[携帯モード] [URL送信]

last spurt
4日前


5月下旬の、寒くもなくまた暑すぎもしない季節。高3になる俺のクラスメート達も、すっかり受験一色に染まってしまった。俺の高校は県内でもそれほど頭がいいとはいえない。そもそも俺が入れた学校だ。けれど偏差値の極端に低いバカ高という訳ではないし、さすがに皆浮かれてばかりはいられないようだ。
そしてそれは、この俺もいえること。


次の日の放課後、俺はいつものように優哉と廊下を歩いていた。優哉はシャツのボタンを一番上まで、ブレザーのボタンも全部キチンと留めて、どこからどう見ても優等生の真面目っこ。うちの制服にネクタイはないから何度見ても首もとに違和感を覚える。けれどいくら言っても優哉はこのスタイルを崩さない。

「なあ、優哉。例の件が片付いたらさ……毎日じゃなくてもいいから、俺んち来てくんねえ?」

「え?」

俺の突然のお願いに優哉は首を傾げた。

「お前に勉強みて欲しいんだよ。負担にならない程度でいいからさ」

受験生なのは優哉も同じだ。でも学年トップの優哉が教えてくれるのなら、これ以上の教師はいないだろう。

「ああ、そういうことでしたら、もちろんいいですよ」

「マジ!? サンキュー、優哉!」

驚いた顔で感謝しながらも、俺は彼が快く引き受けてくれるとわかっていた。優哉は絶対に断ることをしない。だから本当に優哉の迷惑になっていないか、自分で判断する必要がある。

「ナオさんが自ら勉強するなんて、高校受験のとき以来ですね」

珍しいものが見れる、と優哉は胸をはずませていた。にやけた面をみればわかる。こいつの困った所は、人のあれこれを詮索して楽しむところだ。

「だって俺、このままじゃ卒業が危うい──」

「その通りだ、日浦」

後ろから、聞き覚えのある低く野太い声が響いた。誰かなんて振り向かなくてもわかる。

「…修ちゃん」

その男、柴田修平は教師とは思えないほどのメンチをきかせて俺を睨んでいた。

「ゴラァ誰が修ちゃんだ!」

「いたっ」

いきなり頭に拳骨をくらわされた。前から思っていたが、修平は絶対元ヤンだ。今は先生なんてやってるけど昔は結構やんちゃでした、ってやつだ。

「何すんだよ柴田! 暴力反対!」

「アホ、先生って呼べって何度も言ってんだろ!」

修平は怒鳴りながらも俺の腕を掴み、二度と離さないとばかりに強く握りしめている。コイツに見つかるなんて、俺はどうしてこうも運がないんだ。

「ほらさっさと指導室行くぞ。大人しくついてこい」

「嫌だっ、今日は優哉と出かけるんだから」

「お前のサボり生活に十和を巻き込むな! 十和はウチの期待の星なんだぞ!」

「そんなの知るか!」

校則違反常習者の俺に手加減なんてなかった。昨日学校を無断で休んだこともあって、修平はかなり怒ってる。

「くそっ…優哉!」

俺はずるずると引っ張られながら、修平とのやり取りを愉快そうに見ていた友人の名を叫んだ。

「お前、ちょっと先行ってろ。すぐ追いつくから!」

「追いつかねえっつの! ほら、自分の足で歩け」

そう一括した修平はギャラリーの視線を気にもせず、俺を乱暴に扱い指導室まで無理やり引きずっていった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!