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ストレンジ・デイズ



祐司の妻、そして俺を産んだとされる真宮乙香はめったに家にいない。よって参観日、運動会、クリスマスや誕生日などの行事に乙香の顔を見た記憶はない。1年に一回は気まぐれに家に帰ってきては俺達に会えることを喜んでいたが、正直俺の中ではたまに会う親戚のオバサンくらいの立ち位置である。おそらく他の兄妹達にとっても。


「ちょっとキョウちゃん、お母さんってどういうこと!?」

突然の母親登場に唄子が小声で訊ねてくる。あんなに会いたがっていた妹よりもそっちが気になるらしい。

「お母さんって確かあの、キョウちゃん達をおいて海外に行って絶縁状態だっていう……」

「そこまでじゃねぇよ。ただ一緒に暮らしてねぇだけで」

「冷えきった親子関係じゃなかったっけ!? すごく仲良さそうなんだけど?」

俺に冷たくされさた乙香を慰める怜悧を見てひそひそ訊ねてくる。絶縁はしていないが仲が良いかと言われるとそこは否定しておかなければならない。

「別に乙香の事は嫌いじゃねぇよ。好きでもねぇけど。でか、別にどーでもいい。何とも思ってない」

「冷めてる……予想以上に……!」

「毎回お土産くれるけどイマイチ趣味じゃないっていうか、食べ物も不味いし」

怜悧は比較的乙香に懷いているが、俺と兄貴は恐らく本当に何とも思っていない。乙香の方からも母親とは思わなくて良いと言われているので、お母さんなどと読んだことはもちろん一度もない。

「キョウちゃんはもっとお母さんに言ってあげればいいじゃない! 高校生なんて子供なんだから、親に甘えるべきよ」

「いや、俺は乙香に文句なんかねぇし」

「キョウちゃんはなくてもあたしはある! 今からでも遅くないから、もっと一緒にいてあげてって言いたい」

お前は俺の保護者かと言いたくなったが、こと乙香に関してどうでもいい俺は好きにしろとしか思わなかった。唄子の発言で乙香が傷つこうが家族の時間を大事にしようがどうでもいい。けれど乙香の事だから誰に何を言われても気にしないだろうとも思っていた。

「お兄ちゃん、ここのシチュー美味しいのね。後でシェフに挨拶したいわ」

「怜悧、お前に食べてもらえてこのシチューも喜んでるだろうよ」

「シチューが喜ぶってなに」

席に戻っていた怜悧が笑顔でそんなことを言うので俺がデレデレしながら寄っていくと唄子に突っ込まれた。うるさいお前は黙ってろと邪魔物を睨み付ける。

「ちょっと、この可愛い友達を紹介してよ、キョウくん。ほら、二人とも座ってちょうだい」

乙香に促されて俺は怜悧の隣に、唄子は乙香の隣に座った。俺は可愛い怜悧しか見ていなかったが、乙香は上機嫌で俺に話しかけてきた。

「まさかキョウくんがこんなに可愛くなってるなんて。私びっくりしちゃった。怜悧ちゃんから写真見せてもらってなかったら、絶対わかんなかったわよ」

「むかし俺と兄貴を間違えたくらいだし、そりゃそうだろうよ」

祐司が言うには定期的に俺達の写真を送るようにしているらしいが、乙香はどこにいるのかわからず音信不通であることが多いらしい。このご時世にそんなことあるのかとも思うが、自由を条件に結婚してもらった祐司はとことん乙香に甘かった。

「この子が同室の子なんでしょ? 理事長さんのお孫さんの」

「はじめまして、阿佐ヶ丘唄子と申します。響介くんとはいつも仲良くさせていただいています」

俺から乙香の悪評を聞いていたからなのか唄子の表情が硬い。色々言いたいことをぐっと我慢しているみたいだ。

「それで、二人はいつから付き合ってるの?」

「「……は?」」

乙香の言葉に俺と唄子が同時にフリーズする。想定外すぎる質問に衝撃を受けていた俺達の代わりに怜悧が答えていた。

「乙香ちゃん、二人は付き合ってなんかないのよ。ただの友達」

「えっ、でも同居してるんでしょ。それで何もないなんてありえなくない?」

「お兄ちゃんはまだお子さまだから、そういう発想がないのよ」

「へぇ〜〜。……この子大丈夫かしら。男として正常?」

「おい聞こえてんぞ」

本人を前にして失礼な話をするな。そして唄子を引き合いにして気持ち悪い話をするな。俺達の関係が気まずくなったらどう責任とってくれるんだ。


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あきゅろす。
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