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last spurt
011




喧嘩の痕跡、争いの爪跡というのは凄まじいものだった。やっと決着がついた時、桐生のチームで立っている者はただの1人もおらず、意識がある者ですら数人しかいなかった。辺りには血痕が飛び散って、見るも無残な状況だ。

「ナオちゃん!」

目の前の惨状をただ眺めていた俺にヒチが思いっ切り飛びついてきた。そしてよろける俺の体勢を整えるかのように腰に手を回してくる。

「大丈夫? どっか怪我してない?」

ヒチには心配してくれている様子がありありと見て取れた。ありがとうと意を込めて俺もヒチを抱きしめようとした時、ほんの一瞬の間ヒチの顔が歪んだ。

「どうした、怪我したのか?」

「お腹に少し。でも平気だよ」

何か言う前にぐっと俺の身体を締め付けるヒチ。耳にヒチの吐息がふっとかかった。

「アイツら酷いよね、よってたかってナオちゃんを虐めてさ。もっともっと潰してやれば良かった」

感情なんて一切含まない、低く真剣な声でヒチはいった。いつも優しいヒチは時折、こういった残酷な一面を見せる。というより、彼は喧嘩が大好きなのだ。

「…取り込み中悪いんですが、彼はどうします? というより誰なんですか、この人」

遠慮の欠片もないような言い方で突然口をはさんだ優哉は、桐生の仲間に殴られ倒れている男、南を見ていた。俺は慌てて意識のない彼の元へ駆け寄り、その体を揺さぶった。

「おい、南! 目ぇ覚ませ、しっかりしろ!」

「え、もしかしてその人が例の南さん……あ、ナオさん、あまり派手に動かさない方が」

優哉の声は無視して名を呼びながら南の頬をぺちぺちと叩く。桐生なら人殺しまではさせないと思うが、下っ端のやったことだ。確証は持てない。

「どうして彼がここに? どういうことなんですかナオさん」

「後で説明するからちっと黙ってろ。とにかく今はコイツを……」

その瞬間、気絶していた南の瞼が小さく開き意志を持って動き出した。

「ん…な、に……」

「南っ、南! しっかりしろ!」

「…日浦さ…ん、ですか」

「そうだ、大丈夫か? どこが痛いか言ってみろ」

「あー…全体的に」

どうやら怪我をしていても意識ははっきりしているようだ。俺の問いかけにきちんと答えている。

「南、救急車呼んでもいいが、その場合お前を置き去りにしなきゃいけねえ。それより俺が運んだ方がいいと思うが、どうだ」

「…はい。そうしてもらえると、助かります」

南と話がついた俺はトキ達の方へ視線を向けた。口の中を切ったらしい香澄はただ1人、血を拭いながら俺を責めるように睨みつけている。俺は奴の眼差しを疎ましく感じながらも素直に頭を下げた。

「俺の勝手な行動のせいで皆に迷惑かけて悪かった。南は俺が近くの救急病院まで背負ってくから、今日はここで解散だ。明日きちんと話し合おう」

「待ってよ! ナオちゃんだけが行くことない」

「駄目だヒチ、大人数で行ったら変に勘ぐられるだろ。優哉、お前は来い」

ヒチの申し出を素早く却下して俺は優哉を手招きした。優哉だけ連れて行く理由は大ざっぱに言えば2つある。1つ目は俺がちゃんと優哉を家まで送って無事を確認したいから。そして2つ目の理由は優哉のそのとても不良なんてものには程遠いガリ勉容姿にあった。これで大抵の奴は安心感を持つ、もしくは油断する。それに引き換えトキとヒチは明るい茶髪。香澄にいたっては金髪でピアスの穴が開き放題だ。学校ではただのサボり魔で通ってる健全な容姿を持った俺が行くべきだろう。それに南のことに関しては誰よりも責任がある。

俺はなるべく痛みがないよう、そっと南を担いだ。そしてそのぐったりとした身体を背負いながら優哉と共に病院へと向かった。


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