ストレンジ・デイズ □ そして、その日はすぐにやってきた。 怜悧達が来る日曜日、早起きした俺はまずは自分の部屋の掃除を完璧にして、可愛い妹を迎える準備を整えた。唄子も勉強する時間以外は、珍しく息抜きになると言って手伝ってくれた。その辺に置いてあった唄子の愛読書は全部クローゼットに隠したので、いつ妹が来ても大丈夫だ。 もうすぐ到着するというメールが送られてきてから数十分後、妹達を迎えにいった香月から食堂に来てほしいという連絡が入った。どうやら二人は昼食を食べていないらしく、食堂で腹ごしらえをしたいらしい。 夏休み中とはいえこの時間の食堂には部活で残った生徒がいるはずだ。俺は気が進まなかったが仕方なく食堂へと向かった。 「生でキョウちゃんの妹さんが見られるなんて、もーすごく楽しみ〜〜!」 「何でお前がテンション上がってんだよ」 頼んでもいないのに勝手についてきた唄子は俺と並び歩きながら浮き足立っていた。どうやら俺の妹にかなり興味深々らしい。 「だって顔は写真で見たことあるけど、本人に会うのは初めてなんだもん。キョウちゃんから話だけはよく聞いてたから、何か芸能人に会うみたいでさぁ。妹さん、あたしのこと知ってるかな!?」 「えー、お前の話とかあんましねーもん。ルームメートがいるのはわかってるだろうけど、名前まで覚えてねーんじゃねえの」 「もー、キョウちゃん数少ない友達の話しないでどうすんの! ま、でも今日覚えてもらえたらいいけど」 俺も乙香という余計なオマケがいなければもっと素直に喜べたのに。兄妹感動の再会に水を差しにきたあの女が憎い。 「キョウちゃんお兄ちゃんは来ないの!? ねぇ!」 「兄貴は遊びまくってるから家に殆ど帰ってこねーし、連絡もとらないから。まあ、あいつがこんな山奥までわざわざ来るとは思わねえけど。田舎にいたら確実に浮く」 「そっかぁ残念……。あたし的にはシスコンよりもブラコンの方が美味しいんだけど」 「お前の好みは知らん。てか怜悧の前で変態的な発言はやめろよ。あいつの耳が汚れる」 「失礼な。あたしだってそういう分別くらいはつくわよ」 いまいち信用ならないが、あの純粋で清楚な怜悧ごがこいつの不用意な発言ごときで毒されるとも思わない。それよりも心配なのがこの学校の野獣共だ。 「急ぐぞ唄子、怜悧達はもうついてるかもしれねぇ。香月がついてるとはいえ、男だらけで不安がってるはずだ」 「はいはい、まったくもう心配性なんだから」 俺は小走りになりながら廊下を突き進む。ようやく食堂についてすぐ、昼食中の男達がそわそわしていることに気がついた。奴らの視線を追うとそこにはいち早く俺に気づいて手を振る香月がいた。 「キョウ様〜ここですよーー」 「香月!」 俺が慌てて駆け寄った先に、椅子に座る美しい後ろ姿が見えた。顔も見なくとも美少女だとわかる妹を見て、数ヵ月ぶりに会えた嬉しさで足が震えた。 「お兄ちゃん!」 「怜悧…!」 振り返った妹の可愛い顔がスローモーションで見える。思い切り抱き付こうとしたその瞬間、横から思わぬ邪魔が入った。 「キョウくーん!」 「ぐはっ」 怜悧から引き離された俺は、抱きついてきた女に頬擦りされる。抵抗しようと暴れるも力が強すぎてされるがままだ。 「キョウくん久しぶり! いつぶりだっけ? 1年? 2年? 会えなくて寂しかったよ〜〜」 「く、くそ放せ乙香、俺は怜悧と……」 「乙香ちゃん、お兄ちゃんに会えて嬉しいんだよ。私よりも久しぶりだし、すっごく楽しみにしてたんだからね」 「そんなの知るか! どけ乙香!」 「キョウくん酷い! 私はこんなに会いたかったのに……」 ポロポロと泣き出す乙香の腕からようやく抜け出すことができたが、怜悧との再会が台無しだ。年甲斐もなく目を潤ませるオバサンを見て、唄子が俺に訊ねてきた。 「キョウちゃん大丈夫? この人誰?」 「え? ああ、こいつは俺の人生においてまったく関係のないただのおばさん」 「キョウ様、実の母親に向かって何てことを。すみません奥様」 「え!? キョウちゃんのお母さん!?」 香月の言葉に面食らった唄子は乙香をまじまじと見つめる。乙香はハンカチで涙を拭うと、唄子に笑顔を向けた。 「はじめまして、私は真宮乙香といいます。キョウちゃんのお友だちかしら。乙香でもおばさんでも好きに呼んでね」 [*前へ][次へ#] [戻る] |