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ストレンジ・デイズ



香月が出ていったあと、俺はなるべく香月に怒られない方法を考え、先輩に口裏をあわせてもらおうとした。遊貴先輩も意外と協力的で俺達二人は身を寄せあって相談しあっていたが、後ろから声をかけられたことで中断された。

「…キョウ! 大丈夫か」

「善! …と金髪の先輩」

「余目だっつーの」

善の表情から心配してくれてるのが嫌というほどわかってこっちがつらくなる。善が何か言おうとしてやめてしまったので、俺の方も何と声をかければいいかわからずお互い無言になってしまった。

「竜二、山田先生に会っただろ。あいつらどうなった」

なんとも言えない空気になった俺達の代わりに、遊貴先輩が余目に尋ねた。

「救急車呼ぶからあとは任せて寮に帰れってさ。俺らがここにいるとまずいから。監視カメラもうまいこと編集して、俺達が関わった証拠は隠蔽してくれるって」

「あの先生マジで何者だよ…。殴ったのは鬼頭なんだろ? あいつぶちこんでくれねぇかなぁ」

「あとで先生に頼んでみようぜ」

俺が呼んだだけの無関係な二人は他人事なだけにわいわいと話を続けている。俺と善はお互い気まずい雰囲気のまま何も言えずにいた。

「おい八十島、お前…」

「ゆーき先輩…!」

善に声をかけた先輩に、余計なことを言うなよと視線で訴える。俺が男だとうっかり口を滑らせたりでもしたら大変だ。

「あー…と、竜二、俺達はそろそろ戻るか。そもそも呼ばれたから来ただけで関係ねぇわけだし」

「でも俺は善と──」

「いいから、お前が一番余計なこと言いそうなんだよ。ほら、行くぞ」

「えええ」

気を回してくれたらしい先輩は余目をずるずると引きずっていく。俺は善と二人きりでその場に残された。

「…さっき、菘から連絡があった。阿佐ヶ丘さんが見つかったって。ガムテープで縛られてたけど、怪我もなくて元気だったらしい。キョウのこと心配してるってさ」

「そ、そうか。良かった…」

「他の仲間はいなかったらしいけど、逃げてたら分からないしなぁ。俺達が戻ってることは菘に言ってるから、すぐこっちに来てくれると思う」

唄子の無事がわかってとりあえず良かったが、性別バレという重大な問題が残されているのだ。唄子が知ったらきっとパニックを起こすだろう。

「…キョウ、樽岸先輩と仲良かったんだな。前にも一緒にいたりしてたけど、知り合い程度かと」

「え!? 全然仲良くねーよ。むしろ嫌いだから!」

今回の件に関しては最早頭が上がらないが、過去にされたひどい仕打ちが俺の中から消えることはない。これからも極力忘れたい人の一人だ。

「でも、キョウは困ったときにあの先輩を呼んだわけだし。俺は何も……ってごめん。キョウはあんなに酷い目にあったのに、そんなのどうでもいいよな」

「善…」

確かに、あれではまるで善は無理だけど遊貴先輩は信用できると言っているようなものだ。俺が善の立場ならショックだろう。
善に遊貴先輩との事を勘違いされたままでいたくなかったので、俺は頑張って誤解をとこうとした。

「あれは、違くて。そーいうのじゃなくて。俺はゆーき先輩のことは嫌いだけど、善のことは好きだし…や、変なこと言ったな。とにかく、俺は先輩より、善の方が何億倍も頼りにしてるし信頼してるから!」

なんとかわかってほしくて大袈裟なことを言ったが、善は唖然としながら俺を言葉を聞いていた。とにかく善の納得いくような説明をしようと俺は必死だった。

「あの時先輩を呼んだのは、あれ…あれだ、善に裸見られるのが恥ずかしくて……。そう、俺服着てなかったから。ゆーき先輩は男として意識してねーから全然いいんだけど」

ちょっと苦しい理由付けかもしれないが今の俺にはこれくらいしか思い付かない。納得してくれと思いながら善をちらっと見ると、奴は暗がりでもわかるくらい顔を赤くさせていた。

「そ、そうなんだ。ごめん、俺、気がまわらなくて」

「いやいや俺の方こそ、手間かけさせて悪い」

一応俺の事を女扱いしてくれている善はこの説明でわかってくれたらしい。しかしこの程度の話で赤面とは、ドン引きするくらいベッドの下にAVとエロ本を所持している男とは思えない純情っぷりだ。まさに性欲の化身。まさかこいつ、俺が男とヤるのやめさせたからたまってんじゃないだろうな。超まな板な俺ごときの裸でこんなに赤くなれるなんて、このエロエロ男子め。

「キョウ、危ない目にあわせてごめんな。これからは俺が絶対にお前を守るから」

「…ああ、ありがとう。頼りにしてるぜ」

そう言えば満足するだろうと思っての言葉だったが、善が予想以上に嬉しそうな顔をしたので、こっちが照れてしまった。そしてやっぱり、俺はこの友達が好きだと改めて思った。


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あきゅろす。
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