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ストレンジ・デイズ



俺が連れてこられたのは体育館裏の茂みだった。この辺りは外灯の光が殆ど届かず、もちろん監視カメラもない。ここで何かあってもまず誰にも気づかれないだろう。

途中で一人合流して相手は男三人になっていた。暗闇に慣れた目は奴らの顔ををしっかり捉えていたがやはり見覚えはない。

「……唄子はどこだ」

奴らを睨み付けながら逃げる隙を伺う。壁際に追い詰められ身動きがとれない上に、唄子の安否も不明では従うしかなかった。

「お友達なら仲間が捕まえてるからな。逃げようとか、抵抗しようとか考えるなよ」

「無事なのか」

「無事じゃなかったらどうする?」

挑発してくる目の前の男に血管が切れそうになった。拳を固めながら奴を睨み付ける。

「あいつに何かしたら、お前ら全員ぶっ飛ばす」

「ははっ、仲良しだなお前ら。安心しろ、あんな地味女に興味はねぇ。お前が俺らに従えば無傷で返してやるよ」

「だったらさっさと目的言えっての」

「なんつーか、お前見た目は美女でも中身はまるで男だな」

女の演技も忘れて威嚇する俺を見て、男は吐き捨てるように言った。三人のうちのリーダーっぽい男が俺との距離を詰めてくる。

「小宮今日子、これ以上荒木さんをたぶらかすのはやめろ」

「…いや、たぶらかしてねーんだけど」

意味不明な発言が聞こえて俺は脱力した顔のまま項垂れた。馬鹿馬鹿しいとすら思っていた遊貴先輩の警告が現実になってしまったのだ。俺を助けてくれた荒木という男は本当にデフの中ではスターらしい。

「お前が入学してから荒木さんはすっかり平和主義になっちまって、まるで別人だ。俺達にお前を守るよう命令して、挙げ句の果てには新しくきた風紀のもやしみたいな教師と友達みたいに仲良くしてる」

「何それ、俺とそのもやし教師に嫉妬してんの?」

「ちげーよ、このクソ女。一秒と黙ってらんねぇのか」

この荒木の信者達は、完全に俺を敵とみなしてる。確かにあの荒木とかいう男は綺麗な面をしていたが、まさかこいつらも全員ホモで荒木が好きなのだろうか。この美女を前にしてこの態度では、そっち系だと言わざるを得ない。

「最近じゃ荒木さんは頼りないってんで、市浦をトップにしろなんていう奴まで……ありえねぇっつうんだよ。それもこれもみんな、お前のせいだ」

「はあ? 俺は荒木と話したのは数回だし、自分から声かけたことはねぇ。あいつが俺を好き? だと思ってるみてぇだけど、お前らの勘違いだろ。それでも俺に難癖つけるなら、具体的にどうすればいいか言え」

俺の方に誘惑してるつもりは一切ない。もし荒木が仮に俺に惚れていたとしてもそれは向こうが勝手に盛り上がってるだけの話だ。

「簡単だよ。あんたいっつも副会長にまとわりついてるし、あのロン毛優等生が好きなんだろ。だったらそれを荒木さんに伝えて、自分の事は忘れろって言ってくれりゃあいい」

「どこの自意識過剰女だ。俺は荒木に告白されてねーし、別にまとわりつかれてもねーし」

「いいから言えっつってんだよ」

男の低い声色に、俺はそれ以上反抗するのをやめた。

「わかったわかった。お前ら、こんなことを言うために俺と唄子を捕まえたのか?」

要はその気がないならさっさと振ってやれということなのだろうが、別に真夜中に唄子を人質にとってまで言う内容なのだろうか。校内にいる俺をテキトーに呼び止めて脅せば良いだろうに。荒木に対して感謝の気持ちこそあれど、仲良くなりたいと思っているわけではないのだから。

「仕方ねぇだろ。ただでさえお前の見張りの目は多いんだから」

「何で今夜俺らが外出してるって知ってたんだよ」

「談話室でてめーらが騒いでたろ。それ聞いたやつが、俺らに親切におしえてくれたんだよ。だから隠れて様子を窺ってた」

「……」

確かに善に誘われたとき周りに何人かいた気がする。そいつらもそいつらで騒いでいたから気にもしてなかったが、迂闊だった。

「それから、荒木さんだけじゃなく八十島にも言えよ」

「はあ? 何でそこで善が出てくんだよ。俺達はただの友達で…」

「だったら友達もやめろ。いいな」

「っ……」

荒木はともかく善から離れるつもりはまったくなかったが、ここで反抗してもどうしようもない。とりあえず奴らの顔は頑張って覚えたし、今は素直に頷いておいて後で香月に相談しよう。

「全部お前らの言う通りにするから、もういいだろ。早く唄子と俺を解放してくれ」

「駄目だ。俺達は顔を見られてるし、このまま帰してもお前は俺らのことチクるだけだろ」

「な…」

二人の男が俺の手首を掴んで拘束する。目の前にいた男はポケットに入っていた携帯を取り出して、俺に向けた。

「さっさと服を脱がせ。二度と俺達に逆らえないように、脅しのネタになるような写真撮るぞ」


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