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ストレンジ・デイズ



担任と副担任という関係、俺は一通りのことを藤堂先生からきいた。彼は見た目こそ教師ではなかったが、教えることに対してはかなり熱心な人だった。

「うちのクラスは、今日から授業するから」

「え、今日からですか?」

驚く俺に、藤堂先生は真剣な表情で頷いた。

「もちろん。天下のA組のレベルを下げるわけにはいかねえからな」

天下のA組、というのもおかしな言い方だが、この学校のクラスはすべて成績順になっているのだ。まあ、そんな進学クラスの担任をこんなホストのような男にするなんて、と疑問だったが、どうやら根は真面目らしい。

「おっと、もうこんな時間か」

キラリと金色に輝く時計を見ながら、藤堂先生が立ち上がる。手には名簿が握られていた。

「そろそろ教室行くぞ。あ、山田先生、自己紹介の時間はなるべく短くしてくれ。勉強の時間が減る」

何気にひどいことを言って、藤堂先生は立ち上がり扉へ向かう。俺は慌ててその後を追った。









「藤堂先生、昨日の入学式にいませんでしたよね?」

「ああ」

教室までの道のり、前を歩く先生に尋ねると、案の定肯定の言葉が返ってきた。

「どうしてですか?」

俺がそう言うと、急に藤堂先生が立ち止まる。俺は意味が分からず彼の顔を覗き込んだ。

「──嫌いなんだ、入学式って」

彼の顔は、不快の色に染まっていた。

「どうして?」

聞いてばかりだな、と思いつつも質問することはやめられなかった。入学式が嫌いな先生って、たぶん絶対めずらしい。

「お前みたいなんには、一生わからない苦しみがあるんだよ」

「?」

しばらくしてから、藤堂先生はうんざりした表情でそうつぶやいた。当然彼のいうことは俺にはわからない。

「つか山田先生ってさあ…なんでそんな格好してんの?」

そんな、というのは妙に堅苦しいスーツのことだろうか。それともわざと顔を隠せるようにボサボサにした髪のことだろうか。たぶん、後者だ。

「俺には出来ねえなあ…」

答えを求めてなかったらしい藤堂先生は、俺の不恰好な姿を見て眉を顰める。まったく有り得ないことだが、なぜかその表情に羨望が見えた気がした。


「よし、ここだ」

藤堂先生は、がやがやと声の聞こえる教室の扉を指さした。その手をそのまま俺の頭にぽんとのせる。

「緊張すんなよ」

「………」

この人、仕草がいちいちホストっぽい。きっと女の人はコロっとやられちゃうんだろうな。
俺は藤堂先生にホスト先生というあだ名を勝手につけ、彼の後に続き教室に入った。














生徒との初対面は、最悪だった。別に生徒達が悪かったわけじゃない。ちょっとしたアクシデントに便乗して、響介様がとんずらしたのだ。
昔から、勉強の嫌いな方だった。仕事でよく家をあける旦那様、放任主義の奥様に変わって俺が根気よく勉強を教えていた。藤堂先生が今日から授業をすると言ったときの響介様の顔といったら、今から君達には殺し合いをしてもらいます、とでも言われたかのような悲壮さだった。

「藤堂先生すみません、小宮さんが…」

「何でお前が謝るんだ?」

職員室に戻る途中、俺はついつい頭を下げてしまう。けれど藤堂先生はあまり怒っていないようだ。良かった。藤堂さんは普段は喜怒哀楽の激しい人だが、一度教壇に立つと途端に厳しい顔になる。教育熱心な人だから、てっきりカンカンに怒っていると思っていたのに。

「山田先生は、小宮今日子をどう思う」

「え?」

想定外の質問に俺は答えられなかった。藤堂先生はその場で立ち止まり、真剣な顔をして考え込んでいた。まああんなサボり方をした生徒は初めてだろうから、気持ちはわからなくはない。ただあまりに注目されて男だとバレでも困る。俺は話をそらすことにした。

「藤堂先生、早く職員室に戻らないと新名先生に怒られます」

「新名〜? あんな奴ただ調子にのってるだけだっての」

そんなことを言いつつ、藤堂先生は早足で歩きだした。彼は歩き方もすごくきまっていて、周りの生徒達の視線をすごく感じた。

「でも、新名先生すごいですよね。あんな若いのに学年主任だなんて」

「何言ってんだよ、アイツあんな顔してもう40だぞ」

「ええ、嘘!?」

信じられない。どう見ても30代前半、いや20代でも普通に通る顔だ。40歳の肌じゃなかった。

「はー、人は見かけによらないですねえ」

「お前は見かけ通りだけどな!」

藤堂先生は、おもしろいものを見つけたとでも言わんばかりに俺の肩をたたき、ケラケラ笑いながら歩いていく。俺は慌ててその背中を追った。


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