ストレンジ・デイズ
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男の言葉に俺はいよいよ焦った。俺の場合恥ずかしい写真を撮られるだけではすまないのだ。服を脱がされたら俺が男だとバレてしまう。
「やめろっ、頼むそれだけは…!」
「おい、暴れんなっ」
「いやマジで! これガチで駄目なやつだから!!」
無理矢理シャツを脱がそうとしてくる男達に必死の抵抗をする。あらん限りの力を振り絞って服を死守し、とにかく叫び続けた。俺達の帰りが遅ければ善と鬼頭が探してくれるはずだ。時間さえ稼げばまだ助かる可能性はある。
「くそ、こいつしぶとい…、おい、お前ハサミ持ってたろ。切れ!」
「っ…」
男の一人が手に持った鋭利な凶器に思わず身がすくむ。あれよあれよという間にシャツに切れ込みを入れられ無惨にカットされて、服がただの布切れになった。
「やめろ、離せ!」
「そんなこと言われてやめる奴いるかよ。早く脱がせ、下着も」
「…!?」
とにかく胸を見られないように隠していたが、三人がかりで押さえつけられてはもともこもない。ビリビリになったシャツと偽乳を作るためだけにつけていた下着を剥ぎ取られた。
「おい、何で…っ」
「嘘だろ…、こいつ胸ないぞ!?」
「おいおい胸ないって。そんなの今はどーでもいいだろ……」
「そーいう事じゃねぇよ! こいつ、女じゃねぇんだ!」
男の悲鳴に近い叫び声に目の前が真っ暗になる。バレてしまった。遊貴先輩とその友達にバレたのとはわけが違う。名前も知らない相手に男だとバレたのだ。
「はぁ? そんなわけねぇだろうが……ん!?」
「ぎゃあ!」
訝しげな男に突然股間を掴まれ叫ぶ俺。ガッチリ握りこまれて俺も動揺していたが、それ以上に向こうが平静さを失っていた。
「嘘だろ…マジで男だこいつ!」
「女装してるってことか? でもちゃんと女子寮に住んでるし、女だろ?」
「こんなもんついてる女子がいるかよ」
「まさか学校も騙されてるんじゃ…」
「……」
言い訳のしようもなくまさに絶体絶命。無理矢理女で通すのももう無理だし、こいつらに黙ってくれと頼んだところで聞いてくれるわけがない。男が女のふりして入学なんて、逆ならまだしも下手すりゃ犯罪者にされそうなレベルの嘘だ。
終わった、と俺が思うのと同時にリーダー格の男が笑った。
「こりゃ都合良いじゃねぇか。何で女のふりしてんのか知らねぇけど、こいつが男だってバラせばこの学校にいられなくなる。こいつが消えれば荒木さんも八十島もまともに戻るだろ」
男の言葉に俺はなにも言い返せず項垂れた。もう何もかも終わりだ。俺はこの学校を追い出される。ここでできた友達も失って、彼らから非難の目で見られるのだ。それに俺は耐えられるのだろうか。
「証拠写真撮るぞ。ほら、早くぜんぶ脱がせ」
「なっ…はなせっ、くそ!」
暴れる俺を二人がかりで押さえつけ、目の前の男が携帯のカメラを向けてくる。俺はとにかく抵抗して逃げようとしていたが、最早逃げても無駄だということはわかっていた。
「大人しくしろ。おい、ハサミ使って大人しくさせ……ぐあっ!!」
携帯をかまえていた男が一瞬で吹っ飛ばされて地面に派手に転ぶ。唖然とする俺達の前に現れたのは、今まさに男を蹴り飛ばした大男、鬼頭菘だった。
「お、お前……!」
すごい勢いで蹴り飛ばされた男は意識もなくピクリとも動かない。それを見た他の二人は恐怖のあまり俺のことなど吹っ飛んだらしく、少しずつ後ずさっていく。
俺はとにかく胸元を隠すようにうずくまり、顔だけあげて鬼頭を見た。暗がりで顔はよくわからないが、この金髪と身長は間違いなく鬼頭だ。
「や、やばい! 逃げるぞ…っ」
あとの二人が俺を置いて逃げ出そうとするも、鬼頭にたった数歩で追い付かれ、一人が頭を鷲掴みにされたかと思うともう一人に向かってぶん投げられた。二人がもつれて倒れると、拳を振り上げ容赦なく殴り始める。
「鬼頭……」
奴はなにも言わず、ひたすら男達を殴り続ける。表情も見えないので何を考えているかまったくわからない。すっかり意識のなくなった男達を見て思わず声をかけたが、奴は殴り続けるのをやめなかった。
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