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ストレンジ・デイズ
■異色な教師


それから3日後、入学式の次の日、俺は響介様と共に最神学園へと足を踏み入れた。俺も響介様も体力には自信があるほうだが、朝早くからの山登りはさすがにキツい。しかも俺はここ最近、最神学園と真宮邸を行ったりきたり、ハードスケジュールだった。体はとうに疲れきっている。




「ではキョウ様、お気をつけて」

響介様に一通りの説明と注意をした後、俺はまっすぐ職員室に向かった。終始不機嫌だった響介様が、俺の話をちゃんと聞いてくれたか心配だ。

少し遅刻気味だった俺は、早足で廊下を突っ切っていた。廊下は下靴で、というこの学園の方針により、新調した革靴の音がやけに響く。けれど職員室の前ち立つ人物が見えた瞬間、俺の足は止まった。

「遅刻ですよ、山田先生」

「新名先生…!」

その教師、新名貴文(ニイナタカフミ)は鬼の形相で職員室のドアの前で立っていた。俺は一気に血の気が引いた。

「おはようございます、先生。昨日ぶりですね」

無理して笑顔をつくり、新名先生の様子をうかがう。

「いい加減にして下さい! 何が『昨日ぶり』ですか! 授業初日に遅刻なんて、あなたは教師としての自覚がたりません!」

「す、すみません」

その後は必死に平謝り。唄子さんにもらったメガネがずれた。

「ったく、何でこんな人採用したんだか…」

新名先生はそう小さくぼやいてから、俺の腕をとって職員室の扉を開けた。

「先生?」

「説教は後でします。もうすくホームルームが始まりますから──藤堂先生!」

新名先生は俺を引きずったまま、大声を出して手をあげる。彼に呼ばれた『藤堂』という教師がこちらに歩み寄ってきた。

「なんですか、新名先生」

舞台俳優のようなよく通った雄々しい声だった。けれど俺が顔をあげ藤堂先生の姿が視界に入った瞬間、絶句した。

「藤堂先生、こちらが新任の山田和希さん。山田先生、このふぬけた男が藤堂雅。1のAの担任だから、なんでも聞いて下さい」

「………」

言葉もなかった。その藤堂雅、という男はどこからどう見ても教職につく身とは思えない。ほどよく焼けた肌、ワックスで総立ちの髪、黒い細身のスーツ、下に着た青いシャツのボタンははずされていて、肌が丸見えだった。

「どうも、山田先生」

指輪が何個もつけられた手が差し出され、呆然としていた俺は無意識に握り返していた。

「じゃあ、後はよろしくお願いします。──山田先生、これで終わったと思わないでくださいね」

ぽかんと口を開けたままの俺に睨みをきかせて、新名先生は自分の机に戻っていった。

「相変わらず厳しいねぇ、新名さんは」

少しからかうような口調で、新名先生の後ろ姿を見やる。そして未だ唖然とする俺に視線を戻した瞬間、ぶっと吹き出した。

「藤堂先生?」

「おま…何そのメガネ…!」

どうやら俺の容姿がツボに入ったようだ。俺のことを指差しながら、腹を抱えてゲラゲラ笑っている。

「お前おもしろいなあ、教師には見えねえよ」

「そのセリフ、そっくりそのままお返ししたいです」

俺の反論を聞いても、ごつごつとした大きい手で自らの口をふさぐ藤堂先生。何がそんなにおもしろいのだろうか。

「お前の席、ここだよな」

やっと気が済んだのか、笑うことをやめた藤堂先生は俺の机のイスを引き、手で座るようにうながした。その行為はなんとも親切だが、見た目のせいでホストにしか見えない。

「どーも山田先生、初めまして。俺、藤堂雅。1年A組の担任」

「こちらこそ初めまして、山田和希です」

俺は向かい側のデスクに座った、藤堂先生にお辞儀する。先生と俺との間にはノートパソコンやら教科書やらがあり、彼の姿は顔しか見えなかった。


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