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してる」を全力で
振られる男、振る男




「安曇悠人(アヅミ ユウト)、俺と付き合え」

「………は?」


高校に入って、はや1ヶ月がたとうとしていた日の放課後、俺は帰宅しようとしていた一つ上の先輩を呼び止め、何の説明もなしにいきなり告白した。


「聞こえなかったのか、付き合えって言ってんだよ」

「え? …え?」

知らない後輩からいきなり告白された先輩はもちろん戸惑っていた。だがこの男子校では、男同士なんてものが結構まかり通っていたりする。だから、付き合うってどこに? なんてボケかまされる心配はない。

「早く返事しろ」

「………」

男からの告白におろおろする安曇はすごく可愛かった。さすが校内で1、2を争う容姿を持つだけのことはある。

ずいぶん長い間逡巡していた先輩は、やがて俺をちらちら見上げながら遠慮がちに口を開いた。


「ごめんなさい!」


その瞬間、俺の世界はひっくり返った。

俺の、生まれて初めての告白は無残にも儚く散ったのだ。こんな結果を誰が予想しただろう。この俺がフラれるだなんて。

「…なんで」

動揺を隠せない俺を気にしてか、安曇悠人は困った顔を見せた。

「だって、僕達ろくに話したことないし…」

ビクつく安曇は俺の様子を窺いながらか細い声を震わせる。白い肌に均整のとれた顔立ち、小動物のように澄んだ瞳を持つ彼の姿は庇護欲をそそられた。

「そもそも名前も知らない、初対面同士なわけだし…」

その形の良い唇がつむぐセンテンスは澄み切って、まるで小鳥がさえずっているかの様な………え、ちょっと待て。

「俺のこと、覚えてねえの!?」

「う、うん」

「………マジかよ」

一瞬、絶望的な気持ちになるも、仕方ないかと自分をなんとか落ち着かせる。俺には衝撃的な出会いでも安曇にはそうじゃなかった、それだけのことだ。

「上山(カミヤマ)だ、1年4組の上山千昭(チアキ) 。覚えとけ」

「うん……って1年!?」

「悪いかよ」

「…いや、悪くないけどさ。ごめん、覚えてなくて」

ガーン、って効果音がこれほど似合う瞬間もないだろう。俺は顔がよく見えるように髪を整え背筋をピンと張った。

「もう一度だけ言ってやる。安曇悠人、俺と付き合え」

「な、なんでさ! 断ったじゃんか」

「………断る理由は」

背の低い安曇は身長180はある俺を見て明らかにビビっていた。一言一言発する言葉がいちいち遅い。

「じ、じゃあ訊くけど、上山くんは何で僕と付き合いたいの?」

「………」

そりゃ、好きだからに決まってるじゃねえか。初めて会ったあの日から、あんたしか見えなくなったからじゃねえか。

「……何でそんなことお前にいちいち言わなきゃいけねぇんだよ。どうでもいいだろ」

俺の言葉に安曇は目に見えて唖然としていた。ちょっと冷たく言い過ぎたかもしれない。けどあんなこっぱずかしい本音を男が言えるわけがない。

「と、とにかく僕はあなたとは付き合えません…ごめんなさい!」

「あっ、おい待て!」

言いたいことだけ言って走り去る安曇。止めようとする俺をまったく無視して彼はあっという間に逃げてしまった。

こうして俺の一世一代の告白は、自分でも訳が分からないうちに呆気なく終了したのだった。


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あきゅろす。
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