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日がな一日
004


夏目正路は杵島弘也からの連絡を受け、瀬田の部屋へ走って向かっていた。弘也の話だけでは理解しきれなかったが、瀬田が酷い目にあったらしいのは確かだった。

「柊二!!」

夏目が部屋に入るとそこには床の上で横になって眠る瀬田と、瀬田に膝枕をしてやっている弘也の姿があった。

「しゅ、柊二……?」

「しーっ、やっと寝たとこなんだぞ」

弘也は膝に乗せた瀬田の頭を撫でている。他の男がやっていたら俺の恋人に気安く触るなと怒っているところだが、弘也はまるで瀬田の親だった。

「柊二、大丈夫なのか?」

「まあ一応な。怪我はない」

弘也は柊二から聞いた話をすべて説明してくれた。生徒会室でうっかり眠ってしまった時に夏目と嵐志を間違えてしまったらしい。

「睡眠姦がどうのとか言ってたぞ」

「…………」

思い当たる節がありすぎて弘也の顔がまともに見られない。しかし自分のわがままのせいで瀬田が酷い目にあったのならそれは由々しき問題だ。
話を聞く限り、嵐志に襲われそうになったところを瀬田から着信のあった弘也が駆けつけて助けたという流れらしい。何故自分に電話をしてくれなかったのかと思ったが、ずっと瀬田のガードマンをやっている弘也なら仕方ない。嵐志に対する怒りが沸々とわいてきたが、弘也は責めるような視線を夏目に向けていた。

「こいつ、お前に嫌われるって泣いてたんだぞ。お前に浮気だと思われるって。嵐志にヤられそうになったってのに、お前のことばっか気にして」

「柊二が……」

自分のことを気にかけてくれる恋人のことを思うと胸が苦しくなる。同時にそんな不安にさせてしまったことがつらかった。弘也はため息をついて、項垂れる夏目を見ていた。

「俺は、お前なら瀬田を幸せにしてくれると思ってたんだよ。ストーカーではあるけど、夏目は瀬田の幸せが第一の男だったからな。でもこいつをこんな風に泣かせるなんて、お前の彼氏力が足りないんじゃねぇの?」

「彼氏力……」

「瀬田はやむにやまれずお前と付き合ってること佐々木に話したらしい。でも効果全っ然ナシ! お前が舐められてるから、佐々木に襲われたんだよ。彼氏が椿や萩岡なら、あいつも思い止まっただろうに」

「…………」

ぐうの音が出ない程叩きのめされても夏目は何も言い返せなかった。確かにあの椿と萩岡なら、後から物凄い報復をしてきそうだ。

「お前じゃ瀬田をちゃんと守れないなら、返してもらうぞ」

「か、返す?」

「俺ならお前らを別れさせようと思えば……まあ、出来なくもないし」

「……!」

確かに弘也は瀬田に全幅の信頼を寄せられている。そんな簡単に自分達の仲を引き裂けるとは思えないが、この男ならやりかねないとも思った。

「おい間抜け、きいてんのか」

「……弘也は、柊二のことどう思ってるんだ?」

「どう?」

友達、という割には瀬田を大事にしすぎている気がする。これまではその方が良かったが、夏目と瀬田を引き離そうとするなら話が変わってくる。

「めちゃくちゃ可愛いと思ってるよ。だから俺はどんなことをしても、こいつを幸せにしてやりたい」

わりと真剣な口調でそう言ってのける弘也。夏目はしばらく考えて、頷きながら弘也を真っ直ぐ見据えた。

「……もう二度と、誰にもこんなことさせねぇ」

「お、そうそうその意気よ」

その顔が見たかったんだよ、と弘也は笑っていたが今回の事は夏目にとってまったく笑えるような出来事ではない。夏目はもう決めていた。何があっても、どんな手を使っても瀬田を守り続けると。






目が覚めたとき、側にいたのは弘也ではなく夏目だった。知らないうちにベッドに寝かされていて、隣で寝ている夏目に手を握られている。

「!?」

「柊二、起きた?」

「!?」

これはいったいどういう状況なのか。弘也を探すもどこにもいない。

「な、なに。何で夏目くん? 弘也は?」

「アイツは俺に任せて帰ったよ」

「任せて? 帰った?」

「柊二、弘也から全部聞いた」

「全部!? 嘘だろ弘也っ」

言わないでほしいとあんなに必死でお願いしたのにあっさりチクられていて愕然とする瀬田。弘也は前から瀬田の言うことを無視することがある。それでもだいたいその方がうまくいくので、今回も弘也が夏目に話した方がいいと結論付けたのだろう。だとしても夏目には知られたくなかったが。

「あの、あのね、夏目くん俺、本当に佐々木くんには……」

「わかってるよ、嵐志はあんなにモテるのに恋愛禁止って事務所に言われて、多分頭おかしくなってるんだよな。二度とあんなことしないように、俺がちゃんと言っとくから」

「え、あ、ほんとに……?」

嵐志のポスターを隠して保存していただけでかなり拗ねられたので、知られたらまた一悶着あるだろうと思っていただけに拍子抜けだ。それとも弘也がいろいろ濁して説明してくれたのだろうか。

「それから柊二、俺はね、何があっても柊二のこと嫌いになったりしないよ」

「え……」

「例え柊二が浮気しても、体重が100キロになっても、人を殺しても、他の人を好きになっても、絶対嫌いにはならないよ」

「ん??」

体重100キロはともかく他の項目は有り得ない。浮気も人殺しも、他の人を好きになることもない。体型は両親を見ていると将来的には有り得そうで怖い。

「ないない! そんなことしないよ!」

「そうだよな、他に好きな人できても柊二はちゃんと別れてから付き合うだろうから、浮気はないよな」

「いや、そうじゃなくて!」

瀬田は夏目の服を掴んで、必死に訴える。夏目には今だけではなく、ずっと好きなのだと分かって欲しかった。

「俺、心変わりなんかしないから……! 佐々木くんにもちゃんと嫌だって言った! 誰に何を言われても俺はずっとずっと、一生夏目くんだけが好きだから……」

言い終わってから猛烈に恥ずかしくなった瀬田は視線をそらしてそれ以上なにも言えなくなった。なかなか反応が返ってこないので恐る恐る夏目の方を見ると彼の目から涙の筋がつたっていた。

「夏目くん!?」

「ごめん、ちょっと、感激して……」

重くて引かれたわけではないとわかり、瀬田はほっとする。そのまま夏目の首に腕を回して、抱きついた。


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