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ストレンジ・デイズ



「キョウちゃーん!」

「キョーコさーん!!」

しばらくの後、唄子と鬼頭が二人そろって俺の名を呼びながら寮へと戻ってきた。唄子は俺の姿を見るなり泣きそうな顔になりながら飛び付いてきた。

「うっ」

「無事で良かったよ〜! 一人にしてごめんね〜〜!」

「鬱陶しいから離れろ。お前こそ大丈夫だったのか?」

「え? ああ、あたしなんか縛って閉じ込めたらあとは放置よ。あいつらキョウちゃんが目当てだったんだから! ほんっとに許せない!!」

俺に抱きついたまま憤慨する唄子。そろそろ苦しくなってきたので唄子を無理矢理引き剥がした。

「ここ来る前に香月さんに言われて確かめたけど、あたしを閉じ込めた男は倒れてた奴らの中にいたしね」

「香月に会ったのかよ。あいつ何て言ってた?」

「先生からの指示があるまで何も言わないように、だってさ。だから皆、今日の事は他言無用、各々指示があるまでとりあえずは忘れるように!」

唄子が俺たち三人に向かって笑顔でそんなことを言う。お前はこのメンバーのリーダーか何かか、と俺は違和感を覚えつつも善達同様に頷いていた。

「キョーコさんを襲うなんてあのクソ男ども信じられない。怖かったろう。可哀想なキョーコさん」

「キレてるお前が一番怖かったけどな」

鬼頭が俺に抱きつこうとしてくるので唄子バリアを発動させる。唄子の背後から顔をだして鬼頭をじーっと見つめた。

「まあでも、唄子探してくれてサンキュー。まさかお前に助けられる日がくるとは…」

「ありがとう鬼頭くん。ガムテープはがすのに苦労させちゃってごめんね」

「キョーコさんのためならどうってことないさ」

二人して鬼頭に礼を言うと鬼頭は笑顔で返事を返す。少し見直したのもつかの間、俺にキメ顔でウィンクしてきたのでキモすぎて吐きそうになった。

「あたしはキョウちゃんに謝らなきゃね。こんな事件が怒ったのもあたしがボディーガードとしてまったく役にたたなかったからだし…。でも本当に何もなくて良かった」

「あの、そのことなんだけどな…」

「これで何かあったらあたしもう一生自分が許せないもん。でもキョウちゃんもこれに懲りてもう勝手な行動は控えるようになるわよね」

「う、唄子ちゃん、ちょっと俺の話聞いて」

「長い目で見ればこれで良かったのよ。あとは香月さんに任せておけば…」

「唄子っ」

俺は唄子のほっぺたを手のひらで挟み込み強制的に黙らせる。唄子の顔は見事に潰れてタコの口になった。

「な、なにしゅんの」

「今すぐ二人で話したいことがある。寮に戻ろう」

「? わかっひゃ」

一緒の部屋に住んでいる以上、俺のピンチは唄子のピンチだ。俺と唄子は善と鬼頭にお礼と迷惑かけたお詫びをして、逃げるように部屋へと帰った。








「…と、いうわけで、俺かなり今ピンチなんだけど」

寮の部屋に戻った俺が男達に性別がバレたことを話すと、唄子の顔は真っ青になっていた。唄子を落ち着かせるために俺はとりあえず冷静に解決策を話した。
俺を男だとバラさない代わりに、俺は奴らを訴えない。これが香月に任せた取引だ。うまくいけば、奴らは口をつぐんでくれるだろう。

「香月なら多分、どうにかしてくれると思う。だから大丈夫、なはず?」

「大丈夫って、そんなことよりももっと大変なことがあるじゃない」

「な、なに」

「樽岸先輩と余目先輩のこと!! 色々衝撃的すぎて流しそうになったけど、いつその二人に男だってバレたの!?」

「え…そこ…?」

「そこが一番大事でしょー! 何ですぐあたしに言わないの? 香月さんにも黙ってたなんて!」

まさか今日の事より遊貴先輩のことを責められるとは思わなかった。確かに今日バレたのは仕方ないかもしれないが、遊貴先輩の件に関しては俺が悪い…ような気もする。

「言ったらそうやって怒るからだろ…。大丈夫だって。先輩達と誰にも言わないって約束したし。現に今までバレてねぇだろ」

「それはそうかもしれないけど、結果的にそうなっただけじゃない」

「だとしても今それを言ったってどうしようもないだろ。香月だってもう知ってるし。これからはちゃんとお前達に話すから、それより病院送りにした奴らの方をなんとかしようぜ」

「……」

何をそんな偉そうに、と唄子の顔に書いてあったが一理あると思ったのかそれ以上責めてはこなかった。むすっとした顔で何やら考え込んでいる。

「とりあえず、香月さんの連絡を待ちましょう。どのみちあたし達にできることはないしね」

「おう」

これ以上責め立てられなくて良かった。あからさまにホッとしている俺に唄子がぴしゃりと言い放った。

「言っとくけど、今日は散々酷い目にあっただろうから、何も言わないであげてるだけなんだからね。ほんとうならこれの三倍は怒ってるんだからね。二度と隠し事はしないでよ!」

「わかってるよ、うるさいなぁ」

結局その日の夜、香月から連絡がくることはなかった。俺の方から連絡をとろうかとも思ったが、邪魔になっても悪い。すっかり大人しくなってしまった自分の思考に、意外と今夜の事にショックを受けているのだとわかってさらに落ち込んだ。


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あきゅろす。
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