[携帯モード] [URL送信]

日がな一日
ご注意ください


その日の放課後、瀬田は生徒会室まで足を運んでいた。教室に置きっぱなしになっていた親友、杵島弘也の携帯を届けるためだ。
ノックをして「失礼します……」と躊躇いながら生徒会室の扉を開けると会議の真っ最中だった。よくないタイミングで来てしまったと謝りながら、うとうとしていた弘也に声をかけた。

「弘也っ! 携帯! 忘れてる!」

「……おっ、瀬田か。サンキュー、見当たらないなと思ってたんだよ」

会議を邪魔して申し訳ないと頭を下げながら部屋を出ていこうとする瀬田を、すかさず夏目が引き止めた。

「柊二〜! そんな慌てて帰らなくてもいーじゃん。てか、彼氏に挨拶もナシかよ」

「ご、ごめん。邪魔かと思って」

「柊二が邪魔なわけないだろ。……あれ? 何持ってんの?」

瀬田が鞄以外に手提げ袋を持っていることに気づいて訊ねてくる夏目。相変わらず細かいことによく気づく男だ。

「えっと、これは次やる劇の宣伝ポスター」

「おっ、何枚もあるじゃん。せっかくだからコイツらにも配っとこうぜ」

「え、でも今は……」

「そんな大事な話してないから! ほら」

そう言いながらポスターを取り出す夏目。元々生徒会メンバーに渡せたらと思い持ってきていたので、ナイスアシストではある。夏目には勿論すでに配布済みだ。

「瀬田くん、僕に一枚くれ」

会長の椿が一番にそう言ってくれて、瀬田は笑顔で彼に手渡す。

「瀬田くんは主役じゃないのか」

「俺はそんなまだまだ……でも結構台詞の多い役を貰ったんだよ」

「柊二くん! 私にもちょーだい?」

小さくて可愛い詩音にも手を出されて瀬田はあたふたしながらポスターを差し出す。最近少し髪の毛を切ってさらに可愛さがアップした詩音は、真剣な顔でポスターを眺めていた。

「次の公演なんだけど、時間があればぜひ」

そう言いながらゆり子と真結美にも配っていく。その姿を見ていた弘也がこっそり耳打ちした。

「おい瀬田、萩岡にも配ってやれよ。カワイソーだろ」
 
「孝ちゃんにはもう教室で渡してるから!」

遅刻していた弘也は知らないが朝一で孝太には渡していた。行くとは絶対に言わないが、行かないとも言わないので孝太はきっと来てくれると瀬田は思っていた。最後に渡しそびれていた弘也にも、と思ったが断られてしまう。お前の部屋で読む、とのことだ。

「あと、佐々木くんは……」

「嵐志ならいねーよ」

にっこり笑う夏目にそう言われて密かに落ち込む。アイドルの嵐志のファンとしてはいつだって彼に会えるのを楽しみにしていたが、無論彼氏の夏目の前ではそれを隠していた。

「残念だったな」

「……」

完全に思考が読まれていて何も言い返せない。少し前まで遠い存在だった嵐志には、瀬田が元子役だとバレてから尊敬尊敬尊敬と熱い眼差しを向けられ懐かれていた。だが仕事が忙しすぎる彼は学校になかなか通えず、あまり話せる機会もなかった。

「柊二〜もう行っちゃうの?」

「な、夏目くん。俺これから部活だから」

後ろにへばりついてくる夏目を追い払う。こんな場所でベタベタしてくる夏目に瀬田は焦った。周りからの視線が痛い。

「離してってば」

「最近冷たいよな、柊二は。俺の事もずっと夏目くん呼ばわりでさ。弘也のことは名前で呼んでんのに」

「それは……だって……」

「俺は彼氏なのに。なあ、俺の事も名前で呼んでくれよ。なあなあ」

「……ま、正路……」

「柊二〜!」

夏目に抱きつかれて必死に抵抗するも力ではまったくかなわない。じゃれあう二人をこの場にいる全員が白い目で見ていた。

「イチャイチャしてる……イッチャイッチャしてる……」

「ゆり子ちゃんしっかり!」

虚無の目をして舌打ちするゆり子を詩音が隣で励ます。すると瀬田達を見ていた孝太が足を伸ばしながら余裕の表情で笑っていた。

「安心しろ田中。俺の経験上、人前でいちゃついてるカップルはだいたいすぐ別れる」

「別れねーよ!」

夏目に突っ込まれても無視する孝太。これ以上はあまりにもいたたまれなかった瀬田は、全員に頭を下げて謝り部屋から逃げるように出ていった。







次の日の放課後、瀬田は再び生徒会室に向かっていた。前日の夜に佐々木嵐志から連絡が来て、相談したいことあると呼び出されたのだ。今日は生徒会の集まりがないため、そこでならゆっくり話ができると無人の生徒会室が待ち合わせ場所となった。

役者の仕事が欲しいアイドルの嵐志は元子役の瀬田に憧れを持っていて、先輩としてとても慕ってくれていた。元々嵐志のファンでもあった瀬田は話しかけられるたび舞い上がっていたが、本人の前では格好つけて、いたって冷静な先輩を演じていた。

先程嵐志からHRが長引いて遅れそうだという連絡が来たので、瀬田は先に鍵をもらって生徒会室で待っていた。とっくに関係者ではなくなっているのに、元生徒会補佐の瀬田が鍵を借りに来ても先生達は特に不思議がる様子がなかった。

鍵を開けて電気をつけて、部屋の中にある座り心地のいい大きいソファーに身体を埋める。
嵐志の相談とは恐らく、演技のことについてかもしくは役者になるにはどうしたらいいかという事だろう。瀬田に相談することなどそれくらいしか思いつかない。いまだに役者としての仕事がなかなか回ってこないと嘆いていて、順風満帆に見えるアイドルにも色々悩みがあるんだなと思った。

とっくに役者をやめてしまった自分にきちんとしたアドバイスができるだろうか、と不安になりつつも嵐志を待っていたが、ここ数日は毎晩台詞を覚えるため勉学よりずっと必死に台本を読み込んでいた。そのため瀬田はいつしか眠気に負けて、ソファーの上で寝こけてしまった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!