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日がな一日
005※


今の時刻は夜の六時半を過ぎたところらしい。夏目が買ってきてくれた弁当を二人で部屋で食べた。満腹になり片付けをしていると、夏目がそっと手を握ってきた。

「嵐志ってさ、全然普通に女が好きな奴なんだよ。でも柊二に手出そうとするなんて、相当柊二に憧れてたんだろうなぁ。そういう意味では、アイツと俺は似てるのかも」

憧れている相手にあんなことするのか? と思ったが夏目と間違えていた瀬田が誘うようなことをしてしまったのも悪かった。アイドルの嵐志は、どんなにモテていても女子とは付き合えないのだ。うっかり魔が差しても仕方ない。嵐志が瀬田を純粋に好いていてくれたことはちゃんとわかっている。だがそれであっさりなかった事にできるわけではない。

「夏目くんとは似てないよ。だって夏目くんは、ちゃんと話が通じるじゃん」

「話?」

「無理やり俺を襲ったりしないし」

自分の言葉が回りくどいのは自覚済みだが、それにしても嫌だということは伝えているのに誰も話を聞いてくれない。それに引き換え夏目は瀬田の気持ちを先回りして汲んでくれるレベルだ。

「柊二、どんな相手にも優しいもんな」

「そんなことは……」

「そうだ、嫌がる練習しよっか」

「れんしゅう?」

「そうそう。俺が今からやんわり柊二を抱こうとするから、ちょっと逃げてみて」

やんわりと抱くとは一体何なのか。ぽかんとすると同時にカーペットの上に優しくそっと押し倒される。服を脱がされそうになって、瀬田はすぐ夏目の胸を押し返した。

「夏目くん!?」

「そうそう、そんな感じ」

「いや、そーじゃなくて。もうすぐ入浴の時間だし……っ」

「だからいいんだろ」

そう言いながら夏目に服をたくしあげられ乳首にキスをされる。そこは何度も夏目に触られているので、瀬田はすぐに感じてしまった。

「んっ」

「柊二、ごめんな。俺がすぐ助けに行けなくて」

「あっ……」

「俺のせいだよな、俺がこんな身体にしちゃったから……」

夏目に後ろに指を挿入されて、すぐに喘ぎ声が出る。夏目はポケットに忍ばせていたローションとゴムを取り出し、慣れた手付きで装着する。ローションを手とコンドームに垂らして、瀬田の中にも塗りつけた。瀬田は言われた通り逃げなければと頭の片隅では思うのに、夏目に触られると力が出なくなってしまった。

「柊二、逃げないと俺入れちゃうよ」 

夏目の亀頭が穴にあてがわれて身体が震える。肘を使って後ろへ後退しようとしたが夏目にあっさり腰を掴まれ下ろされる。

「……や、やだ俺。こんなの、できない……っ」

そもそも、夏目相手に演技といえども本気の抵抗など出来るはずもない。意地悪な恋人を恨みがましく見ていると、彼は破顔して瀬田を抱き締めた。

「ごめんごめん。普通に、いつもみたいにやろっか」

結局するのか、と突っ込みたかったが確かにここまできてやめられないだろう。夏目はありとあらゆる場所にキスをして、その間にも瀬田の中を指でさらに丁寧に暴いていく。

「柊二、挿れるな」

「……う、ん」

下着を完全に脱がされて、夏目のものがゆっくり入ってくる。夏目に抱かれると安心して、愛されてることが実感できて、いつも気持ち良くてたまらなかった。

「柊二、痛くない?」

「うんっ、そこ、そこ……」

「ここ?」

「そこ、ぐって、押されるの好き……」

夏目に一点を優しく擦られて、己の性器が固く張り詰めていくのを感じた。優しく瀬田のことを一番に考えて動いてくれる夏目をとても愛おしく感じた。

「なあ柊二、俺の名前呼んで」

「ま、正路……?」

「もっと」

「正路、正路……っ、大好き……ちゅーしたい……」

夏目はすぐに「俺はもっと大好き」と言って唇にキスしてくれた。瀬田は夏目の熱を中からも外からも感じながら、彼の背中に手を回して思い切り抱き締めた。






数日後。

夏目はあの事件の日から筋トレを始めた。理想は筋肉だるまになって、この男の恋人に何かしたら命はないぞと思ってもらう事らしい。夏目とは恋人関係を生徒会の皆以外にも公表するべきか話し合ったが、結局は隠しておくことに決めた。やはり余計なトラブルを招く可能性があるので、これは正しい判断だと思う。しかしあの事件の次の日から夏目は休み時間ごとに瀬田のクラスに来てべったりしているので、このままではバレるのも時間の問題だと思った。


その日瀬田は弘也の忘れ物を届けに再び生徒会室に来ていた。ノックすると今日はまだ中には弘也、嵐志、夏目という今一番一緒の部屋にいてはいけないメンバーだけが揃っていた。

「弘也! 鞄忘れてたよ!」

携帯ならまだしもどうしたら鞄を忘れられるのか。しかし弘也はわざわざ持ってきた鞄を受け取ろうとしなかった。

「忘れてたんじゃなくて置いてきたんだよ。どうせまた明日持っていかねぇといけないのに、って思ったら持って帰んのアホくさくなって」

「??」

予習復習はしなくていいのか、と思ったがそんなものは弘也には必要ないのだろう。せっかく持ってきたのに、と項垂れていると仕方ねぇから今日だけ持って帰る、と弘也が受け取ってくれた。

「あ、そうだ」

瀬田はごそごそと鞄を探ってファイルの中から劇の宣伝ポスターを取り出す。そして隅っこで居心地悪そうにしていた嵐志に差し出した。

「佐々木くん、これ次の劇のポスター。もし観れそうなら是非来てね」

「え……い、いいんですか俺が行っても」

「? 勿論」

あの事件以来話すのは初めてだが、最後に謝ってくれた時より視線が泳いでいる気がする。嵐志はそこまで気にしていないと思っていただけに、彼の反応は意外なものだった。

「あんなことがあった後に笑顔で話しかけられる瀬田のメンタル……さすが玄人は違うわ……」

「弘也? 俺の悪口言ってる?」

ぼそぼそと呟いていた弘也は愛想笑いで瀬田の視線を流した。瀬田は手を広げて待ち構える夏目に近づき小声で話した。

「なんか佐々木くん目が泳いでるんだけど、何をどう話したの?」

夏目に嵐志に話しておくと言われて任せていたが、その結果がこれだ。嵐志と夏目が友達なのと、夏目がそこまで怒っていなさそうだったので任せてしまったが、本当に口で注意しただけなのだろうか。

「まず瓦を何枚か用意して」

「瓦?」

「嵐志の目の前で割る」

「?」

「そんで『また柊二に何かしたら、次はこの瓦がお前の頭蓋骨だぞ』って言っただけ」

「いや怖」

人はそれを脅してるという。瀬田がどう言い聞かせるべきか悩んでいると、夏目は何故か部屋に置いてあるダンベルを片手で持ち上げながら笑顔で嵐志に声をかけた。

「嵐志、柊二から話しかけられた時は愛想よく答えろって言ったろ〜? ファンは大事にしないと」

「……はい」

夏目から視線をそらして小さな声で返事をする嵐志に、ごめんと心の中で謝りながら傍観する。ここで嵐志を庇えば大変なことになるので何も言えない。

どうやら生徒会室でも筋トレを続け日々身体を鍛えまくっているらしい夏目。そんな彼を見ながら「こいつ頑張る方向性が面白いなー」と瀬田の横にいた弘也は呑気に笑っていた。




おしまい
2022/12/18

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