる格上の存在である。選ばれるのは成績優秀でカリスマ性があり、尚且つ眉目秀麗な人気者。誰もが憧れ羨む存在、それが四季山高校生徒会役員なのだ。
そしてその役員の選出法は代々前任の生徒会からの指名制で、伝統を守るため毎年生徒の中から選りすぐった人材を選び抜き、二学期が始まるまでに勧誘を終えている。なので始業式ですでに引き継ぎと新しい生徒会役員の紹介も済んだ後なので、今さら二年の新参者が割り込む隙はない。
その事を瀬田は杵島になるべくわかりやすく丁寧に説明したが、彼は簡単には諦めてくれなかった。
「何それ、変なの。今から入るにはどうすんの?」
「いや、だから入れないんだって」
「そんなアホな。探せば方法はあるだろ。だいたいそいつらは生徒会になりたくてなった奴らじゃないんだから、そのうち嫌になってやっぱやめたーって奴が出てきてもおかしくねぇじゃん」
「確かに生徒会の仕事は大変だけど、その分特権もすごいし、だいたい生徒会に選ばれるのは名誉な事なんだから、やめるなんてバチあたりな人いない! 断言する!」
「……わ、わかったって。そんな怒らなくてもいいだろ」
瀬田だけではなく、この学校の生徒にとっては生徒会メンバーはアイドルのようなものなのだ。簡単には近づけないし、ましてやその一員になろうとするなんておこがましいにも程がある。悲しいことにそれがこの学校の生徒の認識だった。
「悪いこと言わないから、生徒会に入ろうとするのは諦めた方がいいよ」
「……それは、無理」
頑ななその態度に、ただ受験のためだけとかではなく、何か特別な事情があるのだろうかと思った。どうしても生徒会に入りたい理由なんて思い付かないが、瀬田には杵島が相当切羽詰まっているように見えた。
「なんとかできないか、ちょっと調べてみる」
「え?」
「ちょっと待ってて」
そう言った杵島はくるりと背を向けて携帯を取り出す。いったい何をしているのかと聞く前にチャイムが鳴り、それ以上尋ねることはできなかった。
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