ストレンジ・デイズ
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「遅いぞ香月!」
なんとか持ち直してくれた怜悧様を連れて食堂に戻った俺は、仁王立ちの響介様に出迎えられた。彼は俺を見て般若のような顔になっていたが、怜悧様を見るなりだらしない笑みを浮かべた。
「駄目だぞ怜悧〜、勝手にいなくなっちゃ。この学校で一人になるなんて危険すぎる」
「ごめんなさぁい…」
「まったく、しょうがないなぁ」
響介様達の背後にいる唄子さんが、駄目だこのブラコンという顔をしていた。すべて計算ずくの怜悧様は何故かもじもじしながら口を開いた。
「あのね、お姉ちゃん。さっきの話だけど…」
「さっき?」
「八十島さんのこと…あれって本気なの?」
「ああ、あれな。善がオススメってのはマジだぜ。今はそんな気になれないだろうけど、怜悧がもうちょっと大人になったら…」
「ごめん! 私、あの人とは付き合えない。他に好きな人がいるから!」
「「え」」
俺と響介様が同時に聞き返す。まさかこんな状況で響介様に気持ちを伝えるわけない、とは思うものの怜悧様が何を考えているのかわからず動揺を隠せなかった。
「え、え、それってトミーのことか?」
「ううん、違う人」
「じゃ誰だ!? 誰だよ俺の怜悧をたぶらかしたのは!」
怜悧様の発言に響介様は半狂乱だ。最早富里君に復讐だのなんだの言ってる場合ではない。怜悧様は響介様から離れ突然俺に飛び付いてきた。
「私、香月が好きなの! 香月と付き合いたいと思ってるから邪魔しないで!」
「え、ええええっ」
いきなり何を言うのかと俺は仰天して怜悧様を見る。彼女は俺の腕にしがみついたまま冗談とは思えない目で響介様を見ていた。
「か、香月ってこの香月? 嘘だろ? え、嘘だよな」
「嘘じゃないもん。香月は格好いいし優しいし、お姉ちゃんも香月なら認めてくれるよね?」
「ちょ、ちょっと怜悧様! どういうつもりですかっ」
怜悧様に小声で問い詰めると、彼女は余計なことは言うなとばかりに睨み付けてきた。
「うるさいわよ、こうなったらあんたも道連れにしてやるんだから」
響介様に聞こえないような声で俺にそんなことを言う怜悧様。確かにこれで響介様に万が一了承されでもしたらショックだが、怜悧様もさらにダメージを受けるのではないか。
「駄目だ駄目だ! 香月なんか怜悧に相応しくない! こんな…こんな胡散臭い男!」
「胡散臭いって、そりゃないでしょキョウちゃん」
「うるせー、唄子は黙ってろ!」
「もし私と香月が結婚したら、お姉ちゃんだってメリットあるよ。香月がずっと家にいてくれるっていうメリットがね」
「えっ」
怜悧様の言葉に俺も響介様も首をかしげる。怜悧様は先程までの憔悴が嘘のように得意気に話し始めた。
「だって香月だって結婚したら家を出るでしょ。いつまでもお姉ちゃんの世話ばっかりできないじゃん」
「いや怜悧様、俺は別に…」
「香月はモテるから、訳のわかんない女に騙される前に私と婚約しちゃえばいいのよ。ね、それがいいわ。そうしましょう」
俺なんかと結婚する気などさらさらないだろうに、怜悧様の言葉は止まらない。彼女の言葉を聞いていた響介様は俺の方に近づいてきた。
「なに香月、お前好きな女でもいんの?」
「い、いいえ!」
「怜悧と結婚したいのか?」
「キョウ様の大事な怜悧様に、そのような身分をわきまえない思いは持っておりません」
「他の女と結婚して、うち出る気ある?」
「まさか! たとえキョウ様の許しがあっても、俺はキョウ様の側から離れるつもりはありません」
「だそうだ。怜悧、悪いがこいつのことは諦めてくれ」
「えっ、でも…」
「香月は俺のだから。本人も結婚する気ねぇみたいだし、てかあってもさせる気ないし」
「…!」
響介様の言葉に感激していた俺だったが、絶句した怜悧様はいよいよ俺に飛びついて泣き出した。力のない拳で俺の胸を叩き始める。
「バカバカ、香月のバカ! 裏切り者! あんただけずるいのよ〜〜」
「怜悧泣くな。香月なんかよりもっと良い男がいるから。善の方が百倍良い男だから」
「馬鹿〜〜! 二人とも嫌いだもん〜!」
「よしよし怜悧、ごめんなぁ」
「怜悧様、痛いです」
わんわん泣く怜悧様を慰める俺と響介様。いつの間に妹をたぶらかしたのかと響介様からは睨まれたが、俺は幸せの絶頂だったのでまったく気にならなかった。
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